第二十八話 突撃!敵のアジトへ。
波乱の予感がする。そんな曇天が頭上に広がっている日にわたし達は魔法学園の理事の一人、ジェリコ・ヴラドの屋敷前に来ています。
集まったメンバーはエース様を筆頭にわたしの顔見知りが多いです。
というのも、お姉様の周囲に集まるのは有能だったり何かの分野に突き抜けている人が多く、わたしもその一人だったりします。
「事前に打ち合わせた通りにアリアくんはエリスと後方からの支援を頼む」
「はい」
荒事担当は男子組が引き受けました。
王子自らが最前線に立つのはどうかと思いますけど、王子より強い人の方が少ないし……という理由です。
「任せておけ。エリス姉には指一本触れさせん」
「あらあら」
もう一人の王子はエリスさんを守る騎士のような事を言っていますが、わたしは?わたしは守ってくれないんでしょうか?
……え?お前は十分に強いから守る必要が無い?
なんでしょうかこの差は。
それと、エリスさんは闇魔法と水魔法でかなりエゲツない戦い方するんですよ。暗闇で不意打ちされたら対処不能な練度ですよ。きっとあれで敵対人物を何人か消してますって!
そんな事を考えているとエリスさんがわたしを見てにこやかに微笑みました。
はい、この話は終了です。
「僕は全体のサポートに回ります」
クラブさんは風魔法で周囲の音を拾ったり、ジャック様の火魔法を風で強化したり、武器を使った場合の戦闘訓練も受けているので隙なしです。
伯爵家の人間でありながら王子の側近をしているのは間違いなく実力によるものです。
そうなるとこのメンバーの中で一番の足手まといになりそうなのはわたしですね。
光魔法は威力も高いので使う場所に制限がありますし、武術の心得も無いので魔力切れになればそこまでです。
ただ相手のジェリコ・ヴラドが闇魔法を使うので、その対抗策として光の巫女であるわたしが選ばれました。
その事には何の戸惑いもありません。むしろ誘われなかったら自分から志願するつもりでした。
あの日、早朝にお姉様がマーリン先生の元へ運び込まれたと聞いてわたしはマーリン先生のお屋敷へ急ぎました。
呪いの類であればわたしの力が必要だったからです。
ベッドの上に横たわるキャロレインさんは闇魔法のような何かのせいで意識が戻りませんでしたが、特に外傷なども無くて光魔法による癒しと調合した薬による回復を待つ状態でした。
それよりも酷かったのがお姉様でした。
お姉様を連れ出したシンドリアン皇国のシンドバット皇子が言うには魔力切れの状態で無理して戦い、あまつさえキャロレインさんにかけられた魔法を肩代わりしたというのです。
その結果、お姉様の体はいくつもの怪我や呪いが重なりあってわたしの力でも助けれるかどうかといった所だったんです。
そしてあのマーリン先生の悲痛な表情は、見てしまったわたしの方が冷静になるに十分でした。
あの場にいた誰よりもお姉様の身を案じて必死に、懸命に治療にあたっていました。
シンドリアンの方々に怒りをぶつけるジャック様やあまりのショックに気絶してしまうソフィアさんと、お屋敷内の雰囲気は最悪でした。
エース様もいつもの余裕な姿は無く、わたしと一緒に光の魔力で少しでもお姉様の助けになればと手当てしていました。
状況が変わったのはその数日後で、身の毛がよだつような黒い闇の力を感じたと思ったら、お姉様の影から小さな子どもが現れたのです。
あの虚無のような目で睨まれた時は心臓が止まるかと思いました。エース様が庇うように前に立ってくれなかったらわたしは今頃……と考えるくらいに。
お姉様に敵意は無く、むしろ心配するような素振りでした。
謎の子どもから爆発的な黒いモヤが発生すると、呪いは取り除かれてそのまま呪いの塊を飲み込んでしまいました。
おかげでお姉様は助かりましたが、わたしにはアレが良いものだとは思えません。
わたしの中の何かがアレは敵だと訴えかけるのです。
お姉様のことをママと呼んだ時はマーリン先生の胸ぐらを掴んで厳しく問い詰めましたが、結局よく分かりませんでした。
またお姉様のいつもの規格外な行動という結論で落ち着きましたが、きっとあの子がわたしがお姉様から感じていた嫌な空気の正体だったんでしょう。
マーリン先生はお姉様の護衛としてお屋敷に残りました。
戦力的にはこちらに付いてきてもらうとありがたかったですが、先生の心境を考えるとお姉様の側を絶対に離れたくは無いでしょう。
代わりの助っ人も紹介してもらいましたし。
「儂はどう動けばよいかの?」
「理事長はご自由に。俺が指揮するよりそちらの方が良さそうですから」
「ではそうさせてもらおうかの。……やれやれ、厄介な事になったもんじゃ」
ご自慢の髭を撫でて悩むのはアルバス・マグノリア理事長。
マーリン先生の代理には十二分な実力の持ち主で、この国で知らない人はいない大魔法使い。
そんな人が自らやって来る時点で、この事件は生徒達だけの問題じゃない。
魔法学園。いや、国の安全がかかっている。
「これが最終確認だ。今からヴラド邸に突入し、今回の事件の黒幕と思われるジェリコ・ヴラドを拘束する。他にも追放されたはずの元シザース侯爵家令嬢のベヨネッタがいると思われる。どちらも油断ならない相手だ。気をつけて作戦にあたってくれ」
その場にいる全員が頷き、作戦は開始される。
マーリン先生が現在住んでいるお屋敷よりも広いその場所は入口の門からお屋敷までちょっとした距離がある。
エリスさん達の調べだと、キャロレインさんがジェリコ・ヴラドに連れて行かれた以降、この屋敷から出ていないとか。
学園側には体調を崩したため暫く休むと連絡があったそうですが、怪しい。
「よし、行くぞ」
合図と共に魔法で門を開いて中に侵入します。
バラバラにならないように集団で進むと、庭に置いてあった石像達の目が光って動き出しました。
「防衛装置のゴーレムじゃの。侵入者対策のセキュリティはしっかりしておるようじゃ」
暢気に解説しないでください理事長!
石像達はそれぞれが腕に剣や斧を持っていてわたし達に襲いかかります。
「こんな石の塊。オレ様の炎で!」
先陣を切ったのはジャック様。
火魔法による攻撃がゴーレムに命中して爆発します。
「やったか!?」
「それ言っちゃダメなやつです!」
お姉様がよく言うフラグを建てた第二王子のせいか、煙が晴れるとそこには殆ど無傷の石像が。
「どうやら魔法障壁も展開するようじゃな」
「石で出来ているから剣でも斬れそうにないですね」
防御力もあり、魔法への対策も済んでいる。
黒幕の元に辿り着く前にこれをどうにかしないといけない。
後の事は忘れて全力で魔法を使えば倒せない事はないけど、それでわたしが魔力切れになるともし何かがあった時に対応出来ない。どうすれば……。
「倒そうとするから悩むんじゃよ。ほれ、」
立ち止まる一同とは別にマグノリア理事長が杖を構えました。
するとゴーレム達の足場が変化し、地面が砂状になりました。
わたし達に近づこうとしたゴーレムは自身の重さに耐えきれずにズブズブと全身が沈み、頭まで埋まると動けなくなってしまいました。
抜け出そうとしても砂では踏ん張りが効かずにジタバタするだけです。
「足止めだけならこういう手もあるんじゃぞ?」
余裕そうに話す理事長。
やっぱり魔法を極めた頂点に座っているだけあって素晴らしい戦い方です。
魔力の流れも、魔法のスピードもわたし達より格上でした。
「ほれほれ、どんどん来たぞい」
警報音が鳴るお屋敷の方からは次々と警備のためのゴーレムや獣達が近づいて来ました。
ここからが正念場。
なんとしてでもお姉様をあんな目に遭わせた連中を必ず捕まえてみせます。
相手を許せない気持ちになったのはわたしも同じだからです。
「やぁ!」
わたしは勇ましい掛け声と共に迫りくるゴーレムに特大の光線を放つのでした。
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