第79話 スタンドアップ、レディーゴー!
「俺達の周囲には仮面の連中は少ない」
「エリちゃん先生を含めた教師陣は会場内の別の場所にひとまとめにされています」
残りの生徒達はいくつかのグループに分けて監視されている。
私の所にはエース、アリア、クラブ達も一緒だ。
「この連中さえどうにか出来れば後は自由に動ける」
「外への助けを呼ぶのは絶望的ね。警戒されているもの。となると、内側だけで制圧するしかないわね」
「人質さえいなければこっちのものですね」
私は毒の影響も少ないし、手足の自由を奪っているロープさえどうにかなれば戦える。
問題は敵の数。
隙を突いて一人か二人を倒せても、他の仮面が人質を殺そうとしたらそれで詰む。
派手な抵抗をすれば流石に私も殺されてしまいそうね。
「動くなら会場内の見張りをほぼ同時に倒すしかない」
「いくら私でもそれは無理よ」
講堂そのものを吹き飛ばすなら魔力度外視で爆発させてやるけどそうはいかない。
「俺とアリアくんも動く」
「貴方達、魔力については平気なの?」
理事長が言っていた。ジュースやワインに仕込まれた毒の効果は体内の魔力を乱して魔法の威力を無くしたり魔法が使えなくなると。
「飲んでないからね」
「エース王子が飲まなかったから飲んでません」
そうなの?
「俺はこれでも王子だ。学生主導で警備も薄いパーティーで差し出されたものは毒味役を通さないと飲まないよ。その確認前に事件が起きたからね」
ナイス警戒心!流石よエース!
あれ、でもジャックは……。
「ふんっ。グラスを渡してきたのが知り合いだったのでな。飲んだ」
「何やってんのよジャック!もっと慎重に行動しなさいよ!」
「面目ない」
ごにょごにょと言い争っているけど、全部小声だ。
聞かれちゃマズイからね。
「僕とソフィアも飲んだ」
「
身内で無事なのは私、エース、アリアの三人だけか。
私なんて口に含んで飲み込む前に吐き出したからね。……偶然だけど。
「会場内の敵は十人かしら?」
「人質に対しては少ないけど、同時となると難しいね。
俺の魔法でも二、三人が限界だ」
アリアなら武器を持った相手にも勝てるけどまだ足りない。
「一人ならオレ様が受け持つ」
「毒で魔法使えないんでしょ?」
「そう言えるのも今のうちだ。オレが唯一エースに負けないものを教えてやる」
「剣ね。倒した相手から奪おうっていうのね?」
得意そうな顔で固まる第二王子。
「……エース、貴様か!」
「遺跡での一件を思い返せば誰でも思いつくさ。でも
その作戦ならジャックにも期待できるね」
「なら僕も。ジャック様程じゃないけど魔法無しでも戦えるよ!」
クラブが力強く申告してきた。
いつの間にそんな立派に成長したのよ。お姉ちゃん感激ね。
でもまだ足りない。何か使えそうなものは……。
「あの……お困りでしょうか?」
「貴方はFクラスの」
濡れたままのバーテン服を着た子がいた。
「見張りの仮面を倒せればいいんですよね?」
「ただの不審者じゃないわ。お金で雇われた傭兵だったりするのよ。生半可な実力じゃ、」
「うちの実家、武術道場をやっていて自分は免許皆伝されてますよ、シルヴィア教官」
え?なんか凄い子いたんだけど。
そういえば確かに、他のFクラスの子より根性あるし、弱音も吐かなかった覚えがあるけどそれって。
「欠けら程度の魔法しか使えませんでしたが、格闘戦や接近戦なら自信あります。二人程度瞬殺ですよ」
「殺さないようにね……」
集まったよ戦力。
どうにもならないと思っていたけど意外とみんな魔法使えなくても戦えるのね。
「ならばこの結ばれたロープをどうにかしないとな。くそっ、解けないな」
「それについてもご心配なく」
またもや自信たっぷりの黒光りFクラス君。
「アアアさん。出番ですよ」
「くっ。いい感じになった女子に見せてハートをゲットしようという作戦が!いけっ、ハム吉!」
かなりゲスな発言をしながらアアアと呼ばれた別のバーテン服の少年のポケットから灰色のハムスターが出てきた。
か、かわいい!
「ハム吉、王子達のロープを噛み切れ」
「チュウ!」
ハムスターとはいえ召喚獣。小さな身体で私達の周りを走って次々とローブを噛みちぎる。
こんな可愛いもふもふが欲しかったなぁ〜。エカテリーナはどちらかというと凛々しいからね。羨ましいわ。
「後は頼みますよ王子達。新入りもな」
手足が自由になった。ハムスターともう一人の彼には感謝だ。
そして、魔法使える勢は己の魔力を高める。
「タイミング合わせてね。一、二、三!」
三つ数えて、作戦班全員が動く。
近くにいた仮面へと突撃するのは黒光り、ジャック、クラブ。
その他の会場内に居る敵には魔法が襲い掛かる。
「しゃ!」
Fクラス君は体勢を低くして、一人目に飛び掛かり、バランスを失って倒れたところで腹部の急所へと的確で鋭い一撃をお見舞いした。
「王子、これを!」
そこから気絶した仮面から剣帯ごと奪い取ってジャックへと投げつけた。
飛んできた剣を素早く抜く。自慢するだけあって鮮やかな剣筋でジャックは二人目の仮面を斬り捨てた。
「クラブ!受け取れ!」
新たに増えた犠牲者から武器を略奪し、クラブは剣を構えるが、三人目は反応が速くて剣戟にもつれ込む。
「はっ!」
「やぁああ!」
一方で魔法使い部隊。
エースご自慢の光魔法の早撃ち。申し分ない威力の光弾が次々と打ち出される。さながら西部劇のガンマンスタイルね。
アリアは両手を対象に向けて二つの光魔法を同時に発動させる。
属性の違う魔法同士を同時に発動させるのはお師匠様や理事長クラスの怪物じゃないと出来ないけど、同一属性の魔法なら可能だ。それでも、魔力のコントロールや狙いを絞る集中力は使用者本人のセンスが問われる。
アリアなら大丈夫だけど。だって主人公っていう可能性の獣よ?
光弾。ではなく光線として放たれた二つの光は離れた場所にいた二人の仮面の男を飲み込んで吹き飛ばす。
杖を使っていないし、殺すのではなく無力化させるのが目的なので威力は控えめだ。
「私だって負けてられないわ」
使用するのは風魔法。よく使う風の刃だと首と胴体がおさらばするようなショッキング映像になるので、私は両手に銀のお盆を持って、それを風に乗せて投擲する。
フリスビーの要領で投げたお盆達は、弧を描きながら吸い込まれるように仮面をした顔面へと命中した。
「倒れた連中の捕縛と人質の解放を急ぐんだ!」
エースの指示で私達は自分が倒した相手を動けないように縛り付ける。
テーブルの上のナイフや、奪い取った剣で生徒と教師達のロープを断ち切った。
「無茶するねアンタらは」
「ご無事そうですねエリちゃん先生。理事長も」
「何かをするとは予測しておったが、全くヒヤヒヤしたわい」
その他もあちこちで捕われていた人質が解放される。
「先生達はみんなの避難誘導と外部への救援要請をお願い」
「アンタはどうするつもりだい」
「私はトムリドルを追います。それでお師匠様を救うわ」
「気をつけるのじゃぞ。JOKERの名を持つ以上、彼奴は強敵。加減などして勝てる相手ではない」
「えぇ。全力全開フルスロットルで迎え撃つわ」
一通り、人質を解放し終わった。
ただ、まだみんな毒の影響で魔法が上手く使えない。教師陣はなんとか発動出来ても威力は下位クラスの生徒以下、制御に失敗する確率だって低くない。
「シルヴィア、エース、アリア!ここはオレ様達に任せて先に行け。今は貴様らが頼りだ」
「姉さん。ソフィアやエリスさんは僕らが必ず守るよ」
騒ぎを聞きつけて講堂内へ戻ってきた新手をジャック達に任せる。
私達三人は講堂の扉を開いて屋外へと出た。
夜風が体に染みる。かなり寒い。
「シルヴィア。マーリン先生の居場所は?」
「今から探す。当てはあるの」
再度召喚陣を用意してエカテリーナを呼び出す。
「エカテリーナ。お師匠様が連れて行かれた場所を辿れる?」
お師匠様のワンちゃん達程ではないが、蛇だって嗅覚は優れている。おまけにエカテリーナは魔力反応を識別可能だ。
探す目当てになるのは毎度お馴染みのお守り袋。ソフィアが幼い頃に役立った私の髪の毛入りのだ。
「まだそれを持っていたのかい?」
「お姉様の髪の毛!それがあれば惚れ薬が……」
「アリアは後で覚えてなさいよ」
どうしてこうポンコツなのか。会場内で見せたカッコいい姿はどこへ消えたのよ。
エカテリーナは首を長くして周辺を嗅ぎ回ると、ある方向を向いて鳴いた。
「あっちね」
「先を急ぐ。召喚獣に乗ろう」
エースは獅子をアリアはユニコーンを召喚する。
私はアリアの腰に手を回して騎乗した。
「エカテリーナ。先導頼んだわ」
「シャー!」
こうして私達は喧騒が飛び交うダンスパーティーの会場を後にした。
待っていてね、お師匠様!今、私が助けに行くから!
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