第57話 女三人で姦しいですわ!
「それで、ほかに言い訳はあるか?」
「ございません……」
謝罪タイム。
図書館での一件がお師匠様にバレてしまいました。
私の知らないうちに、騒ぎが起こるとまず第一にお師匠様に通報が行くというシステムになっていたのよ。
「同行していた君にも責任があるぞアリアくん」
「深く反省してます」
連座でお叱りを受けるアリア。
一人じゃないから心細くないけど、巻き込んでゴメンね?
「確認したはずだが?異常事態があれば私に連絡するようにと。そのための魔道具だって渡してある」
「
毎日、肌身離さず持ち歩いている指輪。
これを使えば地下だろうと救難信号を送れる。
ただ、一度使うと壊れちゃうから勿体なくで使えないとは言えないよね。
「それで?他はどうなんだ」
「と、言いますと」
「君は七不思議が関連していると言った。あと六つあるのだろう隠された財宝は」
もしかしてお師匠様、結構ノリノリだったりする?
まぁ、大昔の人が作った凄い効果の魔道具だもんね。魔法馬鹿のお師匠様が興味を持つのも仕方ないわね。
「季節や条件的な問題はありますけど、今からでも回収できそうなものありますよ」
「ふむ……ならばシルヴィアの魔力の回復を待ってからにしよう。次は私も必ず同行する。約束を破るようなことがあれば修行がどうなるのか覚悟しておくといい。では私はエリザベス先生に呼ばれているので退出する。部屋の中は元の状態に整理整頓するならば好きに使ってくれて構わない」
仲間外れは許さないからな!と遠回しに言い残してお師匠様が出て行った。
研究室に残されたのは私とアリア、そしてもう一人。
「ふふっ。楽しそうなやりとりでしたね」
「笑えるのは教育的指導を受けていないからですわエリスさん」
丸ぶち眼鏡をかけた公爵令嬢が椅子に座って笑っていた。
視力もかなり回復してきて、お師匠様の作った魔道具の眼鏡で常人と変わらない視野が戻った。このままいけばダンスパーティーの時期には呪いをかけられる前と変わらないレベルになるみたい。
「どれだけ辛く、苦しい修行なのか……」
「マーリン先生って加減を知らないですよね。お姉様基準で人に指示しますからね」
「ちょっと待ちなさい。何か含みのある言い方したわよね?」
まるで私が異常だとでも言いたげね?
アリアもどっこいどっこいだよ。私は前世知識と7年のアドバンテージあるだけ。
「お姉様ってば片手でリンゴを握り潰してジュースを作るんですよ?信じられないですよね?」
「あれは調理道具が無かったから仕方なくよ。アリアだって似たようなことできるでしょ?」
「わたしは全力で集中して両手でやっとヒビが入るくらいです!」
あらそう?だったら私もまだまだ負けてないね。
ゲーム主人公と同等の力を持つシルヴィアなんてあり得ないから。これは私の努力と才能の賜物だわ。
「お二人があんなに強いのはマーリン先生のおかげですわね。
ちょっと落ち込んだ様子のエリスさん。
Aクラスに在籍していて、視力が回復しつつあった中間試験では学年トップクラスだって聞いたんだけど。十分に強いと思う。
「そんなに卑下しなくていいですよ。アリアが異常なだけでエースやジャックを見てください。普通に優秀なだけですから」
「お姉様は自分が中間試験で一位になったこと忘れてません?私よりお姉様が異常ですからね」
しーらない。
あの時は記憶が混濁していたし、自分でも怒りをコントロール出来なくなって暴走気味だったからノーカウントよ。
「私もマーリン先生に教えを乞う方がよろしいのでしょうか?」
「「それは辞めた方がいい」」
今日初めて二人の意見が一致した。
「オススメはエリちゃん先生よ」
「そうです。多少キツいですけど、引き際はバッチリですから。マーリン先生は倒れても起き上がれって手法なので」
「そうですか……」
私達の必死の説得によって犠牲者を未然に防ぐことができた。
被害拡大をさせないようにするのも弟子の役割よね。
「闇魔法だったら理事長に教えてもらうわけにはいかないんですか?呪いをかけた張本人だっていう疑いは晴れたわけですし」
「それは……理事長はお忙しい方だから時間が取れないと思うわアリアさん」
「それもそうでしたね」
アリアの思いつきに歯切れの悪い返答をするエリスさん。
そっか。呪いについては安心したけど、まだ学園側が
不穏な動きをしている件は解決してないのよね。
エリスさんはエースの指示もあって秘密捜査しているから怪しい筆頭の理事長に近づくのは危険だ。
お師匠様はエースからのお墨付きもあって目の治療もしてくれたから安心しているけど、公爵令嬢も大変よね。伯爵で良かったわ〜。
「そういえばお姉様。すっかり有耶無耶になって話が流れたかと思っていたんですけどぉ……どちらの王子とお付き合いされるんです?」
おま、ここでする話かそれ⁉︎
「いくら呪いや不穏な空気が流れているとはいえ、保留のまま数ヶ月経ってますけど」
「今はエリスさんの修行先について話していたわよね。どうしてその話を出すのかしら」
「だって、お姉様が酷い目に遭いはじめたのって王子達に告白されてからですよね?犯人はそれを妬んで犯行に及んだかもしれないからですよ」
アリアにしては真面目な事を言うじゃない。
でも、だからエリスさんの前でする話ではないはずよ?
「ぶっちゃけ、女の子が三人も集まったんだら恋バナをしましょうよ。さっきから魔法とか呪いとか物騒な話ばかりでしたから」
「それが本音なのね⁉︎私の思いに身構えた心を返しなさいよ!」
期待した私が馬鹿だった。
アリアが基本的にアホの子だって一番良く知っているじゃない。
悪役令嬢に虐められた翌日に平気な顔で新しい攻略キャラのフラグを建てに行く人物よ(風評被害。ゲームの場合はそう見えるだけ)
「エリスさんからも何か言ってあげて、」
「お茶とお菓子の用意をしましょうか?」
こちらは乗り気みたい。
いいの?貴方の師事する先を話し合わなくて他人の色恋沙汰に首突っ込むの?
「マーリン先生がこの辺にポットとティーカップを……」
「アリア。右の戸棚の下よ。お茶菓子は確か、クッキーかクラッカーが白い箱に入っていたはずよ」
手当たり次第に探そうとしていた彼女に指示を出す。
研究室自体が散らかっているが、これはお師匠様にとっては便利な配置に物があるので、悪化させて今以上に物を散乱させるのは遠慮したい。
「シルヴィアさんは随分と詳しいんですね」
「放課後や一人の時間はここによく来ますし。茶葉やお菓子だって私が買ってきたようなものですから」
一人で研究室に閉じこもると、お師匠様は途端にダメ人間になる。日の光を浴びないし、食事もいい加減になる。
他の教師や理事が来る場合もあるから来客用の食器やお菓子は切らさないようにしている。
「いつもシルヴィアさんとマーリン先生を見ているとお互いを大切に思っているのが理解できますわ。エースやジャックとはまた違う関係性ですものね」
「王子達は幼なじみというか、腐れ縁みたいなものだと私は思ってます。お師匠様は……親戚や保護者みたいな?」
アリアと一緒にテーブルの上の書類を端に寄せ、三人分の用意をする。
水道はあってもコンロが無かった。褒められた事じゃないけど、火魔法を使って湯を沸かす。
「お姉様はわたしにすら内緒の話をマーリン先生には話すんですよ?若い女子が一人で男性教師の元へ訪ねるなんて……ハァハァ」
お湯が沸いたついでに妄想で頭が沸いたアリアに火球を一発。
「危なっ⁉︎」
ちっ、防がれたか。
だがアリアの実力なら防げると思って放ったし、火花すら残さず消えたから問題なし。
「お師匠様はお師匠様よ。それ以上でもそれ以外でもないわ」
「お姉様。ジャック王子とマーリン先生。プレゼントをあげるならどちらから先に渡します?」
「お師匠様。ジャックは周りから色々と貰ってそうだけど、お師匠様は私からくらいしかプレゼント受け取らないし」
「なら次はエース王子と先生。手料理を振る舞うとしたらどちらへ?」
「それもお師匠様ね。エースって舌が肥えていて、手料理とか好みじゃなさそう。お師匠は私が作ってあげないと外食ばかりで偏った食生活になるから」
旅をしていた頃は大変だったなぁ。
魔法や魔道具製作、世間への知識では圧倒的にお師匠様が上だったけど、生活習慣については私が有利だった。
栄養もあって長持ちするからと、干し肉やドライフルーツだけしか食べないんだもの。新鮮なお肉もただ焼いて食べるだけ。
実家で何もしてこなかったのに、家事が一通り出来るようになってしまった。介護士かな私は?
「どう思いますかエリスさん」
「……これで無自覚ならジャックやエースが苦労するでしょうね」
私を置いて何かを話し合う二人。
聞こえないんですけど?内緒の話でもしてるの?
「シルヴィアさん。色々と聞きたいからもう少しお話しましょうね」
「あっ、はい」
さっきと同じ笑顔だったのに、今度は少しだけ鋭いモノを感じるのだった。
「というわけじゃが、責任はどう取るつもりじゃ?」
「あたしが全部背負うさね。もしもがあれば糾弾しな。他の連中もそれでいいさね?」
「……先生、それでは」
「あんたは黙ってな。実力はあっても新参者なんだ。今はここのルールに従うんだよ」
「では今後、シルヴィア・クローバーが暴走するようなことがあればホーエンハイム理事に責任を追求するものとする!これにて臨時理事会は解散じゃ」
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