第56話 地下大決戦ですわ!

 

 秘密の入り口から進むこと数分。

 ひたすらに薄暗い階段を降り続けたわ。

 火魔法を使うと酸素が薄くなるし、髪も痛むからアリアの光魔法に頼って正解だったね。


「急に開けた場所に出ましたね」

「ここが目的地よ」


 エカテリーナ数匹を縦に並べても届かない天井。

 立派な石柱で支えられた広間が地下にあった。


「地面の下にこんな場所があったなんて……」


 感心しながら周囲を探索するアリア。

 私はゲームで見た事ある背景だけど、無駄に広い場所よね?

 壁には一組の男女の絵が彫られている。女性の方は周囲にキラキラがあるから初代の光の巫女かもしれないわね。

 ここは国が誕生した頃から隠しアイテムが置いてある場所。図書館はこの場所を隠すために建設されたのだけど、長い時が経ってこの場所を知る者は誰もいなくなった。

 原作だとシルヴィアがアリアを薄気味悪いトイレに閉じ込めて水浸しにしてやろうとしたら入り口が開いたのよね。

 ……何やってんのよ私。しかもそのせいで自分が不利になるっていう。


「お姉様!広間の奥に不自然に置かれた宝箱が!!」

「それよそれ」


 いかにもって感じで置いてある宝箱。

 セキュリティがばがばじゃないの?まぁ、トイレを水浸しにしないと入れない場所だし、中身がスカスカでも問題ないのかな?


「勝手に開けていいんですかね?」

「持ち主も死んで時効よ。壁見て分かると思うけど、光の巫女に関係している場所だからアリアなら良いんじゃないかしら?」


 言い訳をして箱を開く罪悪感を減らす。

 無造作に置いてあるとはいえ、窃盗よねこれ。アイテムゲットって聞けば楽しいけど、実際は盗品を手に入れました!になるわね。

 貰っちゃうけどね!有効活用・死人に口無しよ!!


「じゃあ開けるわよ」

「はい!」


 二人で宝箱のフタを触る。


「「せーの」」


 期待に胸を膨らませて勢いよく開けた。

 鍵なんてかかっていなくて実にあっさりと中身とご対面することになる。


「……青い玉?」


 ボロボロの布が敷かれていて、その上にバスケットボールくらいの大きさの青い玉が鎮座していた。


「探し物はこれです?」

「いいや、違うわ。こんなんじゃないのだけれど?」


 変だなぁ?私が欲しかったのはこの宝箱に入っている手鏡だった。

 効果としては召喚獣や魔法を通して遠くを視認できる千里眼。こっそりと犯人を捜すのに使えると思っていたのに。

 なんで関係無い別の物が入っているのか?他にそれらしき容器は無い。


「これも魔道具かしら?」

「ちょっとお姉様。不用意に魔力を流すと……」


 実はこの玉の中に隠してあるパターンかもしれないと思って触れる。ついでに魔道具か確認するために魔力を流してみた。

 アリアが冗談半分で脅してくるが、そんなわかりやすいフラグなんて立つわけがない。


『侵入者。感知シマシタ』


 ブザー音と共に玉の色が青から赤へと変化した。


「お姉様ぁ⁉︎」

「フラグ回収早過ぎでしょ⁉︎」


 慌てて魔道具を遠くへ投げ捨てる。

 地面に転がった赤い玉は警報を鳴らしながら光に包まれ割れた。

 それだけで終わってくれればいいのに、何かが光の中から飛び出してくる。


「ゲコ……ゲコゲコ……」


 そのシルエットとに私は口をあんぐりと開いた。

 出現したのはカエル。緑色の一般的な色合いをした種類なのだけど、問題はサイズだ。

 10トントラックより大きい。人間なんて踏み潰して殺せるだけの質量を持った怪獣だ。


「ゲコ〜」


 しかも、それが私達を見て嬉しそうによだれを垂らした。


「お姉様今までありがとうございました!」

「バカ言わないの!戦うわよ!」


 スケールの違いにアリアが遺言を残そうとしたので軽くチョップして腕を引っ張る。

 捕食されないように距離をとって魔法で迎撃を!


「ゲコ」


 しかし、カエルはそれを許さなかった。

 ピョンと間抜けな音にもかかわらず私達の頭上を軽く跳び上がり、眼前に着地した。

 当然、重さで地面がにヒビが入って少し陥没した。


「……やっべ」

「どーするんですかお姉様⁉︎」


 そんなの私が聞きたいわよ!

 こんな図体してるのに素早くない⁉︎なんで先回りなんてしてるのよ!

 カエルは相変わらずよだれを垂らしてこちらを見ている。

 カエルって肉食だったかしら?よく見ると愛嬌ある顔してるわね貴方。


「ゲコォ!」


 先に動いたのはカエルだった。

 口を大きく開くと、飛び出してきたのはピンク色の舌だった。

 三メートルくらいの距離があったのに私達に向けて飛んで来たの。咄嗟にアリアを突き飛ばして回避した。


「助かりましたお姉様!」

「ぼさっとしてたら飲み込まれるわよ」


 中々、見た目の割に手強い。

 ヨダレや肌のテカリ具合から、粘液まみれにされそうな相手ね。

 肉食獣や昆虫類よりもタチが悪い。


「アリア。私に考えがあるから時間稼ぎお願いね」

「なるべく早く頼みますよ!」


 一言で私の意図を汲み取って一歩前へ出るアリア。

 彼女は杖を取り出すとカエルへと光弾を発射する。

 大して効果は無い模様だけど、間違いなく注意はそっちへ向いた。

 その隙に離れた私は制服のポケットから常に持ち歩いている白のチョークを手に取る。

 備えあれば憂いなしって言うけど、まさにこの事よね?


 地面は石畳だったのでチョークで線が引ける。

 描くのは大きめの魔法陣だ。


「ゲコォ!ゲコォ!」

「わぁ!ちょっと、危なっ⁉︎」


 次々と放たれる舌を掻い潜ってアリアが反撃する。

 半年前までただの村人だったとは思えない動きだ。いかにお師匠様式ブートキャンプが効果を発揮するかが分かるわね。


 そうこうしているうちに魔法陣が完成した。

 私が用意したのは毎度お馴染みの召喚陣。

 エカテリーナを呼ぶなら影に合図するだけでOKなんだけど、それだとあのカエルには勝てない。


「アリア!準備できたわ!」

「お姉様…っ⁉︎」


 安堵したせいで隙ができたからか、動きが鈍ったアリアをカエルは逃すことなく舌で丸めとってしまった。


「ゲコ〜」


 勝利宣言とばかりに鳴くカエル。

 そうはいかないわよ!

 私は両手を魔法陣に叩きつけ、全力で魔力を流し込む。

 回復したばかりなのに……と悪態をつくのは戦闘が終了してからだ。


 ぐんぐん体内から魔力が消費される。最初に召喚獣の授業の時に私は失敗してしまった。そこで考えたのよ。

 何故、きちんと発動する条件を満たしていたのに召喚に失敗したのか?答えは魔法陣の大きさにあった。

 教室にお師匠様が用意したのは獅子やユニコーンまでなら対応できるサイズだったの。

 過剰に込めた私の魔力だとキャパオーバーして発動しなかった。


 なら、それに耐えれる大きさなら?


「出てきなさい!エカテリーナァアアアア!!」


 呼びかけに応答するように光の柱が登り、中から見慣れた表皮の見たことないサイズの相棒が現れた。


「シャー!!」

「ゲコォ⁉︎」


 トラックサイズのカエルを飲み込まんとする大顎。全長はどのくらいだろ……余裕で乗れるわね。

 ここまでくると怪獣って呼んでいいんじゃないかしら?消費魔力はエゲツないけど。

 というか、無理に呼び出したせいで今でもガンガン魔力を吸われてる。


「エカテリーナ。さっさとケリをつけなさい」

「シャ!」


 短く返事をして素早く行動する相棒。

 カエルは跳んで逃げようとするが、獲物を前にしたヘビの瞬発力を舐められては困る。

 まずは牙で噛みつき毒を流し込む。強烈な毒は溶解液クラスになり肉が焼ける音がする。


「ゲコ…」

「きゃあああ!」


 力が抜けたカエルの舌からアリアが落下する。

 光魔法の威力は申し分無いけど、まだ私レベルで身体能力強化ができていないアリアが地面に衝突すれば怪我してしまう。

 エカテリーナにそのままカエルを絞め上げるようにアイコンタクトし、私は落下予想地点でアリアをキャッチした。

 お姫様抱っこする形になったのは背が低いアリアのせいだと思いたい。


「お、お姉様……」

「ふざける暇があったら自分で立つ。粘液でベトベトじゃない」


 目を閉じて唇を尖らせてきたのでそのまま地面に投げ捨てる。

 立ち上がったアリアと私の両手は生臭い粘液で汚れてしまった。

 カエルの粘液でベトベトになった美少女って需要あるの?


「ゲコォ⁉︎ゲコォ⁉︎」

「シャー!!」


 一方の怪獣大決戦もそろそろ決着が付く。

 毒を体内に注入され、動きが弱まったカエルにエカテリーナが巻きつき締め付ける。

 バキバキと骨が砕かれ、泡を吹き出したカエル。苦しもがきながら弱っていき、とうとう動かなくなった。


「シャ〜」


 絶命したエサを喜んで捕食し始めたエカテリーナ。

 久しぶりに大暴れしてお腹空いたのか、あっという間に丸呑みしてそのまま消えていった。

 私の魔力もガス欠ね。


「なんとか勝てたわね」

「もうなんか、エカテリーナちゃんだけで学園を支配できるんじゃないですか?」

「無理よ。あのままだと連れ歩けないじゃない」


 怪獣大決戦を間近で見て思ったけど、場所が限られるわね。

 ここは広いから問題無かったが、地上ですると建物に甚大な被害が出る。そしたら弁償しないといけないんだろうね。総被害額がクローバー家の資産より多くなりそう。


「あーあ、結局お目当ての物が手に入りませんでしたね」

「そうね。どこに行ったのかしら」


 宝箱に比べて明らかに真新しかった玉。誰かが後から来た人間を始末するために置いた罠の確率が高い。

 だとすると、既に隠しアイテムを誰かが所持していることになる。

 主人公が使ってチートになる物を別の人物が持っていると考えると恐ろしいわね。

 そうなると疑問に思うのは、ゲームだとアリアが見つけるまで誰も知らなかったこの場所をどうやって知ったのか?七不思議の正体に気づいたとでもいうの?


「お姉様。難しい顔してますけど、まずはお風呂に入りません?」

「そうね。お師匠様にも報告するとしてシャワーを浴びたいわ」


 考え事をしようにもこの不快感だとまとまらない。

 私とアリアは元来た道を歩いて地上に戻るのだった。









 なお、トイレを水浸しにしたのと臭い粘液で床を汚した罪で司書さんからお叱りを受けました。

 疲れたんだから勘弁してよ!!









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