第55話 図書館へ行こう!
原因はさっぱり不明。だけど属性が増えたことは喜ばしい。
「お姉様。くれぐれも使用は控えてくださいね?」
「何度も聞いたわよ。人前で使わないってば」
アリアと一緒に行動しているけど、これは監視されているの間違いでは?
闇属性に目覚めた私だったが、指導してくれる先生がいないし、理事長はグレーゾーンでお師匠様からの許可が下りなかった。
エリスさんに習うという案は彼女が完全復帰してからになりそうだ。
「それでお姉様。今日は一体どちらへ?」
「図書館にちょっと用事があってね」
包帯はほぼ取れたし、魔力も大方回復した。
不気味なくらい犯人からの干渉も無かったが、そこは複数人での行動に警戒しての反応だろう。
エースが学園内にいる内通者やエリスさんのようなスパイに依頼して情報を集めている。
学園内って王族の威光や権力が届きにくい場所だけど、常に監視の目は光らせているのだとか。
自治権こそあれど国の領地。独立なんてさせないぞというのが王族の意見だ。
「わたし、図書館って行ったことないんですよね」
「アリアはあまり本を読まないものね。魔法の勉強だって実践の勘でやり遂げるし」
「君は感覚派だ!って言われましたよ」
私は小説や図鑑系を読むのが苦じゃないので暇つぶし用に借りたり、街中の本屋さんで買ったりする。
魔法に関する書籍や論文は全て学園の図書館に収蔵されているので、そこを利用して自主的に勉強もしているの。
こう見えて秀才なので私。アリアのなんか真似したら出来た!は反則よチートよ。
元々の固定観念が無くて素直だからスポンジみたいに吸収していく。
「図書館に行くのは分かりましたけど、何の本を借りるんです?」
「闇魔法についてと属性が途中で増えた事例があるかどうか。……あとは着いてからのお楽しみね」
「お姉様が勿体ぶるって嫌な予感がします」
身震いするアリア。勘が良いわね。
本を借りたいのは間違いないのよ。自主練で闇魔法が少しでも使えるようになればそれで良し。属性については元々が特殊な事例で魔法使いになったから他にも同じ症状の人がいたかどうか。……これはダメ元ね。
最大の目標は図書館の中にある。
ここ最近は傷を癒すためにお師匠監視の元ベッドの上で色々と考えて過ごしていたの。
きな臭い流れだし、犯人を突き止めたら戦闘を避けられないかもしれない。かといって今の私が勝てるかどうかは不明だ。万が一はお師匠様が負けるかもしれない。
そこで思い出したのだ。この学園が【どきメモ】の舞台であるならパワーアップ用のアイテムがあることに。
久方ぶりにゲームの情報をまとめたノートを取り出して確認した。エースからの告白以来、開いていなかったから驚きよ。
ここには七不思議があって、その全てが何かしらのアイテムに関連しているの。ゲームではシルヴィアじゃなくてアリアを操作して探していたから手に入るか分からないけど、今日はそのアリアも一緒にいるから大丈夫でしょう。
その中の一つが図書館に眠っているのだ。
「着きましたよ」
「青い鳥様々ね」
案内用の鳥さんに連れられて来たのは大図書館。学園の中でも最初期に建設された場所だと言われている。
全生徒や教師が利用するだけあってとても巨大な場所だ。
東京ドーム一個分くらいあるんじゃないかしら?地方在住だったから行ったことないけどね。
本棚は高くて、一番上の棚を見るには脚立を借りてこないといけないし、日々本が増えているから司書さんでも全部を把握しきれていない。
特殊な建築方法のため増築も出来ず、本の収蔵量は満杯。数年後には別館を建築予定しているくらいの規模だ。一生かかっても読みきれない本好きには堪らない場所ね。
「おい、あれって」
「目を合わせるな。からまれたらどうすんだよ」
何十人もの生徒が中にいる。こちらを見て慌てて目を逸らす人もいた。
縦ロールとの模擬戦の話は他学年にも伝わっているみたいで上級生らしき人達も私から逃げるように去っていった。
「お姉様。少し文句でも言いに行きましょうか!」
「そんな事しなくていいわ」
「でも、勘違いされたままでみんなから怖がられるのって」
「私はアリアや親しい人達が理解してくれていればそれで良いのよ」
こんな見た目だし、闇魔法まで使えるようになったのが知られたら恐怖の象徴でしかないでしょうね。
だけど、それでも私を慕ってくれている人はいる。心配してくれる人だって。
そんな人のために私は頑張りたい。自分を曲げて媚を売るように仲良くするのは違うと思うし、Fクラスの子達も仲良くしてくれる。
他人からの評価なんて気にしないわ。
「やっぱりお姉様はカッコいいですね」
「もっと褒めてくれてもよろしくてよ?」
口に手を当て高笑いでもしようかとすると、咳払いが聞こえた。
どうも声量が大きかったみたいね。静かにしまーす。
「おやおや。アリアさんとシルヴィアさんではないですか」
「あっ。トムリドル先生」
「ごきげんよう」
スカート摘んであいさつする。
数冊の本を抱えて近づいて来たのは毛髪の薄いエリちゃん先生の側付きだった。
「トムリドル先生、風邪ですか?声の調子が悪そうですけど」
「えぇ、まぁ。この所は体調も悪くてですね。こうやって薬のレシピを探しに来ているんですよ」
青い顔で乾いた笑みを浮かべる先生。
本当に辛そうならお師匠様に相談しようかな?でも、この人ってあまりお師匠様と仲良くないんだよね。
確か、そんな話をしたようなしてないような。
「私の事はご心配なく。貴方達が揃って図書館なんて珍しいですが、何かお探しなんですか?」
「はい。お姉様が借りたい本があるみたいで。それと、何か企んでいるみたいですけど」
「企むは余計よ。別に悪い事をするつもりはありませんわ」
ただここに眠ってるアイテムを取りに来ただけ。
見ようによっては泥棒っぽいけど、隠しアイテムだから誰の物でも無いわよね?最初にゲットした人に所有権があると思います。
「そうですか。ですが、ここは静かに過ごす場所ですので騒ぎを起こさないように」
「「はーい」」
釘を刺されたので大人しく返事だけしておく。
「それとシルヴィアさん」
「なんでしょうか?」
「お身体の調子はどうですか?」
「全然元気ですわ。すっかり調子も良くて、心のトゲも無くなりましたし」
「……そうですか。では、私はこれで」
私達の前から去っていくトムリドル先生。
エリちゃん先生経由で事情を知っているから心配してくれたのかしら?
アリアは偶に薬の調合なんかでお世話になっているけど、私は二人きりで話したことなんて無かったから心配されるなんて思いもしなかった。
「さて、行くわよアリア」
頭の違和感を一旦放置して、目的を果たそうか。
目指すのは図書館の最奥に設置されているトイレ。
わざわざ図書館にまで来て目的地はトイレだなんてどうかしてると思う。
「ここですか?なんだか臭うし、不気味ですね」
「学園の中でも一番古い女子トイレだもの。普段ならみんな図書館の入り口に近い場所を使うわ」
正方形の苔が生えたトイレには個室がいくつかと、ど真ん中に石でできた円形に蛇口のついた手洗い場があるだけ。
「人目につかない場所………お姉様と二人きり………はっ!」
「はっ!、じゃないわよ。変なことしたら魔法で髪の毛をちりちりのアフロにしてあげるからね」
「もー、お姉様のいけず〜」
髪色ピンクで頭の中まで染まってるわねこの子。
こんな調子で誰か嫁の貰い手あるの?光の巫女なのよこれでも。
おかしな事しか喋らないアリアを放置して私は蛇口を捻って水を出す。余す事なく全ての蛇口を。
「……水が勿体ないですよお姉様」
「言われなくてもわかってる。これで良いのよ」
何してんだコイツ?とさっきまでの自分を棚に上げてこちらを見てくるアリア。
側から見たら奇行よね。でも、これは必要な事なの。
排水口から流れる量には限りがあり、ただでさえ古い手洗い場。数分もしないうちに水が溢れて床に溢れだした。
地面にできた凹凸に水が広がっていく。
「お姉様?このまま水浸しにしたら図書館の人から怒られますよ?」
「まぁ、見てなさいって」
靴の中に水が侵入して、靴下が濡れたのは残念だけど、ある一定量まで水が溜まるとゴゴゴ、と音がした。
音の発生源は個室の一つ。
扉にはボロボロになった使用禁止の張り紙が貼ってあるその場所を開くと、和式の便器が床ごと持ち上がって人一人が屈んで通れるくらいの空洞があった。
「……なんですこれ?」
「考えたわよね。一定量の水が流れ込んでその重さで浮き上がるんだもの。魔法的じゃない建築方法の隠し扉なんてワクワクするわ」
扉が出たら目的は達成したので蛇口を閉める。
しばらくもすれば水が引いてこの扉も自動で元に戻るからその前に入らなくちゃね。
「行くわよアリア!」
「待ってくださいお姉様〜」
学園都市の七不思議。壊れっぱなしの珍しい便器とカビ臭いトイレ。
洋式が一般的な世界で唯一ここだけ和式なんだけど、このゲームを設計したクリエイターは何を考えたのかしら?
美少女にトイレを潜らせるなんて考えられないわよ。
それでは、いざ出陣ね。
シルヴィア・クローバーと秘密の扉。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます