第58話 楽しい女子会でございます!
「んー、個人的にはお姉ちゃん大好きショタっ子も捨てがたいわね」
「お金持ちで悪事に手を染めていない人なら誰でも。わたしは見た目や年齢では決めません。イケメンにこしたことないですけど」
「お二人の言い分はわかりますけど、やはり健気なワンちゃん系の弟が一番ではないでしょうか⁉︎」
研究室での女子会……?は続く。
初めのうちは気になる人や苦手な人の話だったのにいつからか憧れのシチュエーションや性癖についての話へとシフトしてしまった。
どうしてこうなった?
「お姉様は好みが多過ぎます」
「二兎を追う者は一兎をも得ずですよシルヴィアさん」
アリアはいつも通りだけど、まさかエリスさんがここまでグイグイ来るとは思わなかった。
庭園で話をする時は学園内の噂や魔法についてばかりだった。
今は側に誰もいないで話せているから、これが彼女の素顔だったのかもしれない。
「なんていうのかしら……私って今まで恋愛なんてしたことないから自分の好みがわからないのよ。アリアはあるの?」
「ありますよ。小さい頃は近所のお兄さんに恋してましたね。あの頃は歳上の大人ってだけでカッコ良かったんです。……まぁ、もう幼なじみの人と結婚してますけど」
驚きね。ゲーム開始は学園入学からだからそれ以前の幼少期は知らない。
忘れてたわね。普通の村娘って設定。
「エリスさんもそれくらいはありますよね?」
「ごめんなさいアリアさん。
「ご、ごめんなさい!質問したわたしが間違いでした」
申し訳なさそうに謝るエリスさん。
慌てて質問を取り消すアリア。
「公爵家ともなるとやっぱり大変ですわよね?クローバー家は玉の輿狙えとか、商人の子を婿入りさせろとか話してましたわ」
「貴族も結構俗物的ですね」
「当たり前じゃない。貴族なんて権力争いと見栄を張るのが大好きな人種なんだから」
我が家は比較的マシだったけど忘れてないからね。多重属性持ちだって判明した時の盛り上がりようは。
「カリスハート家は公爵ですからそんなに争うことは無いですわ。元が王族の分家なので付き合いは深いですし、とりあえずは家の格を落とさない程度であれば自由に行動もさせてもらえます」
「恋は自由じゃないんですね」
「貴族は血を残すことが使命ですから」
悩みなく、さも当たり前と答える姿は貴族らしく見えた。
私はちょっと抵抗あるかな。子供を駒や物扱いして結婚相手を決めるのには。
日本にいた頃の価値観が邪魔をしているせいなのだろう。
本来ならこうあるべきなのに。
「実はエースかジャック、どちらかと婚約するはずだったんです私」
「えぇ⁉︎」
それは初耳かもしれない。
「闇属性で女性ですから。王子は二人いるし、どちからと子供を作って闇属性を王族に取り入れようとしたのだと思います。王家は持っている属性の数や種類で継承権に影響がありますので」
属性の多さならばジャック。
しかし、エースは王家の成り立ちに関わる光属性持ち。
そのどちらかの子供に闇魔法が加われば鬼に金棒。
普通に欲しがるよね。
「まぁ、それもずっと保留のままこの歳になりましたけどね」
「どうして保留に?」
「勿論。シルヴィアさんのせいですからね」
アリアの質問にいじわるっぽく答えたエリスさん。
視線は私に向いている。
「7年間ずっと初恋を守り続けたんですよ。あの子達は」
「……そうみたいですね」
こんな魅力的で有能な人がいるのに旅に出た伯爵令嬢のお尻を追いかけるなんて見る目が無いわよね。
「あの王子達を射止めるなんて何をしたんですか昔のお姉様」
「ジャックをビンタしてエースにお説教したわね」
「それがどうして恋愛対象に⁉︎」
ほんとそれよ。マゾヒストだったのかしら?
「そこだけ切り取るからですわよ。ジャックは自分の傲慢さや甘えに気づかされた。エースは他人を頼ることや弟のためにしていた行動がいかに残酷なことだったかを教えられた……そう聞いていますよ」
「お姉様はそこまで考えていなかったと思いますけど」
失礼な!
カッとして手が出たのは事実だけど、心配だったのは事実よ。動機が自己保身のためだったけどね。
「私や周囲の子達はただ従ったり太鼓持ちをするだけでしたからシルヴィアさんの一声は初めて心に響いたのでしょう。それ以来は見違えるように賢くなりました。王族に仕える者として、あの子達の姉代わりとして改めてお礼申し上げますね」
ぺこり、と頭を下げたエリスさん。
そんなことされる身分じゃないのに私。
「お姉様が照れてる!これはレアな表情です。是非スケッチを……」
「べ、別に照れてなんかいないんだからね⁉︎」
やだ、顔が赤くなってきた。
怒られるのは良くあるし、持ち上げられたら鼻が伸びるけど、素直にお礼を言われるなんて中々ないから。
「その上で、シルヴィアさんのお気持ちを聞かせていただきたいんです」
「私の?」
「えぇ」
そう言ってエリスさんは立派に膨らんだ胸ポケットから手紙を取り出した。
中には高そうな羊皮紙に達筆な字で長文が書かれていた。最後には剣をモチーフにした有名な家紋が。
「城からです。そろそろ王子達の身を固めるように。もしくは意中の相手がいればその報告を……と書かれています。催促状ですの」
学園卒業時にはどちらが次期国王に相応しいかが決まる。
国民を安心させる意味合いではその時に婚約者が決まっている方が嬉しいのだろう。
催促という言葉があった。この前にも何通か似た文面が届いたのだろうか?
それでもエースとジャックは私の返事を待ち続けているね。
「王子二人からの求婚に驚いたことも戸惑っていることも承知しています。その上に呪いの件。……私が同じ立場だったら混乱もしますね。でも、その上でシルヴィアさんのお気持ちをお聞きしたいですわ」
恋バナの皮を被った国からの確認事項だったわけだ。
ここは正直に自分の胸の内を伝えよう。
「エリスさん。私はーーー」
数分経っただろうか。
窓こそあれど具体的な時間を確認するには廊下の時計を見に行かなくちゃならない。お師匠様に研究室に設置するように要請しよう。
「……なるほど」
話疲れて喉が渇いたのでティーカップに残っていたお茶を飲み干す。
静かに話を聞いていたアリアが気を利かせておかわりを注いでくれた。
「ありがとうアリア」
「いえいえ。エリスさんもいかがです?」
「いただくわ」
ここでカップの中身を満タンにするということはまだ話し合いは続くのだろう。
正直、吐露した内容が内容なのでこれ以上の言及をされると答えづらい。
「それがシルヴィアさんの出した回答ですか」
「えぇ。これでも結構悩みました。実家からはまだ手紙の返事が来ていないので暫定的ではありますけどね」
「お姉様はご両親の意見に従うんですか?」
「さっきエリスさんが言ってたでしょ?貴族は血を残すことが使命だって。内容次第ではね」
もうそろそろ返事が届く頃合いだ。
メールや電話が無い世界だからどうしても長距離は時間がかかってしまう。
当初の予定だと学年末にある長期休みで実家に帰って、その時に家族会議をした上で、二年生になったら返事をしようかと考えていた。
「告白の返事は早い方が良いんですよね?」
「はい。ですが、今のお話を聞く限りだともうちょっと先延ばししても良いかも知れませんね」
「あれ?急ぎじゃ……」
「なんだかんだ二人はアピールしようとやる気満々なのでもうちょっと競い合わせましょう。選ばれなかった子が落ち込んで荒れても困りますので」
エリスさんなりの心遣いなのか、それとも作業効率的な打算なのか。
答えは出かかったようなものなのに延長とは。
「お姉様。どうかお幸せに」
「いや早いわよ。まだ何も行動に移していないからね私⁉︎」
「私が選ばれなかったのだけが。それだけが心残りで残念だったんですけど、でも幸せならOKです」
「アリア?この国のルール的に女の子同士は結婚出来ないからね?どうして選ばれると思ったのか心配なんだけど」
「男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思いますよ」
「…………お、おぅ」
晴れやか笑みで爆弾発言するアリア。
それだと国が成り立たなくなるからね?ひっそりと一部の人達がその関係になるのは良いけど、この世界だとまだ非難の対象だよ。
ガチレズだった場合はゲーム進行が成り立つのかしら?フラグへし折らないと不味い気がしてきた。
「まぁ、冗談ですが」
「冗談を言うときはわかりやすく言おうね?さっきだと本気にしか聞こえないわよ」
「あらあら」
笑い事じゃないですよエリスさん。
この子、そっちの毛色が濃ゆいですからね⁉︎たまに貞操の危機を感じるんですよ!
「だけど、もう少し伸ばすとしても返事をするタイミングはどうしましょう」
「そうですわね。ダンスパーティーの時でよろしいのでは?あの場なら皆んなの注目もされるでしょうし」
「それは……恥ずかしいし、胃が痛くなりそうですわね」
公衆の面前で宣告とか公開処刑と変わらないじゃん。
「周囲へのアピールも考えるならそこがベストでしょうし、カップルの誕生数はあの場が一番多いので変ではありませんよ。現国王様も王妃様を選ばれたのはその時でしたみたいですし」
カップルの告白ラッシュに乗れば少しはマシなのかな?
ただ、両親と同じ場所なのにフラれてしまった側の心傷は大きそう。
「同じ人を好きになった以上、選ばれなかった時の心構えもしているでしょうから思い切ってフってくださいね」
「煌びやかなドレスを着た場所での告白。ロマンチックですね」
もうなんかダンスパーティーで決まりみたいな流れになったけどそれで良いのかしら。
アリアが一番目立つ、ゲームで最高潮のシーンを私が横から奪い去るような立ち位置になるけど大丈夫よね⁉︎
「えっと、その、とりあえず私が話した内容はしばらく秘密にしておいてね」
「勿論です!お姉様の恋心はこのアリアが命に代えましてもお守りします!!」
覚悟が重いよ。身の危険感じたら喋っていいからね?
「私も了解しました。お城の方にはもう少し待っていただくように伝えておきますね。それでも急がれる方がいた場合には……ね?」
手から黒いモヤを放出するエリスさん。
何するつもり⁉︎闇魔法の使用も辞さないってことですか⁉︎
「冗談ですわ。こういうやりとりを一度してみたかったんですの」
「エリスさんの冗談とか心臓に悪いので止めてください」
秘密捜査担当してる女スパイの嘘とか見抜けないから。
そうじゃなくても貴族の謀略の渦中でおっとり微笑むことが出来るから、肝が太いのは知ってる。
「もう疲れた……」
こういうツッコミは私じゃなくて男性陣のはずなのにどうしてこうなったのかしら?
寮に戻ったらクラブをからかってストレス発散しよう。
この後、私が女子会という名前の審問会から解放されたのは浮かない顔で帰ってきたお師匠様から追い出されるまで続くのだった。
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