第50話 わたしのターンですね!(アリア視点)
お姉様がマーリン先生の手でどこかへと運ばれて行きました。
保健室での話し合いの結果、お姉様に闇魔法による呪いがかけられている事は秘密にすることが決まったんです。
エース王子やジャック王子にはクラブさんが話をしてくれるそうで、わたしはソフィアに事情を説明しました。同じ、お姉様親衛隊として心苦しくはあったけど誤魔化せました!
お見舞いに行きたいですけど、いつまた呪いがかけられるかもしれないから体調が万全になるまでは面会謝絶とのことで残念です。
「大丈夫アリア?浮かない顔してるよ?」
「大丈夫大丈夫。心配しないで」
DクラスやEクラスの友達が気遣ってくれました。
学園だとわたしみたいな平民なのに魔力を持ってしまった人や商人や職人の子、貴族だと男爵家の子達と遊びに行くくらいには仲良くなりました。
それでもわたしの一番の友人であり憧れなのはお姉様だけです。
「それにしても凄い噂になってるよねぇ」
「ベヨネッタ様、まだ夜な夜なうなされているそうよ」
お昼休みの食堂でみんなが口々に話す。
中間試験での事件は既に学年内だけには留まらず、学園内全体に広まってしまった。
元からお姉様の評判は良くなかったけど、今回の一件でとんでもない事になってしまった。
「アリアは何もされてないよね?」
「前から言ってる通り、わたしは好きでお姉様の隣にいるし、何も悪い事はされていないって」
お姉様には感謝しきれないくらいの恩がある。
右も左もわからないまま学園に入学して、まぐれで最上位のAクラスに振り分けられてしまった。
当然、それを良く思わない人が多かったし、誰かに相談しようにも同郷や同じ平民の子はクラスの中にもいなかった。
寮だって家とは比べ物にならないくらい豪華な場所で、馴染めなかった。
そんな中でお姉様は正にわたしの憧れだった。
最初は街中で一人堂々と歩いている綺麗な人を見かけた。次に会ったのは振り分け試験。
みんなが次々と成功させる中、わたしは中途半端に目立ってしまい恥ずかしく、エース王子に助けてられた。
見た事ないイケメンに支えられて凄くドキドキしていたわたしの目の前でお姉様は演習場の的を破壊する威力の魔法を見せつけた。
爆炎の中、さも当たり前のように立って髪を
キラキラとした輝きに溢れる魔力を持った女神のような人だと思った。もう王子のことなんて頭からスッポリ抜け落ちた。
わたしもこの人みたいな美しくて綺麗な魔法を使えるようになりたい!
そう思うようになった。
教室なんて村長の家にあるテーブルと比べ物にならなくて、椅子にクッションがあって床にはカーペットが敷かれていた。……こんな待遇をわたしなんかが受けていいのかなぁ?
そう考えているとお姉様が教室にやって来てわたしの隣に座った。これを機に仲良くなりたいなぁ〜って思っていたのに緊張して話しかけられなかった。
ジャック王子やクラブさんと会話した後は凄く不機嫌そうで日を改めようとした。
やる事もなく寮でお風呂に入ろうとしたらそこで話しかけられて、勇気を振り絞ってお友達になってください!と言えた。
学園でできた初めての友達だ。
貴族の人に絡まれた時もお姉様は助けてくれた。マーリン先生を紹介してくれて、エリちゃんにも指導してもらえるようになった。
この二人のおかげでわたしはぐんぐん実力を身につけていった。
お姉様は『流石主人公……チートね』って言ってたけど、わたしはお姉様みたいにエカテリーナを振り回したり拳に集中させた魔力で岩を砕いたりはできません。
光の巫女というなんだか凄そうな力を持っていると言われてビックリしてしまったが、特に今は関係なくて伸び伸びやらせてもらっている。
魔法なんてそこそこ使えるようになって村のみんなを見返してママの手伝いができればいいと思っていた。
でも今は、お姉様と同じクラスで、お姉様の側にいるのが恥ずかしくないよう強くなりたい。
そう思っていた最中、あの事件が起きた。
なんとかお姉様を止めることはできたけど、最初の一歩を踏み出すのが怖かった。
このままではお姉様が人殺しになってしまう。それだけは避けたかった。
何かが弾けてお姉様の体から黒いモヤが溢れ出した。そこでわたしの体は動いてくれた。
そう感じた……のだと思う。
自分でもなんとも言えない感覚だけどそのおかげで助かった。
「でもさ、シルヴィア・クローバーがあの調子だと王子二人はどうなるんだろうね?」
「両方から求婚されるなんて夢みたいな話だよね〜」
「それも何かしら裏で手回ししたから……みたいな噂もあるよね」
「アリアは王子達と同じ寮にもいるけど、その辺はどうなの?」
みんなはわたしの知っている貴族やAクラスの情報をいつも気にしている。
娯楽として噂話や貴族の評判は大人気。わたしもそれは嫌いじゃない。
「お二人共、お姉様にベタ惚れだね。わたしは認めてないけど。お姉様も満更でもない様子で……わたしとのデートやスキンシップも減ってきて寂しくなっちゃった」
休みの日も用事があるとかで、わたしはお姉様のいないベットで残り香を堪能するしかない。
お風呂に入る時も側にピッタリくっついて入浴してたのに今は少し離れるように言われてしまった。
……抱きついてそのままお姉様をお持ち帰りしようとしたのが不味かったか。でも、わたしをその気にさせてしまった無自覚で魅力的な体をしたお姉様が悪い。あのプロポーションは反則です。
「……やっぱアリアは凄いよ」
「……平民の希望の星ね」
友達が遠い目をしている。わたし、何か変なこと言った?
「言っておくけど、わたしだってお姉様の幸せを願っているよ?でも、王子やそこいらの有象無象を認めるわけにはいかない。お姉様が欲しければこのわたしを倒してからにして!って」
「アリアは父親か何かなの?」
「その基準だとアリアより強い人ってそうそういないんじゃない?Aクラスで一番なわけだし」
中間試験での模擬戦。お姉様が途中退場になるし、対戦相手のベヨネッタもルール違反の危険な魔法を使ったから繰り上がりでトップになってしまった。
Dクラス以下のみんなからは身分の低い人達のヒーローだ!なんてもてはやされるけど嬉しくない。
お姉様に褒められたいのに。
「いるよ。安心してお姉様を任せられる人が」
ただどちらも無自覚で意識してないから残念だけど。あの人なら太鼓判を押してもいい。
「でも、その為にはお姉様が安心して暮らせるようしないといけない。だから力を貸して!」
マーリン先生はわたしが光属性だから呪いの黒いモヤに気づけたという。
お姉様の無実を証明するには犯人を見つけ出して捕まえるしかない。
「そこまで頭を下げられたらね」
「アリアのおかげで魔法の成績が上がったしね」
「恩を売ればシルヴィアさんからも狙われないかもしれないし」
「お姉様はそんなことしないよ!みんなよろしくお願い!!」
Fクラスの人達は何も言わずに自主的に行動してくれている。
彼らはお姉様をわたしと同じように信仰している同志達だ。
でも、それだけでは手が届かない場所もある。
例え犯人を捕まえられなくても有力な情報さえ手に入ればマーリン先生に伝えることができる。
待っていてくださいお姉様。このアリアがきっとお姉様の潔白を証明してみせます!その暁には是非、夜のお供を!
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