第37話 公爵令嬢とお茶会ですわ!

 

「もっときびきび歩け」

「うぅ……お家に帰りたい……」


 どうもシルヴィアです。現在、私はジャックに連れられて上級生の校舎にいます。

 他学年の校舎に入るなんて珍しい事なので周囲の視線が辛い。注目しないでほしい。

 彼ら彼女らが気になっているのは隣を歩く王子様だろうけど。


 公爵家のご令嬢からのお誘いを受けることになった私だが、一人だと何をしでかすかわからない!という理由で同伴者が付くことになった。

 最初はクラブが行くという話だったのにジャックが強引に割り込んできて決めてしまった。

 私達の中で相手の令嬢と親しいのはジャックしかいないけど敵陣営の真ん中に総大将が突撃するのはいかがなものか?

 しかし、ここが学園都市で良かったよ。普通にお偉い貴族と会う時はそれに相応しい格好をしなければならない所を制服でOKだから。

 私の貴族用の服は7年前のままで止まっているからね。実家に一度帰った時に採寸して新しい物を作ってもらっているが、届くのはまだかなり先だ。


 私達を見守りながら案内してくれるいつもの青い鳥について行く。

 鳥が空を飛ぶのを止めて地面に着地する。

 クローバー家の庭に近い規模の庭園にたどり着いた。ここが目的地だ。


「『赤紙』の提示を」


 背丈が物凄く高い男子生徒が待ち構えていた。

 威圧感があるし、肩幅も広くてかなり鍛えてありそうね。

 招待状をジャックが見せる。


「間違いないようだな。通ってよし。この先でエリス様がお待ちになっている」


 そう言って道を開けてくれた。

 植物で作り込まれた緑のトンネルを進む。

 その先には白い円状の建物があった。休憩所などに使われるガゼボだ。

 テーブルと椅子があり、自然に囲まれながらお茶をするスペースになっている。


「あら、お客様がいらっしゃったようね」


 三つある椅子には既に一人先客がいて、彼女が私を呼び出した公爵令嬢なのだろう。


「お招きいただきありがとうございます。シルヴィア・クローバーですわ」

「ジャック・スペードだ」


 スカートの裾を掴んで挨拶する。

 ジャックは偉そうだけど、王族だし、実際に偉いからいっか。


「どうぞおかけになって」


 椅子に座る。

 テーブルの上には学園で売られているお菓子とお茶が既に準備されていた。

 給仕の姿が見えないけど彼女が淹れたのだろうか?


「はじめまして。わたくしはエリス・カリスハート。このような格好で申し訳ありませんね」


 水色の長い髪を下ろした少女は仕草や声のトーンからたおやかな、それでいて高貴な印象を与えられる。

 特徴的だったのは顔の、目の部分に巻かれた黒い布だった。


「私、目が見えませんの。慣れた場所でしか一人で動けないので今日はこちらにお呼びしました。他の人はいませんが、お茶を飲むくらいなら問題ありません」


 そう言って慣れた手つきでティーカップを掴んで口元へ運ぶ。

 少し変わったテーブル上の配置には意味があるようだ。


「ふん。相変わらずのようだなエリス」


 馴れ馴れしい態度のジャック。

 従姉妹だから面識はあるんだっけ?


「そちらもお元気そうねジャック。話は聞いていますよ。エースと王位を争うなんて、どんな心境の変化があったの?」

「ただ玉座に興味があっただけだ。オレ様こそが座るに相応しい場所だとな」

「シルヴィアさん。この子、こんな風に言っているけど実はあなたの、」

「そんなこと言わなくていい!!止めろエリスねぇ!」


 慌ててエリスさんの口を塞ぐジャックとそのジャックの姿に微笑むエリスさん。

 今、エリス姉って言ってたわよね?


「全く。見た目は変われど中身は相変わらずだなエリス姉は」

「貴方もエースも私からすれば弟のようなものだから」

「くっ。これだからやり辛い」


 ジャックを手玉に取るエリスさん。

 今の軽いやり取りで親近感が湧いてくる。そう、同じ姉として。


「エリス姉って……ジャックもお姉ちゃんには弱いのね」

「もう一人敵がいたか」


 これはいいネタをゲットしたわ。


「私のカリスハート家は王妃である叔母様の実家なの。小さい頃からよく王子二人が遊びにきたりしていたのよ。あの頃のジャックは可愛げがあったのに、今はそうでもないようだけど」

「わかります。昔はやんちゃ小僧って感じだったのに今はただの我儘なオレ様キャラですから」


 姉トーーーク。弟って大きくなると可愛げがなくなる。

 クラブはまだ懐いてくれているからいいけど、思春期になった弟って反抗期もくるから何かと我儘になっちゃう。


「シルヴィアさんもわかる?」

「私にもクラブっていう弟がいますわ」

「その子の話も耳にしています。ジャックを上手くサポートしてくれている優秀な子だって。ジャックは一人だと暴走しがちな所があるから」

「二人してオレ様を侮辱するために集まったのか?違うだろ」


 顔が険しくなるジャック。

 いかんいかん。つい話が弾んでしまったけど、普通に不敬だ。


「そうでしたわね。私がシルヴィアさんを誘った理由はただ興味があっただけです」

「興味……ですか?」

「えぇ。貴方、上級生達の中でも話題なんですもの。凄い子がいるって」


 いつの間にそんな話が。

 心当たりが………あるわね。


「蛇姫なんて称号がついて、噂では逆らう者は全員ヘビのエサにされるって」

「エリス姉。こいつは馬鹿だが、流石にヘビで脅すだけで食べさせたりは」

「したわね」

「……ついにやったのか」


 ドン引きするジャック。ついに、っていつかするとおもっていたわけ?


「消化してないから安心してよ。飲み込むだけでキチンと吐き出しているから」

「ヘビに飲まれる行為のどこに安心があるんだ……」


 Fクラスの子達は粘液でベトベトはするけど中は生暖かいって言ってたわね。

 中にはクセになりそうって危ない子がいたからお仕置きして矯正したけど。


「ふふふっ、本当だったのね。面白い子ねシルヴィアさんは」

「面白いと言えるのは後始末をしないからだ。フォローする身になってみろ。薬漬けになること間違いなしだぞ」


 し、失礼ね。

 まるで人を病気扱いなんて。


「是非、その場面を見てみたかったわ。……こんな目じゃなければ」

「その目って生まれつきなんですか?」

「いいえ。目が不自由になったのはこの魔法学園に入学してからなの。授業中に魔法の発動に失敗してね。それ以来ずっと」

「母上も心配していたからな。シルヴィアは知らんが、エリス姉は学年首席になれる程の才能があってな。水魔法ならオレ様より強い」

「今はAクラスにいるのがギリギリ。公爵の娘が降格なんて恥ずかしいから頑張ってはいるけど、次の試験ではどうなるかわかりません」


 勿体ないな。

 ジャックの魔法の腕はクラスでもゲームでもトップクラスになるのに、それ以上かもしれない人が実力を発揮できないなんて。


「やっぱり、手を出すべきでは無かったのよ闇魔法なんて」

「エリスさんは闇属性もお持ちなんですか?」

「えぇ。あまり口外しない方がいいからここだけの話ね」


 闇属性。

 基本の四属性とは違う珍しい属性。

 希少価値としては光属性と同等で、それに加えて水属性まであるってとんでもないわね。

 ただ、闇属性はその特性と過去の経歴上、使わない方が好ましい。


 闇魔法は人を呪ったり、苦しめることに特化していて歴史上の犯罪者や王族を暗殺しようとした者、闇の神の使徒として暴れた者。

 これらには闇属性持ちが多かったとされている。

 光属性持ちが尊敬されるのと真逆の評価がされるのが闇属性だ。

 私達一年生には闇属性持ちはいない。


「カリスハートの家には数世代毎に闇属性持ちが生まれる。だが、王家からすれば悪いことではない。闇魔法を使える者が身近にいることで対抗策も取れるし、逆に政敵を貶めることも可能だ。ようは使い方次第だな」

「私もそう思うわよ。闇魔法って属性が違うだけだし、そもそもどの魔法も使う人間次第で矛にも盾にもなるからね」


 お師匠様からもよく言われた。

 魔法を悪用する者が悪いのであって魔法に罪はない。神から与えられた祝福なのだと。


「そう言ってくれるとありがたいですね。私は自信が無くて闇属性がある事は学園内では秘密にしています。だから、こっそり練習をするつもりだったのに」


 去年の学園都市で一番大きなニュースになったそうだ。

 魔法に失敗したことだけが広まって何の魔法を使おうとしたかまでは広まっていないらしい。


「公爵家の娘だからと皆んなは支えてくれていますが、私が闇魔法が使えると知ったら……そう考えると怖くてね」


 そう言ったエリスさんの手は少しだけ震えていた。


「エリス姉。そんな心配はしなくていい。オレ様もだが、エースも何の態度も変わらんぞ」

「私も何とも思いませんよ。周りに光属性だの四属性だのが多過ぎて今更何があっても驚きませんし」

「貴様の場合は特殊過ぎるだろ」


 エースとアリア、エリちゃんは光属性。

 ジャックは多重属性。

 私とお師匠様は四属性。

 理事長は全属性。


 クラブみたいな基本の属性一つだけって方が珍しいのでは?って言いたくなるような人達ばかりだ。


「そう言って貰えて嬉しいわ。シルヴィアさんならお友達になれそうと思って招待したのだから」

「いや〜、それほどでも」

「エリス姉。コイツを褒めてもロクな事にならんぞ」


 別にいいじゃん。

 最近は怒られてばっかりだったから褒めて鼻が伸びて調子に乗ってもいいじゃん。


「しかし、それだけの為にシルヴィアを呼んだのか?『赤紙』まで使って」

「そうよ。『赤紙』を使えばよく目立つでしょう?そして私と友人になったと広まれば噂も少しは楽になるはずよ」


 はて、噂って私がエカテリーナちゃんを使ってFクラスを指導したことかな?


「最初に話題になっているとお話しました。あれは良い意味でも悪い意味でもなの。上級生の中ではシルヴィアさんを排除しようと動く者もいます」

「えぇ⁉︎」

「だろうな。貴様は悪目立ちし過ぎたシルヴィア。オレ様やクラブは内容を知っているから勘違いはしないが……」


 お、おぅ……。なんか7年前と同じ流れが来ているような。


「だが安心しろ。クラブやクローバー家には影響ない」

「上級生内でも話題になっているのはシルヴィアさん個人です。弟さんやクローバー家の評判は上々ですよ」


 良かった。

 私がダメでもクラブや両親の活躍のおかげで家になんの問題もないなら。

 入学前にお父様が『シルヴィアが好き勝手にやっても大丈夫なくらいには準備したよ』って言っていたしね。

 しっかし、私個人ねぇ。大抵の相手なら魔法で勝てるとは思う。事実、Fクラスが束になっても私には敵わなかったのだし。


「でも、学年単位で敵に回すと私でも勝てませんわね」

「普通は戦わないからな。問題を力づくで解決するその頭をどうにかしろ!」

「シルヴィアさんの実力は私も聞いています。でも、今の流れは分が悪いわ」


 お師匠様とエリちゃん、理事長とアリアも全力にカウントすれば勝てるか?行けそうね。

 事前に罠を張れば楽勝ね!


「ジャック、貴方は気付いている?今の流れ」

「あぁ。エリス姉に言われずともな。噂には尾ひれがつくが、シルヴィアについては異常だ。何者かが意図的に悪い噂を流しているとしか思えん」

「直接関わりが無い人程シルヴィアさんを嫌っているから間違いないでしょうね」


 それはもしや、私はイジメられているってことかしら?

 黒幕がどこかにいると。


「シルヴィアさん。何かあればチカラになるから頼ってちょうだい。闇属性持ちの私を受け入れてくれる貴方なら大歓迎よ。カリスハート家はエース側だけど、個人的にはジャックの、」

「あぁ!残念だなぁ!だが、繋がりはできたら十分だろうな!!」


 ジャックがうるさくて最後まで聞こえなかった。

 エリスさんは何故か笑っていたけど今の面白かったですか?





 とりあえず私とエリスさんは今後もお茶会をして仲がいいアピールを周囲にすることになった。

 魔法の失敗による失明だったらお師匠様に相談してみよう。何か解決策を用意してくれるかもしれないし。


 それにしても、ジャックはエリスさんと話をする時にソワソワしてたし、恥ずかしがって大きな声を出していたけど、まさかエリスさんに気があるのかしら?






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