第27話 友達なんていらないわ!

 

 学園生活初日が終わる。

 結局、あれ以降はクラブと話すタイミングが見つからなかった。

 学園の校舎案内に一日を費やしたが、施設や研究室が多くていっぺんには全部覚えられないよ。

 都市内部の店や名所は自分で探検して探してみてね〜って説明だったけど今日はそんな気分にはなれないかなぁ。

 学校が休みの日にソフィアを連れてスイーツが美味しいお店でお腹いっぱいになるまで食べよう。ついでにお師匠様に会いたい。


「美しい。どうだ?今晩はオレ様と食事をしないか?」

「そんな……ジャック様ってば」


 教室から寮への帰り道、嫌な光景に出会した。

 見慣れた顔の銀髪が女生徒を口説いているのだ。

 顔だけはイケメンに成長して背も伸びているから女性受けは良さそうだけどチャラい。

 この男も変な方向に成長してしまっていた。ゲームではエースに敵わないことで劣等感を抱いてやさぐれていたのが、振り切ったポジティブで平然と自分こそが次期国王にふさわしいと公言しているのだ。

 女性にふしだらそうなのは変わってないときた。


「でも、王子様と二人きりなんて」

「心配しなくていい。クラブと他の数人も一緒だ」

「えぇっ!あのクラブ様も一緒なのですか?それなら……」


 今、クラブの名前が出た?

 クラブもジャックと一緒に食事会に参加するってこと?

 ジャックの話し方だと男女で集まって楽しく食事会……合コンじゃないの!いつの間にクラブはプレイボーイになってしまったのさ⁉︎


 いいえ、私には関係ないわ。知るもんですかあんな子。


「……そこの貴様。クローバー家の令嬢だったな。クラブの姉だということで貴様も誘ってやろうか?」

「結構です。私、予定があるので」


 こちらにもお誘いが来たがはっきりと断っておく。

 何よ、ジャックまで他人行儀な呼び方をして。呼び捨てで呼ばせろってしつこく言っていたのはそっちのくせに色んな女の子にデレデレして。

 それに今のご機嫌斜めの状態でクラブに会ったら公衆の面前で魔法使ってボッコボコにしてしまいそうだから却下よ。

 私は大きな足音を立てながら早歩きで寮へと帰った。




 ***




 寮に帰ると、ほとんど誰もいなかった。

 初日ということもあって街の中の探索に出かけたり同じクラスの子達と遊びや食事に行っているようだ。

 友達なんていない私には無縁か……。

 私は夕飯は寮で食べるので食堂にある紙に食事の予定時間とお好みの量を書いて提出しておく。

 寮内は男子棟と女子棟、共用のフリースペースや勉強部屋もある。


 今日の不平不満を聞いてもらおうとソフィアを探したが、他の使用人によるとまだお使いから帰ってきていないという。

 直帰したから夕飯や寝るにはまだ早い。魔法のトレーニングも学園の授業でやるので軽めでいいし、何より今日は疲れた。

 だったらお風呂に入ろう。こんな時間だったら人も少ないし、貸し切り風呂を楽しめるかもしれない。

 自分の部屋に戻って準備をする。シャンプーや石鹸は寮の備品だから必要ない。でも、それとは別に私は旅の途中で見つけた専用のトリートメントを用意する。

 髪を乾かすための魔法道具も街には売ってあると聞いたけど、そこは自前で魔法を使う。

 火と風の魔法を交互に使えば簡易ドライヤーの完成だから、多重属性はこういった場合に便利よね。

 お師匠様からは魔力の無駄遣いだって言われたけど、使える時に使わないと宝の持ち腐れだと私は思っている。


 脱衣所には人影は無し。

 ちゃっちゃと服を脱いで浴場に入る。どうやら一番風呂のようね!

 先に体と髪を洗いながら鏡に写る自分を見た。

 女子高生だった頃とは全く違う顔で美少女だ。髪も艶があってキチンと手入れしてある。

 何もしなくても眉と目つきが険しくなりかけてしまうけど、これが私の普通の状態。

 今日に限っては通常の三倍くらい怖い顔になっていると自覚しています。


「随分、大きくなったわよね」


 体つきは女性らしく丸みを帯びたし、身長はクラブやジャック、エース達といった男子生徒達に抜かれてしまった。女子の中ではちょっと高い方なのよ?

 目の前にいる私は私。シルヴィアとしてゲームと同じ歳、同じ顔になった。


 破滅フラグを回避したかったはずなのにここに来て雲行きが怪しくなってきたのは何故なのか、運命や定めっていうものがあるのか。

 ゲームと同じ展開にしかならないのならこれからこの学園では様々な事件やイベントが発生する。

 中には怪我人や死人が……ルート次第でそんな物騒なものもあったわね。

 隠されている便利アイテムの回収もしたいし、卒業後の進路やクローバー家のことを考えると学園のお偉いさんとの繋がりも欲しい。


 ただ、それよりも今は。


「ねぇ、貴方はどう思うの?」


 口が動く。私が動けば鏡のシルヴィアは反応してくれるが、悩んだままだと険しい顔になるだけで返事してくれない。


「わ、わたしですか⁉︎」


 と思ったら、別のところから返事が飛んできてちょっと驚いた。

 どうやら私以外にもお風呂に入ってきた子がいたみたい。ボーっとしていたから物音に気づかなかった。


「ごめんなさいね。独り言……よ」


 謝りながら声の主の方を向いて私は固まった。

 一糸纏わぬ姿で横に立ってシャワーを浴びていたのは私が一番警戒する人物だった。

 桃色のゆるい髪は水に濡れてストレートになっていて、幼い丸っこい顔は男性受けしそう。身長は私より低いのに出るとこは倍近く出ている。


「この時間って人が少ないからお風呂に広々入れて得した気分になりますね!」

「えぇ、そうね。アリアさん……だったかしら」


 ライバル、宿敵、破滅フラグの元凶、公式チート、ゲーム主人公、逆ハーレムの主、ピンクの悪魔。

 そんな子と二人っきりになった。


「覚えていてくれたんですか!」

「あれだけ試験で目立てば記憶に残りますわよ」


 嘘です。7年前から警戒してました。

 入学してすぐ探してましたし、お師匠様なんて貴方を探す旅をずっとしてました。


「シルヴィアさんに覚えて貰えてたなんて……」


 顔を赤くしてイヤンイヤンするアリア。

 え?何その反応。おっかないとかじゃなくて?


「わたし、田舎の村から出てきて自信もなくて不安だったんですけど、試験の時と自己紹介の時のシルヴィアさんを見てビビビッ!って来たんです」

「何が来たのかしら?」

「シルヴィアさんみたいな素敵な人になりたいです!」


 頭にシャンプーの泡が残っているにも関わらず、がっしりと私の両手を握ってくるアリア。

 ど、どうしたらいいのかしら⁉︎


「綺麗でカッコよくて、自信に満ち溢れているところとか憧れです」

「そうかしら?……中々に見る目があるわね」

「本当ですか⁉︎嬉しいな〜」


 褒められたのが久しぶり過ぎて鼻が伸びる。

 叱られたり、説教ばかりで自分を低く見ていたけど、私なんだから自信満々で良いのよね。だって悪役令嬢ですもの。


「わたしって病気になってから魔力に目覚めたんですけど、この学園って貴族の人が圧倒的に多くて中々お喋り出来なかったんです。試験の時に王子様に助けてもらったせいか周囲の視線は冷たいし……だから、こうしてシルヴィアさんとお喋りできて楽しいです」


 ぐいぐい来るよこの少女。

 お互いに裸なんだからそれ以上近づくと不味いわよ。乙女ゲームなのに百合になっちゃう!


「あの、貴族の方にこんなお願いするのは失礼なんですけど、わたしとお友達になってはもらえませんか?」


 コミュニケーションお化け……。そんな言葉が頭を過ぎる。

 NOと言えない日本人だった私は命令されるのは嫌いだけど頼み事されると断れないタイプ。

 でもさ、考えてみようよ。主人公と悪役令嬢がお友達になったら今後の展開はどうなるのさ。

 イベントフラグ消えちゃうよ?

 破滅フラグだって………ん?待てよ。シルヴィアのフラグってアリアと敵対することによって発生していたわよね。その場合はお師匠様まで敵に回る状態で。

 なら、味方になれば争わないで済むんじゃないのかしら?クラブ、ジャックなら私だけでも仕留められる。


「ダメ……ですよね?わたしって中途半端な才能のせいで今まで友達が全然出来なくて。学園では友達たくさん!って考えてたんですけど、やっぱ、」

「お友達になってあげてもよろしくてよ!!」


 アリアちゃん、こんなグイグイ来るのに友達いないの⁉︎

 私が初めての……アリアちゃんの初めてを貰っていいのよね!

 別に私にも友達いないからなんていう打算じゃないよ。シナリオ的にもメリットがありそうだから仕方ないかな〜ってだけよ。


「い、いんですか?わたしと」

「このシルヴィア・クローバーに二言はありませんの」


 確認したことないけど。


「えへへ〜。嬉しいなぁ。シルヴィアさんとお友達なんて」

「よろしくお願いしますわね

「はい!お姉様‼︎」


 ん?なんか違う呼び方がしたんだけど……気のせいよね。

 学園で初めてのお友達か〜。ソフィアに自慢してみようっと。

 嫌な一日だと思っていたけど、締め括りがこれならお釣りが返ってきそうね。


 明日からはお友達と学園生活を楽しもうかしら!





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