第26話 貴方がいるなんて聞いてない!
振り分け試験の結果が届いた。
あれだけ注意されたし、何かを書き込んでいたけど滑り込みで一番上のAクラスに入ることができた。
学生寮も校舎や街中に近い場所にある最上級の場所に移った。
クローバー家の屋敷より大きくて立派な建物。ベッドもふかふかで休みの日は一日中ゴロゴロしておきたい。毎日大浴場に入れるとか幸せだし、シャワーもあって最高だった。
旅の途中で止まったホテルと大差ない待遇だなんて幸せね。まぁ、だらけているとあっという間に成績が落ちて下位クラスに移籍になるから気をつけないといけないわね。
「お嬢様。そんな下着だけの格好なんてだらしないです!」
「いいじゃんソフィア〜。個室なんだからさぁ」
「この姿をご両親が見たらなんとおっしゃるか」
そうそう。ソフィアも学園側に頼み込んでこの寮の担当にしてもらったみたい。
最上位のクラスとなれば求められる使用人の質も高くないといけないが、ソフィアはそこを軽々とクリアしたのだ。
本当によくできたメイドよね。
「明日からは授業が始まるのです。最初の挨拶や自己紹介はその人の第一印象を決めるんです。しっかり考えておかないと」
「もうね、無理よ。私に友達なんか出来ないわ。あんなとこを見られたんだから」
きっと今頃、影で私のことを笑っている人達がいる。
試験で余計なことをして怒られた生徒だって。
「それでもです。きっと明日はお嬢様にとって良い一日になるはずですからしっかりしてくださーい!」
されるがままに着替えて髪を整えて寝る。
寮の担当とはいえこれは超越行為なのだが、久しぶりに誰かにお世話してもらうのは楽ちんでいい。旅の途中は全部自分でしていたから。
あぁ、明日から本格的な学園生活が始まるのか。
今度は華のJKとして卒業まで生き残りたい……。
「そうだ。お嬢様にお話が………寝てますね。お疲れだったのでしょう。おやすみなさい」
***
翌日。
城と見間違うほどに大きな校舎を移動する。どこになんの教室があるのか分からなくなりそうだが、私達一年生を導いてくれる青い鳥がいる。
この鳥は魔法で作られた幻影で、次の教室までの案内をしてくれるのだ。
昔はこの魔法が無くて校舎内で迷子になる生徒がいたのだけどある学生がこのシステムを開発して以来、ずっと採用されているそう。作ったのはマーリンと聞いて、お師匠様の偉大さをまた一つ実感した。
「ここが教室ね」
最上位のクラスとだけあって教室も豪華だった。床には絨毯が敷いてあり、照明も大掛かりで明るい。
教室全体の作りとしては高校じゃなくて大学の講義室のような教壇を囲む作りだ。
私が着いたのは最後に近いので既に教室の席はほぼ埋まっていた。
「私の席は……ここね」
「あっ、どうぞ!」
何という運命か。私の席の真横にはゲーム主人公であるアリアがいるではないか。
いきなり宿敵と距離が近いのは警戒しちゃうわね。寮内ではなるべく接触しないようにしていたけど。
「ねぇ、あの子……」
「あぁ。試験の時の……」
こちらを向いてヒソヒソと話している人達がいたので、ニコリと微笑むとサッと顔を逸らされた。何でかしら?
授業に使う教科書類のチェックや手鏡で身だしなみを整えながら時間を潰していると、鐘の音が鳴り、白髪混じりのおじさんが入室してきた。
教師用のローブを着ているからあの人が担任になるのかね?
「えー、最初に皆さんに紹介したい方々がいます。ご実家の都合で入学式には間に合いませんでしたが、今日から皆さんと同じクラスで学ぶ仲間になる子達です。それでは入ってください」
教師がそう言うと、入り口のドアがスライドし二人の男子生徒が現れた。
「では紹介しますね。ジャック・スペードくんとクラブ・クローバーくんです」
はい⁉︎
今、クラブって言った⁉︎
「オレ様がジャックだ。いずれこの国の王になる男だと思ってくれ。よろしく」
「僕はクラブです。歳は一つ下ですが、飛び級試験には合格しています。よろしくお願いします」
ジャックの方はあの生意気なガキンチョをそのまま大きくしたような印象で、ゲームと似たような雰囲気でも違和感無いけど、クラブまでいるってどういう事なの⁉︎
片目は隠れていて、私と良く似て鋭い目つきで眼鏡をかけている。インテリヤクザみたいな危ない雰囲気まで纏っていて、完全にゲームと同じ姿なんですけど!
私と仲が良くなることで可愛くなった弟が不良になってしまったわ。お姉ちゃん、貴方がいるなんて聞いてない!
「ジャックくんはエースくんの双子の弟だが、クラブくんは……」
「えぇ。このクラスにいるシルヴィア・クローバーとは血縁ですが、僕は養子です。それにあの人とは殆ど会っていませんでしたから別に何も思いませんよ」
なんだろう。胸の奥の方がキュッとする。
他人みたいな言い方をされて息が苦しい。
「では、そろそろホームルームを始めたいと思います。最初は自己紹介を一人ずつ前に出てきてですね」
教師はそのまま話を続けるが内容は頭に入ってこない。
スタスタと歩いてきたクラブの席は私の斜め前だったので、座ったタイミングで肩を叩いて話しかける。
「ね、ねぇ。久しぶりねクラブ」
「今は授業中だ。話しかけないでくれ」
振り向くこともなく断られてしまった。
私の事なんて知らないと言わんばかりに。
あの頃の私によく付いてきて楽しそうに笑っていた小さな男の子。慣れていない家で一人で離れに閉じこもっていたクラブはいなくなったはずだ。
実家とのやり取りをしていた手紙には怪我も病気もなく魔法の鍛練や勉強を頑張っていると書いてあったのに。
「ちょっとその態度はどうなのよ。お姉ちゃん悲しいわよ」
両親が嘘をついていた?そうじゃないと信じたい。
だって、直前に実家にいた時は妹と仲良く幸せそうに暮らしていたのに。
妹は生まれながらの魔力持ちだった。だからクラブが用無しになったのかも。私という存在がクラブと両親を近づけたのに、途中でいなくなってしまったからクラブの味方が消えた。
………そうだ。あの時に気づくべきだったのかもしれない。実家に戻った時にクラブの部屋がしばらく使われていなかったことに。
私みたいにどこかで長期的に修行しているものと思っていたけど、クラブはそんなことする必要がないじゃない。普通に勉強して育てば魔法学園に入学できるし、エースやジャック、アリアがいないなら学年でもトップクラスになれる才能がある。
それなのにわざわざ私がいる年に入学なんて、まるで私に復讐しようとでも言わんばかりに。
「シルヴィア。学園内ではあまり僕に話しかけないでくれないか。僕は僕のやるべきことの為にここにいるんだから邪魔をしないでくれ。詳しい事情は使用人にでも聞いているだろ」
鬱陶しそうに、困ったように肩に置いた手を払われる。
間違いない。この子は私を恨んでいる。
「では次、シルヴィア・クローバーくん」
「……はい」
名前を呼ばれたので席を立つ。
酷く気分が悪い。
モヤモヤやムカムカを思いっきり何かに叩きつけたい衝動に駆られそうになるのを唇を噛んで我慢する。
今の私がするべきは自分の自己紹介であって暴れることじゃない。どんなに悲しくてもそれは自業自得なんだ。
「私はシルヴィア・クローバー。クローバー伯爵家の長女です。ある事情で魔法を使えるようになったのは
6歳からですが、火・風・水・土の四つの属性が使えますわ。マーリン先生の弟子として修行してきたので、その辺のザコに負けるつもりはありませんの。気に入らない人達にはもれなく痛い目を見てもらいますのでご注意ください。いずれこの名を轟かすことになるのでお見知り置きを」
制服のスカートの端を摘んでお辞儀する。
久しぶりの貴族風の挨拶だけど、しっかりと覚えていたみたい。
色々とイライラして変なことや余計なことを口走ったかもしれないが、間違いではない。
最低最悪の悪役令嬢としてアリアに立ち向かう。その途中で戦う相手が増えただけ。クラブもその一人になってしまった。
だけど私は誓ったの。
クローバーの家を守るために、お師匠様の弟子として立派な成績を残すと。
だから、その過程がどうあろうと関係なく結果を掴み取るために何が相手だろうと止まることなく突き進んで行くんだ。
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