第25話 マイターン!

 

 アリア以降も次々と新入生達が試験に挑む。

 偶に目を張るような才能の子がちらほらいるけど、アリアやエースの時のような盛り上がりに欠ける。

 待っている間に退屈なので周囲を見渡す。

 ジャックがいないかと思ったんだけど姿が見当たらない。入学式の時にも見つからなかったけどまさか魔法学園に進学していないとかないよね?


 エースに詳しい事情を聞きたいけどが、取り巻きに近い人の壁が出来ている。

 私が近づいても話しかけるのも一苦労しそうだし、よくよく考えたらここ数年は手紙でのやり取りすらしていないから私のことなんて忘れているのでないか?


「次、シルヴィア・クローバーくん」


 物思いにふけっていると試験官から名前を呼ばれた。

 まだしばらくかかると思っていたのにかなりペースが早かったわね。


「はい」


 人混みを掻き分けながら所定の位置に進む。みんな親切なのですんなり道を譲ってくれた。

 一部の人は何かをヒソヒソ話しているけど、何か服装や髪型におかしな所があっただろうか?手鏡を使って整えてはいたはずだけど。


「魔力不足になってもう無理だと思ったら自己申告してくれ。試験で倒れたり体調を崩されると困るからな」


 試験官の視線の先にはエースから支えてもらったアリアや魔力の扱いに慣れてないせいで疲れ果てて地面に座り込む生徒がいた。

 まぁ、そういう子もいるでしょうけど私は違いますよ?

 なんと言ってもあの魔術師マーリンから個別指導を受けてきた努力の子ですから。試験官の持つ資料にはクローバー伯爵の娘としか書いていないと思うが、ここにいる生徒の中でも実戦経験だってある数少ない人材だと自負しているわ。


 自分の好きなタイミングで始めていい。

 時間は最初に魔法を使った瞬間から計測がスタートする。

 だから初撃に少し時間をかけてもいいけど、まだ後ろには控えている子もいるからちゃちゃっと終わらせてしまおう。

 試験項目に魔法の難易度もあるが、私が得意とする魔法や教わったものは的当てには不向きなものが多いから今回は簡単なものでいこう。


「いきますわ」


 杖は不用。片手で十分。狙いは大雑把で構わないし、

 だから学園内で見せつけるつもりはない。

 速さについては光魔法より速いものを私は使えないからひと工夫させてもらう。


「はっ!!」


 集中して、体内に流れる魔力を練り上げて放出する。

 イメージするのは燃え盛る紅蓮の炎。

 数は一つ。

 体からちょこっと力が抜けると、目の前にはアリアが作り出した光の玉より大きいサイズの火球。人間一人分なら楽々包み込めるソレを射出する。

 曲げるわけでもなくただ真っ直ぐ飛ばすだけなので苦労はしない。

 名付けて『一度で三度お得なゴリ押し魔法!』だ。



 ボンッ!!



 威力は勿論、当たった的が全て木っ端微塵に砕けて燃えた。


「いかがでしょう?」


 今のは上級魔法ではない。下級魔法だ。

 他の生徒と同じ魔法でも魔力量もコントロールも出来ている私の方が威力は数倍上なのさ!

 見たかアリア?これが原作開始時における私と貴女の差なのよ。


「えっと、シルヴィアくん。まだ試験途中の子もいるから的の破壊はして欲しくなかったし、破壊力については試験項目に入っていない。説明しなかったこちらも悪いが、備品を破壊するのは印象が悪くなるので心に留めておくように」


 試験官が困った様子でそう言った。

 そして何かを手元の書類に書き込んでいる。


 もしかして怒られたの私?的を壊して減点対象になったりした⁉︎

 ちょっと勘弁してくださいよ!いい所見せようとして張り切り過ぎただけなんですって。工夫して考えてこれなら良い成績出ると思ったんですよ!


 通常というか、私の知っているゲームや漫画の知識では派手な魔法を使って的とか岩、大地を砕いてみんなが驚くところでしょうよ。

 それでいて、試験官が『なっ、これほどまでの魔法が使えるなんて天才か君は⁉︎』って言って大盛り上がりになるべきでしょ。想像していたイメージと違う展開なんですが⁉︎

『別に大したことありませんわ(ドヤっ)』って言うつもりでしたよ。


 壊れた的を新しいのに変えている作業員達もこっちを睨みつけるような目で見てくる。

 ごめんなさい、お仕事を増やしたみたいで。余計なことをしました。


「えー、的の交換が終わるまでしばらく待つように。それと考えられにくいが今後試験に挑む生徒の中で腕に自信があるものがいても的を破壊しないように。焦げたり貫通するくらいならいいが、あの様に木っ端微塵にすると撤収作業や交換作業に支障が出る。人数も少なくないから注意するように」

「「「「はーい」」」」


 悪いお手本にされた私は項垂れながら元いた場所に戻って地面に座り込む。

 想定と違う展開になってしまった。盛り上がるどころかドン引きされてしまいました。

 注目されるのはいいけど悪目立ちするなとクローバーの実家で言われたことを早速破りました。

 周りの子も近寄らないし、浮いたかなぁ?


 交換が済んだ的に次々と生徒達が魔法を当てるが、私みたいに破壊する生徒は一人も出ませんでした。

 試験の結果発表は後日だけど、もうダメな気しかしなくなったわ。一番上のクラスが良いんだけど入れないかもしれない。

 二番目のクラスが悪いってわけじゃないが、エースやその他の登場人物が一番上のクラスに集まるから動向をチェックする観点からしてそこが望ましかったのに……。

 先の未来への不安要素が発生した私はますますその肩をがっくり落とすのでした。















 ※今年度の新入生について



 振り分け試験の試験官をして思ったことですが、今年は粒揃いの生徒達です。去年、一昨年と目立った子は居ませんでしたが、今年は期待できそうです。

 筆頭としては王子でもあるエース・スペードくんでしょう。

 珍しい光属性持ちであり、最小限の魔力で素早く的に命中させるという試験内容的に満点でした。杖を使いこなす技量もあるので今後の指導によって大きく活動してくれるでしょう。


 他の貴族の子達も有力な家の子が多く、全体的な質が良い。平民やそれ以外の生徒達は基礎知識が低い為に例年通りの結果ですが、中には光るものを持った生徒がいました。

 アリアくんという少女は光属性で魔法の発動に慣れていない様子でしたが、見事に一つの魔法で三つの的に当てるという離れ技を成し遂げました。

 光魔法の下級とはいえ、あれだけのサイズの魔法を発動させるのにはセンスと並外れた魔力が必要です。使用後は体調を崩していましたが、これからの成長に大きく期待です。

 可能ならばエースくんと同じクラスに推薦します。光属性持ちは指導できる先生方も少ないのでそちらの方がカリキュラムも組みやすいでしょう。


 試験前にマーリン先生から尋ねられていたので、彼女が光属性持ちだという事も報告しておきましょう。このままマーリン先生のお眼鏡に叶えば素晴らしい才能に目覚めるかもしれませんから。


 あと一つ報告があります。

 試験場で使用していた魔樹を使った的ですが、途中で破損してしまったので新しい物に取り替えています。

 普通の木だと壊れやすいので丈夫で魔法への耐性もある魔樹を使用していましたが、来年度からは壊れることも前提にして普通の木製にした方がいいかと。

 交換の時間も短く済みますし、予算的にも優しいかと。

 今回の件は私が事前に注意するのを忘れていたため発生したので自腹で対応しましたが、……懐的ふところてきに厳しいので来年度へ向けて検討をお願いします。


 シルヴィア・クローバーについては要注意をお願いします。

 あの歳であれだけの魔法を使うのは素晴らしくはありますが、魔樹を木っ端微塵にするだけの威力があります。実験途中で暴発すると研究所自体が消える可能性もあります。

 申請された書類には多重属性持ちとありましたが、今回は火属性の上級魔法でした。恐らく一番得意な属性なのでしょう。なので火属性には気をつけて。

 試験終了後には地面に座り込む様子が見られたので、魔力量については平均的かと。杖も使う様子はありませんでした。

 ただ、こういった突拍子もない行為をする生徒は今後も何かとトラブルを発生させることが今までの経験上あります。

 指導等は厳しめにしないと反省しない可能性もあるので周知してください。


 マーリン先生にはアリアくんの件を報告するついでに胃薬を用意していただけないでしょうか。

 自己負担分とこの報告書のせいでお腹が痛くなってきたので。


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