第24話 入学式と原作開始ですわ!

 

 魔法学園中央にある大きな講義堂。

 どれくらい大きいかと言われればコンサート会場くらいね。

 そこに全生徒が集まっている。在校生の視線の先にいるのはまだ制服を着なれていない新入生達。緊張した様子で席に座っている。

 私は全く緊張なんてしていないわよ。だって、入学式って人生何度目?早く偉い人の話が終わって欲しいとしか思っていないわ。

 新入生代表や在校生、校長くらいなら許せるけど来賓の挨拶はいらないでしょ!貴方達が一番お話長いからね⁉︎

 それは異世界も同じみたいで、貴族や魔法学園を援助している商会達の挨拶が延々と続く。おかげ様で非常に眠たい。


「あの、大丈夫」

「大丈夫ですわ。ご心配なさらず」


 隣の席にいた気弱そうな男子生徒が声をかけてくれるが眠ってないから!ただまぶたの裏に今後の予定を思い浮かべてただけだから!

 ひっ、と失礼な声をあげて男子生徒は黙り込んでしまった。

 しかし、イライラする。拷問か?精神の修行?

 どちらにせよ何か面白いことが起きないと船を漕ぎそう。


「えー、では本年度より魔法学園に教師として新任された方のご紹介をします。マーリン先生」


 お、早速来たわね。

 壇上に注目すると、いつもの機能性と実用性に特化した服ではなく、礼服を着て教師用のローブを纏ったお師匠様が登壇する。服に着られている感が無く似合っているのが癪だ。

 美形ってどれ着ても似合うからいいわよね。私なんかローブ纏ったら魔女よ。


「ご紹介いただいたマーリン・シルヴェスフォウだ。ここの卒業生であり、この度教壇に立つことになった。よろしく頼む」


 当たり障りの無い挨拶をしていくお師匠様。

 やる気ないように見えるけど、その通りです。彼の頭の中にはいい加減見つかって欲しい光の巫女のことと、自分を教師にと推薦した学園の理事会の代表への不満だけ。

 それなのに周囲の女の子達はキャーキャーと盛り上がっている。


「あれがマーリン様よ」

「お噂よりずっと綺麗だわ」

「素敵なお方……」


 男子の方は是非とも教えを施してもらおうとギラギラ目を輝かせている。

 知名度の高い有名人ってこれなんだから。


「それともう一つ。胃薬や頭痛薬が欲しい者は遠慮なく言いに来てくれ。以上だ」


 最後によくわからない一言を残してお師匠は壇上から降りた。チラッとこちらを見て目が合った気がするけど気のせいよね。

 こんな大人数がいる会場の中から私だけをピンポイントに見るなんてないない。


「次に新入生代表の挨拶。今年はこの方、エース・スペード様!」


 いよいよ最後のプログラム。

 呼ばれたのはこの国の王子。

 はい。と返事をした長身の少年。金色の絹糸みたいにサラサラした髪。大きな青みがかった瞳。とてもよく整ったお顔。絵画から飛び出した?と聞きたくなるような美形がいた。


 顔見たのは旅立って以来だけど顔面偏差値の高さがエグい。

 ゲームパッケージと全く同じ顔だよ。人気攻略キャラ投票で上位にいるだけある。


「皆様。今回はわたし達新入生の為にこのような場を設けていただきありがとうございます」


 カンペやメモも見ずにスラスラ話すエース。目線を移動させながら抑揚をつけて話す様子は様になっている。まるで演説みたいね。

 新入生代表は今年一番期待されている生徒が選ばれるという。

 昔のままでも反則じみたスペックで、お師匠と違って社交性も持ち合わせていたエースが選出されるも納得よね。

 問題はそれが敵に回った時にどのくらい厄介なのかということ。まぁ、負けるつもりはないわ。


「以上。ありがとうございました」


 最後に一礼をして席へと戻っていくエース。

 長過ぎず短過ぎない程よい時間の挨拶だった。

 魔法を使った場内アナウンスが流れて入学式自体は終了した。

 この後は振り分け試験がある。今後の授業の質や学園内での暮らしに大きく影響があるから集中しないとね。

 講義堂から出る時に会場の撤収作業をしている人達の中にソフィアもいたので手を振ると、両腕を胸の前でギュッと構えて頑張ってのポーズをしてくれた。

 こうやって期待してくれる子もいるから張り切りましょう。







 講義堂から程遠くない所に試験会場はある。

 周囲をぐるっとレンガの壁に囲まれている屋外演習場の地面は所々が穴ぼこになっていた。

 ここで主に魔法の実技をすると説明があって、新入生は各自に与えられた番号順に試験を行う。


「試験内容は至ってシンプルです。少し離れたあちらにある三つの的に魔法を当ててください。評価ポイントは三つの的に当てるまでの時間と使う魔法の種類となります」


 時間……。的を外すとロスになるってわけね。

 木製の的との距離は十五メートル程度。簡単な初級魔法でも当てられる。

 より上位の成績を出すには的に当てるための魔法も工夫しないとならない。だけど、大掛かりで難しい魔法ほど時間がかかるから注意っと。


「それでは一番のアアアくん」

「はい!」


 いや、どんな名前よ!と思った。

 呼ばれた男子生徒が的の前に立って魔法を発動させる。

 ピンポン球サイズの火の玉が飛んでいくが、何度か見当違いの方向へ飛んで行き、三つの的に当てる頃には肩で息をしていた。

 それから何人もの生徒が挑戦するけど似たような結果だった。

 おそらく彼等は魔力持ちなだけの平民だと思う。

 貴族なら誰かしらに魔法のコントロールや基礎についての指導を受けられるが平民はそうはいかない。中には的にすら当てれずに魔法を発動させるので精一杯の子もいた。

 とはいえ、これから本格的な授業や指導を受ければこの差をひっくり返すことも可能で、最下位のクラスから卒業時には一番上のクラスに昇格する子もごく稀だがいるという。


「次、エース・スペードくん」

「はい」


 名前を呼ばれただけなのに黄色い歓声が飛び交う。

 貴族の女の子達はうっとりとした瞳で熱っぽく見守る。

 所定の位置についたエースが指揮棒サイズの杖を構える。

 これ、意外と知らなかったのが杖使う人と使わない人に違いがあったの。杖は補助道具だけど材質や長さで効果が違って、初心者じゃなく上級者向けのアイテムになる。

 つまり、杖を出した時点でエースの実力はそれなりに高いことがわかる。


「はっ!」


 掛け声と共に杖の先から光弾が発射される。一発ずつのが三回放たれ、どれもが真っ直ぐ的に命中して弾けて消えた。

 ノーミスで早撃ち。試験中の生徒の中では最高得点だろう。試験官も満足気に頷いている。

 エースも手応えがあって安心したのか、ホッと息をついた。

 当然、その様子を見ていた生徒達は盛り上がっている。確実にファンが増えたことでしょう。

 ルックスが良くて魔法も上々。……ハイスペック人間はこれだから。


「では次、アリアくん」

「は、はいっ!」


 興奮さめやらぬ中で呼ばれたのは桃色のゆるいウェーブがかかった小柄な少女だった。

 ぎこちない動きで的の前に立つ。

 周囲からは王子の直後なんて運が無いという声もひっそり聞こえる。杖もなしに両手を前に構えて踏ん張っている。

 この子も平民の出身。大した結果は生まれない………普通の女の子ならね。


 でも、私は違う。ここにいる誰よりも彼女に注目をしていた。


「えいっ!!」


 可愛らしい掛け声と共に放たれたのはコントロールも何もない大玉サイズの光球。

 その魔法に周囲がどよめく。火でも水でも風でも土でも無い。光属性の魔法だからだ。

 多重属性と同等かそれ以上に稀少な光属性。それを平民出身が持っている。

 的に向かって進む光球はふらふらしながら真ん中の的に命中。サイズが大きかったので両サイドの的にも辛うじて当たった。


 結果だけ見れば一度の魔法で的全てに命中。しかも光属性持ち。

 本人からすれば今使える魔法を全力で発動させただけなのだろうが、試験官が大きく目を張って驚いていた。

 これが彼女の、アリアの栄光の人生の始まりである。

 慣れない規模の魔法を使ったせいで魔力不足になって倒れ込みそうになるアリア。

 それを偶々近くにいた金髪の少年が優しく受け止める。


「ありがとうございます…」

「大丈夫?怪我はないか?」


 あぁ、夢にまで出て私を唸らせた一枚絵のスチール画像が目の前で再現されている。

 これが、これこそが私の人生最大の試練の幕開け。

【どきどきメモリアル!選ばれしアナタとイケメンハーレム】のゲーム開始イベントである!!


 アリア。私の宿敵にして死神。

 貴女だけには絶対に負けないわ!






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