第二部 魔法学園編
第23話 開幕。学園編!
魔法学園。
優れた魔法使いの育成を目指すこの学園には国内から魔力を持つ全ての子供達が集められる。
貴族も平民も関係なく、魔力を持つだけでこの学園に自動的に入学することになっており、優秀な魔法使いの確保は国の優先事業とされている。
あくまでも公平性を保つために魔法学園のある場所はどの貴族の領地にも当て嵌まらない。周囲は山や湖に囲まれて、ここだけ別世界のように感じられる。
学園の敷地には生徒に必要な物を販売する店や、子供に会いに来た親のための宿、魔法による実験で野菜を育てるための農場や牧場まである。
学園を中心とした都市にまで発展しているのだ。
そして、そのどれにも魔法が関わっており、最先端の生活を体験することができる夢のような学園になっているのだ。
「って、案内状には書いてあったわね」
山盛りの荷物を背負って街の中を歩く。
学園に入るルートは山を越える陸路と湖を船で渡る航路の二つ。
そのどちらにも門番がいて、他所からの侵入や生徒の脱走を防ぐ。
生徒達が実家に帰れるのは年一回の長期休みと事情を説明して学園に許可を貰えた時のみ。後者は葬式ぐらいだろうか。
「はー、今まで見たどこよりも賑やかで都会ね」
学園にいる大勢は学生なので、人口の平均年齢は10代になる。
大人は業者や教師のみ。一部の店は学生主導で営業している。
国は同じだけど治外法権ってやつね。一番偉いのは学園を運営する統括理事会の人達。数年ごとに選挙で代表を決めている。
そのどれもがクセのある人物ばかりで今後の悩みの種ではあるわ。
「探索もしたいけど……まずは寮ね」
都市の中央に校舎。その周囲に店関係や学園の関連施設。そして、外縁部に各生徒の寮がある。
寮には個人で借りるものと学年別のクラス別のものがあって、クラス別の方は成績によってグレードが違う。
実家からの仕送りとは別に成績によって学園から奨学金が支払われ、研究の成果によっては更にお金が貰えるし、首席で卒業すれば一生物の勲章を授与されたに等しい価値がある。
首席の生徒は世界に名を轟かせる偉大な魔法使いになる者も多い。この十年ではマーリン・シルヴェスフォウがそれにあたる。
私が向かうのは入学する生徒が最初に入る寮で、爵位や身分別の寮。ここから振り分け試験を経て各グレードの寮へ別れる。
期間は一週間前後だから荷解きはほぼしない。新入生がいなくなったら他所からの客が泊まる宿に利用されている。
よく考えてあるよね。
「地図だとここね」
辿り着いた寮は築年数がかなり経っているけど丁寧に手入れがされてあってカビ臭さや古くささもない。味のある建物だった。
「すみません。今度入学する新入生なのですが」
受付の方に話しかける。
本人確認の為に送られてきた入学推薦状を提示して、リストにある名前と一致するかを確認してもらう。
確認がOKならば合格だ。
「それでは二階の部屋ですね」
「ありがとうございますわ」
教えてもらった部屋に向かう。
貴族の子供は相部屋ではなくそれぞれ個室になる。平民だと二人部屋や四人部屋になるが、今回はそういったものは無い。
木製の扉をカチャリと開く。
どんな内装だろう?と心躍らせる。
今まで旅しながら様々な部屋に泊まってきた。今更、ベッドのふかふか具合で喜んだりしないが気になるものは気になるのだ。
そのまま扉を開けきると、影が一つ。
個室に先客?部屋の場所は間違っていないはずだけど。
私の部屋に立っていた影は女性のものだった。なんで性別がわかるかって聞かれたら、服装がメイド服だったから。三つ編みの髪がとても……とても……。
「お待ちしておりました。お嬢様」
「ソフィア!」
名前を聞くまでもなく、私は荷物を放り投げてその少女に飛び付いた。
メイドの少女は受け身を取れず私ごとベッドに倒れ込む。……布団はイマイチね。
「ソフィアソフィアソフィアソフィアソフィア!!」
「ちょ、お嬢様……そこっ……あ……んっ!!」
わしゃわしゃ手を動かしながら体の感覚を確かめる。
女性らしく成長したシルエット。メイド仕事のおかげで少し硬くなった手の感触。……太ももは健康的な肌触りね。お肌もすべすべ。
そして実家のような安心感の匂い!くんくん。スーハースーハー!
「いい加減にしてください!」
揉みくちゃになってソフィアを堪能していると脳天にチョップが落ちた。
「ごふっ⁉︎」
修行の成果で鍛えたはずの私にダメージが入る。
しかもこの痛み……まるで本気で怒ったお母様のげんこつクラス。
「せ、成長したようねソフィア」
「こんなことで成長を確認してほしくありませんでしたよ私は」
乱れた服を直しながらソフィアがぶつぶつと呟く。
「久しぶりの再会なのに感動よりも先にがっかりが……精神面では期待していませんでしたけど、ここまでとは」
ちょ、言い過ぎでは?
私は今、ディスられている!待遇の改善を要求するわよ!
「でも、なんだか昔みたいな感じで懐かしかったわよね」
「それはそうですが、もっと感動的な再会も……」
「十分に感動しているわ。元気だったソフィア?」
「はい。お嬢様もお元気そうで何よりです」
入学の手続きをしに実家に帰ってもソフィアとクラブがいなかったから、こうして会えて良かった。
だけど、どうしてソフィアがここにいるのだろう。学園では貴族でも使用人は連れてこれないはず。
王族でも、臣下の、仲がいい家の子が世話を焼いたりするだけ。
伯爵家のメイドがどうこうできることじゃないんだけど。
「私がここにいるのが不思議そうですね。ズバリ!私は今現在クローバー家のメイドではありません」
「まさかお父様がクビに⁉︎」
「いえ、伯爵様には大変お世話になっていますのでクビになったわけではありません。なので落ち着いてください。伯爵様に殴り込みに行こうとしないでくださいお嬢様!」
羽交い締めされて動きを止められる私。
え?違うの?
「クローバー家の方は一度自分から辞めさせていただいていますが、後から戻るつもりです。お嬢様が卒業するまでの間はこの魔法学園所属の職員として働くんです」
詳しい話を聞いていくと、魔法学園の人員は毎年入れ替わって、学生だけでは手が回らない寮の管理や校舎の掃除、給食の準備の人手が常に足りていない。
そこで使用人の経験がある人を優遇して雇っているらしい。
魔法学園の肩書きは潰しが効くので、最初にここで基礎を学んで貴族の家に自分を売り込みにいくのだそう。
ソフィアはその慣習を利用してわざわざこの学園に面接を受けて採用されたそうで。
「ですから、直接お嬢様のお世話ができるかはわかりませんが、私もこの学園にいます。何かありましたらお力添えしますので遠慮なく頼ってください」
「私のためにありがとうね。その時が来たらよろしく頼むわ」
良かった。これで授業が無い時にボッチの可哀想な子だって思われない。
ソフィアがいれば友達作らなくてもいいじゃん!
「それとお嬢様。伯爵様から今後についてのお話は……」
「バッチリよ。いよいよね」
妹と遊んだりして実家を満喫していただけではない。
私が鍛えて修行していたように、両親も準備を進めてきた。
その成果をいよいよ見せる時。
「さぁ、始めるわよ。シルヴィア・クローバーの快進撃を!!」
「自重はしてくださいね」
そこ、水を差さない!
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