第22話 シルヴィア日記で一気にダイジェスト
○月□日。
旅立って初めての夜。
今日から日記をつけようと思う。誰にも見せるつもりは無いけど、旅の思い出を残すために書こう。
旅立ちの日だから感慨深いなぁと思っていたのにお師匠様はサクサク進んでしまう。
日が暮れる前には着く予定だったのに私が途中でダウンして一日目から野宿になった。
いやさ、半日も走るとか無理だからね⁉︎私はマラソン選手じゃないんだよ!十キロなら楽勝ですよ?平地でね!山越え丘越えしながらは無理だってば。
お師匠様はやれやれ、って顔していたけどどれだけ自分がバグってるか自覚してください。
シルヴィアが主人公に勝てなかったのはこのチート魔法使いが支援してたからでしょ。
今、地面に転がった状態で日記を書いているけど体力的にも魔力的にも限界。明日はこのペースじゃありませんように……。
○月△日。
筋肉痛……魔力疲労で今日もダウン。
お師匠様に担がれて宿に到着。
この絵面だけみたら犯罪では?って、お姫様抱っことかおんぶとかあるのに小脇に担がれるって何?荷物扱いですか?
宿の布団は実家のより薄くて固かったけど、昨日はその辺の石ころを枕にしていたからありがたい。
明日もこの村でゆっくりしましょうよ〜と言ったらしばらくは休みなしで進むと言われた。
時期を逃すと海のある町へ行くためのルートが大雪で通行止めになるので距離を稼ぎたいとか。
ベリーハードよりはハードモードの方が良いけど、どのみち難しいに変わりないんですね。
□月□日。
旅を始めて二か月。ついにこの国で一番過酷な山登りがスタートした。
道中で山賊なんかがいて怖かったけど、お師匠様が返り討ちにした。ついでに身包みを全部剥いで軍資金をゲットした。
風魔法と催眠ガスの組み合わせは最低だと思った。ガスマスクが無いと私もまた眠らされるところだったと記しておく。
退治した山賊を放置したままでいいのか?と聞いたら彼らは畑仕事の無い冬の時期だけの何ちゃって山賊だとか。痛い目を見たらしぶしぶ諦めるだろうし、あぁいうのはいくら潰してもキリがないみたいだし、賞金が出るわけでも無いので旨味が少ないとか。
天才魔法使いの意外なお小遣い稼ぎが判明した。真面目ぶってるだけでバリバリの武闘派だよこの人。
山中は寒かったけど、エカテリーナちゃんの吐いた火のおかげで火起こしをしなくて済むから助かる。火属性の魔法?
走りっぱなしだからそんな余力ありません!
□月△日。
お師匠様と山の中ではぐれた。
崖から落ちてしまった。咄嗟に前に貰った魔法道具で障壁を張ったから危機一髪助かった。怪我は打撲と擦り傷くらい。
お守りを渡してあるから私の居場所を探して見つけてくれるけど、それまで自己防衛しなきゃ。
食糧は慎重に食べていかないと。
□月☆日。
ひもじい……お腹空いた。
朝起きたらバックの中の食糧が全部無くなっていたのだ。犯人は野生の猿だ。
エカテリーナちゃん砲すらも器用にかわす猿。お尻ぺんぺんしてきたので反撃に出ました。
最後には掴み合いになって共倒れ。……うぅ。お猿さんに負けるなんて思ってなかったよ。
立ち上がった猿は清々しい顔で私に木の実を渡してくれた。なんとなく認められた気がした。
□月○日。
この山のボス猿と決闘をして勝った。
エカテリーナちゃんのアシストもあって厳しい戦いを制したのだ。
セコンドについていた猿彦(最初に友達になった猿)が肩を叩いてきた。泣いてるよこの猿。
新しいボスとして私は猿達に冬備えのイロハを叩き込む。食べれるキノコの見分け方、魚の捕り方まで教える。
猿達は真剣に話を聞いてくれて、一番最初に成果を上げたのは旧ボス猿だった。私の右腕として働いて貰おう。
ここに、猿による猿の帝国を刻むのだ!!
△月□日。
ウホッ、クイモノヨコセ……!
△月○日。
ここ数日の日記を読み返して頭が痛くなった。
何日か猿語で書いてあるけど内容が読めない。
お師匠様曰く、下手に私の後を追うとミイラ取りがミイラになると考えて準備を整えていたらしい。
お守りを使って私の生死は確認できたし、食糧や必要なものは持っていたから数日は大丈夫だと判断していた。
そしてようやく私の元へ辿り着いたら猿の集団と共に襲いかかってきたので迎撃したと。おかげで私の頭は天然パーマみたいにチリチリになった。動物は火が怖いからね。
私が猿山のボスになんてなった原因は猿彦から貰った木の実だった。美味しいけど強い幻覚作用や精神を変にする効果があったとか。
猿には無害でも人間には有害という変わった植物で、中毒性もあるとか。
私は一度食べただけだし、エカテリーナちゃんと半分こしたので後遺症については心配要らないけど、猿から貰ったものを食べるなんて頭を強く打ったか⁉︎と心配された。………素です。
△月□日。
昨日は山の頂上を過ぎた辺りで天候が急変。猛吹雪になった。
視界が真っ白でとてもじゃないが進めない。
私の猿山事件がなければ巻き込まれなかったと考えると悔しい。
寒くて、暖を取ろうにもエカテリーナちゃんは休眠モードに入ってしまった。冬眠しないんじゃなかったの⁉︎うそだろ?お前、うっそだろ⁉︎
近くに身を隠せるような洞窟もなかったので、二人で魔法を使ってかまくらを作った。
そして、その……凍える体を温める為に抱きしめ合って密着した。私が膝の上に座る形で。
恥ずかしい。エースやジャック、クラブはまだお子様だし、お父様は父親でおじさんだから気にならないけど、お師匠様は普通に美形な年上のお兄さんって歳だから心臓に悪い!まともに顔見れないよ。
向こうは私を子供扱いしているけど、中身は思春期真っ只中の女子高生だから複雑。
それでも人肌は温かいのでそのまま私はコアラみたいな体勢で眠ったのだった。
◇月☆日。
ついに山を越えて港町に着いた。
潮風が気持ちいい。
山については完全に通行止めになっていて、季節が変わるまでは実家には帰れなくなった。
数週間は滞在するとのことなので私は家族と城へ向けて手紙を書くことにした。
港町にはとれたての海産物を扱う市場とその食材を使った料理を提供する店があり、とても賑わっていた。
クラーケン焼きなるものもあり、見た目は完全にたこ焼きだけど中身はイカだった。
だから相変わらず世界観……寿司はないのね。
そうそう、エカテリーナちゃんなんだけど休眠モードになった理由がわかったの。脱皮でした。
皮が剥けたら一回り大きくなって元気に動き回ってます。折角なので手紙の中に入れてみんなにお裾分けしよう。
☆月△日。
旅して一年が経った。
この一年でかなり逞しくなった気がする。
体力も付いたし、魔力の量も増えた。それでもまだお師匠様に勝てない。まぁ、こればかりは気長に待つしかないわね。
クローバー領と距離が離れ過ぎて手紙の到着がかなり遅くなった。一番新しい手紙には私の新しい妹が生まれたって内容だったわ。それでも一か月前だなんて……是非ともお祝いしたいのに。
お師匠様に相談したけど、まだ帰るわけには行かないんだって。悲しいよぉ……みんなに会いたい。
お師匠様にギュッとしてしてもらうことで発作は抑えれているけど、それでも会いたいという気持ちは消えない。
エカテリーナちゃんは更に大きくなって、投げるのが難しくなった。毒液もかなり強力になって鉄を溶かせるのもそう遠くない。
夢はエカテリーナちゃんの背に乗りたい。召喚陣から呼び出して、ドン‼︎って忍者みたいに。
光の巫女探しもやっているが、お師匠様もそこまで本気じゃない。薄々、まだ力に覚醒していないのに気づき始めているみたい。
その分、私への訓練が厳しくなってきた。本当に腹筋が割れちゃうよ……。
○月○日。
久しぶりにクローバー領の近くを通った。
目的地は別の場所なので通過するだけだったけど、懐かしい気持ちに浸れた。
手紙のやり取りで妹が初めて喋ったと書いてあった。クラブもお父様に鍛えてもらいながら勉強を頑張っている。
エースとジャックとの連絡はほとんど取れていないが、クラブの話だと王子として公務を手伝っているとか。
みんな元気そうでなにより。
私も元気。つい先日はお師匠様に一撃を当てることに成功したわ。凄い成長よね?
山賊の身包みを剥がすのにも慣れたし、カジノでは大きな山を当てたわ!
そのおかげで資金回りには随分と余裕ができたので、お師匠様にプレゼントを買ってあげた。
目を丸くして驚かれたけど、日頃のお礼なんだからね!深い意味なんてないよ。
▽月◎日。
あっという間に七年が経った。この日記帳も何冊目になっただろうか。
ついに今年は私が学園に通う年。つまり原作が始まってしまう。妹や両親には会えた。妹には泣かれてしまったけど、全然会えていなかったからね。
久々に料理長のご飯も食べれた。うちのご飯って実は凄く恵まれていたことに気づいたよ。
タイミング悪くてソフィアとクラブに会えなかったのは残念だけど、二人からの伝言で学園入学を楽しみにしていて欲しいと言われた。
お師匠様からは後は自主トレに励むようにと言われた。免許皆伝……みたいな感じでいいのかしら。悩むわね。
さて、始めようからしら。やれることは全部やったつもりよ。
この世界で生き残るための本番が始まるわ!
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