第14話 こんな召喚獣なんて聞いてない!

 

「お師匠様、私も召喚獣が欲しい」

「いきなり何を言い出すんだ君は」


 修行開始から少し日数が経ったある日、私はマーリンにおねだりをしていた。

 鍛練の内容としては筋トレや体力作りがメインだったが、やっと魔法についての座学が始まったのだ。

 場所はお庭で机と椅子を持ち出しての青空教室。室内で魔法使うのは危険だからね。

 そんな中、渡された資料の中に召喚魔法の記述があっ

 た。

 これだ!と私の脳に電撃が走った。

 ゲームの中で主人公が土壇場で成功させた召喚魔法陣。光り輝く魔法陣から純白の白馬が登場する。

 翼が生えてどんな場所もひとっ飛び。普通に走っても速い。後ろ足のキックは木を蹴り倒す威力。

 そんな超強力な召喚獣がいれば楽チンで主人公ちゃんに勝てちゃうのではないか?


「お師匠様はワンちゃんでしたよね?私も可愛いのが欲しいです!」

「召喚獣は召喚した主人の実力や技量によって左右される。今の君が召喚しても大したものは呼び出せない」


 そんなのやってみないとわからないじゃん!


「ちょっとだけ、一回だけでいいのでやらせてくださいよ〜」


 両手でゴマを擦りながら上目遣いで頼み込む。

 心身共に美少女の私からのお願い。これで堕ちなかったのはお母様ぐらい。

 キラキラした瞳に耐えきれなかったのか、マーリンは座っていた椅子から立ち上がると何かを準備しだした。


「まずはこれを持ちなさい」


 手渡されたのは中身が入っていないバケツだった。しかも二つ。


「そしてこれだ」


 杖を一振り。すると、何も入っていなかったバケツに水が張っていく。

 水の無いところでこのレベルの水魔法を発動出来るなんて!と感心する。

 天才魔法使いなだけあるわぁ。


「お師匠様、これは一体……」

「これはだな、」


 ごくり、と唾を飲む。

 水を使った召喚。水棲生物なのか、それともこの水を更に別の素材に変化させたり……


「罰だ。そのまま一時間立っていなさい」

「えぇ⁉︎」


 酷い。私の期待を裏切ったうえに体罰なんて!


「君が何を焦っているのか知らないが、先走る癖をどうにかしなさい」

「私はただ純粋に召喚獣を呼んでみたかっただけですよ〜おほほ」


 貴方が探している光の巫女をぼっこぼっこにするためですとは口が裂けても言えない。

 マーリンが味方にいる間に彼の持つ魔法や技術を会得しないと主人公に逆転されてしまう可能性がある。

 最悪の場合は私がマーリンと戦うなんて展開もありそう。

 死闘の末、死亡。なんてことにはなりたくない。光の巫女が見つかるまでになんとしても強くならなくては。


「………よし。君の実力を知るためにもやってみようか」


 あんな態度で誤魔化せた?と疑問に思ったけど、マーリンは今度こそ石筆を取り出して地面に召喚陣を描き始めた。


「実際のところはこの召喚陣は最初の一回だけで良い。本契約を済ませれば魔力を消費するだけで召喚できる」

「でも、お師匠様はワンちゃんを呼ぶ時は使ってましたよね?」

「あれは君のメイドを探すためだけに呼んだ召喚獣だ。私がきちんと契約している召喚獣は別にいる」


 手元の資料を読み進めると確かに書いてある。原則的にパートナー召喚獣として契約できるのは一匹だけだと。


「準備はできた。君にどのような適性があるのか召喚して試してみよう」

「はい、お師匠様」


 資料には細かい注意書きもあったけど、まずはともあれ召喚だ!

 指示された召喚陣の中に入り、両手を地面につく。このまま魔力を流し込むだけで完成と。

 口寄せ!とかゲームの召喚!とかココロオドルわよ。

 すうっっと体から力が抜けていく。まだ本格的な魔法を使ったことがないからむず痒くなるけど慣れなくちゃいけない感覚。

 必要な量に達した魔法陣は以前見たマーリンのソレと同じ輝きを放つ。

 他人ではなく自分の力で魔法を発動させた高揚感を感じていると、浮かび上がる一つの影。

 ゲームの登場キャラにはそれぞれパートナー召喚獣が設定されている。


 主人公は馬。

 クラブは鳥。

 ジャックは虎。

 エースは獅子。


 マーリンだけはゲームでパートナーを召喚するイベントが無かったけど、メインキャラ達に負けない強い召喚獣がいるはず。

 シルヴィアは召喚獣を使役するほどの力が無かったから、私が成功させると大きな分岐をすることになる。

 それがどう影響するのか……。


 光が一際大きくなり、なんだかソシャゲのガチャみたいだと思った。


「シャ〜」


 現れたのはツヤツヤとした鱗で全身を覆われた細長い……


「蛇……」


 可愛くない。しかも色が明るくてカラフルな蛇。こういう生き物って毒もちで危険じゃなかったかしら。


「ほぅ、蛇とはまたレアだ」

「そうなんですか?」

「呪術師や黒魔女、表では中々見れないからな」


 つまり、怖い方々の世界だと見れるってことですよね?

 見た目が悪役っぽい私の使い魔が蛇ってイメージ通りだけど、そうじゃないんだよ。カッコいいか可愛い系がいいの。サイコホラー感いらないから。


「シャ〜」


 蛇が舌をちらちらさせながら足元に近づいてくる。

 私はその場にしゃがみ込み、蛇の瞳を見つめて、


「チェンジ」

「シャ⁉︎」


 いや、だって蛇だよ。爬虫類苦手なんだよ私。

 昔に人間丸呑みする蛇の映画を見てから軽くトラウマ。サメも怖いから海よりプール派だった。空飛んだりする種類なら平気だけど。


「君の適性だ。拒否はできない」

「適性って変えれないんでしょうか……」

「諦めたまえ」


 がっくりと項垂れる私。

 仕方なく、本当にしょうがなくだけど契約に移る。

 果実用のナイフで軽く指先を切って出血させる。そのまま血を蛇に飲ませて完了。

 この儀式のせいで蛇が血の味覚えて人間を襲わなきゃいいけど。


「シャ〜♪」

「うへぇ……」

「君の召喚獣だ。責任を持って世話するんだ」


 とかなんとか言って距離取るのやめません?

 まぁ、あからさまに危険そうな蛇ですけど私に懐いてるみたいですよ。初対面なのに。


「でもこの子、結構ひんやりしてますね。夏は重宝しそうです」

「何故君は蛇の有効性を考えているんだ」


 蛇を持ち上げて首に巻いてみる。

 体長が1メートルくらいしかないけど、重みはある。鱗も思ったよりはざらざらしてない。程よい弾力があって触感は悪くはないか。


「シャ〜」

「……平気なのか?」

「意外と。マフラーに擬態させて持ち込むとかできそうですね」


 使い魔は必要な時に呼び出したり、常に出しておいて命令したりと使い道がある。魔力を消費するのは呼び出す時だけだから出したままがいいけど、その分お世話したりするのが手間だし、馬とか獅子って邪魔だよ。

 蛇ならとぐろを巻いていれば場所とらなさそうだし、狭いところに侵入させるのもあり。偵察にはピッタリだ。


「でも冬とか寒いのはなぁ……」

「シャー!」


 私が思っていた感想を口に出すと、蛇は大きく口を開いて火を吹いた。マッチ棒ぐらいだけど。


「寒いの平気?」

「シャ〜」

「冬眠しない?」

「シャ!」


 私の質問に頷いて声を上げる蛇。

 何を言ってるかまでは理解できないけど、こちらの質問にイェスかノーで返事できるくらいには賢いみたいだ。


「お師匠様、私この子にしますね」

「召喚獣は主人次第で成長もする。火を吹く蛇なら期待できるだろう」

「成長……乗れたりするのでしょうか?」


 蛇に乗る人ってあまり見たことないけどそこまで成長するかなぁ?蛇って龍と同一視されるパターンもあるし、空飛べばむかしばなし風に楽しめるかな?


「それは君次第だ。とりあえずはその蛇を首から降ろした方がいいかもしれん」


 え、どうして?という疑問を浮かべると、悲鳴が聞こえた。


「お、お嬢様が蛇に首を絞められて襲われてる⁉︎」


 そっか、側から見たら捕食されそうになってるのね私。





 この後、ソフィアを安心させるのに時間がかかった。

 両親とクラブに蛇を見せると引きつった笑みで対応してくれたので、今度何かあったらこの子をけしかけてみよう。

 余談ですがバケツの復讐に昼寝しているマーリンを驚かせようとしたら蛇が引きちぎられそうになったので慌てて戻しました。私は反省中のプレートを持たされて正座させられました。



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