第12話 私、そんなの聞いてない!
夢を見た。
遠い世界、日本にいた頃の夢だった。
地味で大人しい私。清楚なイメージが今はあるけど、日本にいた頃はただ目立たなかった。
内弁慶ではあったし、匿名でネット炎上してしまったのは苦い思い出だ。
青春を持て余し、仲の良いオタ友達と遊んだりゲームをすることに青春を費やしていた。
【どきメモ】はそんな私が一番どハマりした作品だった。
学校終わりにクラスメイトからカラオケに誘われたのに用事あるから!と嘘ついてまでゲームしてた。……今思うとカラオケ行けば良かった。女子高生らしい思い出が無いまま異世界なんて悲しい。
数少ないオタ友達ともっと語り合いたかった。【どきメモ】の今後の展開や大型アップデート……アップデート?
そういえば友達が言っていたような気がする。アップデートで追加される○○○○○が○○○で○○○する………
ダメだ、スマホを触りながら聞いていたから肝心なところが……
また……意識が遠のいて………
目が覚めると知らない天井だった。
「この展開に覚えがあるけど、ここどこ?」
「それだけはっきり喋れるなら大丈夫なようだな」
独り言のつもりだったのに、返事があった。
黒髪の青年だ。
「お嬢様!!」
そしてソフィア。感極まったのか、半泣きで抱きついてきた。
よしよし、と頭を撫でながら抱きしめ返す。
見たところ大きな傷も無いようだ。
「怖かったでしょ?もう大丈夫よ」
「ゔぅ……ありがとうございます……」
しっかりして大人びているといってもまだ子供。それが誘拐なんてされて怖いわけがないもの。
「お兄さん、誘拐犯達はどうなったの?」
「眠ったところを縄で縛って衛兵達に引き渡した。攫った相手が貴族の使用人だったし、本来の狙いは君だったようだ。重罪だろう」
とりあえずひと安心ね。
私の大事なメイドを誘拐してくれたんだから後からお礼参りをしてあげなくっちゃね。覚悟しておきなさいよ。
「今、この町長の家で領主のクローバー伯爵が犯人達の処遇について話し合っているところだ」
「お父様がいるの⁉︎……私達のことって……」
「屋敷を抜け出したあげくに誘拐未遂。護衛も付けずにノコノコ外を出歩いたと御冠だ」
顔を真っ赤にしてギャーギャー吠えるお父様の姿が目に浮かぶ。
それに、このことは確実にお母様の耳にも入るだろうから今のうちに適当ないいわけを考えておかないといつまでもネチネチと叱られてしまう。
「ソフィア助けて……」
「お嬢様、二人仲良くお叱りを受けましょう」
「そんなぁ」
嘆く私を見て黒髪の青年がくっくっくっ、と笑った。
こっちは凄く真面目なんです。うちの両親は過保護なのかすぐ私に注意してくるんです!クラブには何も言わないのに私だけ。不公平じゃなくって?
「そうだ。コレお返ししますね」
私は服のポケットに入れたままだった紫の玉を取り出した。
結局、使うことが無かったけど借りっぱなしは良くないからね。
「いや、それは君にあげるよ」
「え?こんな高価そうな物を頂いていいんですか?」
魔法道具っていいお値段するって聞いてたよ?クラブが練習に使っていたものでさえドレス一着を仕立て上げれるぐらいの価値があるって聞いたんだけど。
「誘拐された時にでも自衛の手段がないと困るだろう。君は同じ過ちを何度も繰り返しそうだから」
「ありがたく頂きましょう。お嬢様には必ず必要な物ですよ」
それって、お前は危なっかしいから持っとけってことですか?
ソフィアも同じ考えなの?主人を貶してない?
「まぁ、くれるなら貰っておきます」
しぶしぶと私は紫の玉をポケットに入れ直した。
釈然としないが、魔法の練習に使えそうだからよしとしよう。
ぶーぶー、と頬を膨らませて納得いかないと文句を言っているとドタドタと部屋の外から足音が聞こえた。
「シルヴィアはいるか!!」
足音の主はノックすることもなく、勢いよく扉を開いた。
「え?なんでジャックがいるの?」
お父様かと思ったら友達の第二王子でした。
銀髪の髪の毛から汗がこぼれ落ちそうだけど走ってきたの?
「シルヴィア達と遊ぼうとこっそり訪ねたら貴様はいないし、屋敷内が慌ただしいと思ったら誘拐されて意識が無いと連絡が入ったのだ」
誰だよ連絡係。そんな報告したら大騒ぎになっちゃうじゃん。
あと、さらっと言ったけど連絡無しでうちに遊びに来るの辞めてって言ったよね?友達とはいえ王子が遊びにくるならそれなりの準備が必要だからってお話したはずだよ。使用人達の気が休まらないから事前に連絡するように約束したよね?
「まぁ、ここに来て詳しい話を聞けば大したことなくて安心したがな」
誘拐犯捕まるための策に自分から突っ込んで眠っただけですしね。
「ご心配をおかけしました。わざわざありがとうね」
「ふん。全く、このオレを心配させるなんて不敬な奴だ……おいシルヴィア。それはどうした⁉︎」
ジャックが指差したのは不揃いに切り揃えられた私の髪だった。
「あぁ。これはね、」
「連中は屯所だったな?腕の一本や二本切り落としてやろうか」
「ストップストップ!しなくていいから。これは必要だったから自分で切っただけなの!」
目がマジになったジャックを引き止める。
髪切っただけで腕なくなるなんてホラーだよ。
「ソフィアを探すのにこの人に手伝ってもらってね。その時に目印になるのが私の髪くらいしかなくて」
「そうか。それならいいが……この男は誰だ?」
しがみついて引き止めた甲斐もあって落ち着いてくれたジャック。
今度は初めて会う青年のことが気になったようだ。
「この人は………誰だっけ?」
紹介しようと思って私は固まる。
そういえば名前も素性も知らない。
助けてくれるから手伝ってもらったけど、知らないお兄さんだ。
「いや、それはダメだろう」
「お嬢様のお知り合いかと思っていたのですが……」
必死だったから気付かなかったけど、知らない魔法使いに髪の毛まで渡して二人で行動するとか誘拐されてもおかしくない案件だよ。
「自己紹介もしていなかったな。私はマーリン。マーリン・シルヴェスフォウ。旅をしている魔法使いさ」
黒髪の青年はそう名乗った。
それに対する私達の反応はそれぞれだった。
「ありがとうございましたマーリン様!」
何も知らないソフィアは素直にお礼をいい、
「マーリンだと……?あの最年少で魔法学園を卒業した天才魔法使いの?」
魔法やその他の知識を勉強中のジャックは思いもしない有名人に出会えたことで目を丸くした。
「嘘……嘘だと言ってよマーリン」
私は顔を真っ青にして頭を抱えた。
驚いてはいる。驚いているよ口から心臓が飛び出しそうなくらい。
魔法使いマーリン。ジャックが言ったように魔法の才能に溢れて学園在学中に教師より強くなる。様々なオリジナル魔法を生み出して世間に名を広げた天才。その正体は人と妖精とのハーフで、ある日神様から啓示を授かる。
光の巫女を探し出し、それを幸福へと導け。さすれば世の中に平穏が訪れるだろう。そしてそれはお前の望む未来にも繋がる。
凄く曖昧な上に胡散臭い啓示にとりあえずしたがって光の巫女を探すマーリン。
中々見つからない巫女探しに疲れた彼は古巣である学園に教師として舞い戻る。
そしてそこで、運命的な少女と出会う。彼女こそが光の巫女だと確信したマーリンは少女が陥る様々な困難や試練を手助けし、育て上げる。
【どきメモ】の主人公をサポートしてくれるお助けキャラとしてね!攻略対象の一人でもあるしね!!
お屋敷から抜け出して誘拐事件に巻き込まれたら将来の敵陣営の筆頭に出会いました。
これが私に対する罰なのかよ!!チクショー!
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