第9話 サプライズなんて聞いてない!
本日の天気は晴天。いい洗濯日和ですね。
「お嬢様、まもなく馬車が到着しますよ」
「わかったわソフィア」
王子様遊びにおいでお茶会から半月後。ついにこの時がやってきた。
私としてはもっと早くて良かったのだけれど、両親や使用人達が首を縦に振らなかった。
王族を迎えるならそれ相応の準備が必要なのだと言われた。絨毯を張り替えたり、床を磨きに磨いてピカピカにしたりと、年末の大掃除規模の屋敷清掃が開始されたの。
そしてやっとこさエースを出迎える準備が整って、手紙を書いた。返事にはサプライズの手土産を持ってくると書いてあって、楽しみだ。
新作ケーキとかだと嬉しいな。お菓子類なら私はウェルカムです。
「白馬の馬車とか……」
屋敷の入り口に止まったのは見事な毛並みの白馬が二頭。うちの屋敷の馬達と違って肌ツヤも足の筋肉も段違い。
馬車も金や銀の装飾があって、いかにも重要な人物が乗ってますよ!ってアピールしてある。
狙われたりしないの?という疑問については、凄腕の護衛騎士が付いている。鎧姿の騎士とか絵本から飛び出してきたみたいだ。
そうやってボーっとしていると、馬車の扉が開いてエースが降りてきた。
「ようこそおいでくださいました」
「本日はお招きいただきありがとう」
最早クセレベルで完璧なスカートつまみ。この日のためにお母様から厳しい指導を受けたのだ。
ちなみに両親は前々から予定があって今は屋敷にいない。なので、もてなす側のトップは私。責任重大。
「紹介しますわ。こちらが弟のクラブです」
「初めまして。僕はクラブ・クローバーといいます。エース王子、よろしくお願いいたします」
「よろしくクラブ。君の話はシルヴィアから聞いているよ」
ニコやかスマイルで握手するエースと、恐る恐るその手を掴んで緊張してるクラブ。
社交界デビューしてないクラブからすれば他の貴族と接するのは今日が初めて。しかも記念すべき一回目は王族。
それは緊張するよね。
「シルヴィア。実は君にサプライズがあるんだが、ここで話してもいいかな?」
「ここでですか?」
まだ玄関ですけど。お茶会するにはまだ時間が早いと思うけど、何かな?
「降りておいで」
エースが馬車に向かって言うと、再び馬車の扉が開いて一人の少年が登場した。
ギラギラとした銀髪の主は仏頂面でそっぽを向きながら歩いている。
「こっちは弟のジャックだ」
「ふん。相変わらず殺風景な屋敷だな。喜べ、オレが遊びに来てやったぞ」
私聞いてない。
側で控えていたソフィアが目で訴えかけてくるけど、私だって知らなかったんだってば!
「お久しぶりですジャック様」
「あぁ」
そっけない態度とはいえ、挨拶を返してくれるようになっただけマシということか。
前回のビンタの所為で嫌われたと思ったけど、そこまで機嫌悪そうじゃなくて良かった。
「すまない。君達をビックリさせようとして連れてきたんだ。もちろん、宮廷料理長からのお土産で新作菓子もあるから心配しないでくれ」
「はい、大丈夫です。問題ありませんわ」
きっとソフィアがどうにかしてくれるはず(他人任せ)。
二段構えでサプライズ。キチンとお菓子を持ってきてくれるならチャラよね。
「ではお二人ともこちらへ」
クラブと一緒に二人を案内する。
普通なら応接室なんだろうけど、今日は遊びに来てくれたのだ。おもちゃがある子供部屋がいいでしょ。
「ここは初めて入るな」
「ジャック様と前にお話したのは応接室で、ここは私の部屋です。隣がクラブの部屋。この二つが子供部屋ですわね」
私の部屋は毎日ソフィアの手入れがされているので綺麗だし、急遽用意したクラブの部屋より広くて豪華だ。
それでも、王族の二人の部屋と比べたら雲泥の差だろうが。
「いかにも女性の部屋って感じだね」
「母上の部屋に似ているな」
同年代の女の子の部屋が珍しいのか、二人共キョロキョロとしている。
あんまりジロジロ見られるとちょっと恥ずかしいな。というか、私自身も家族以外の男子を部屋に招き入れたなんて初めてじゃなかろうか。
「見ろ兄上。こんな大きな宝石が」
「見たことない種類だ……城にもないぞこんなの」
真っ先に二人が注目したのは窓際に飾ってある拳大の球体だった。
あの、言い難いんですが。
「それ、泥団子です」
「「なにっ⁉︎」」
声を揃えて驚く王子達。リアクションは双子らしく似ていた。
「泥?こんな色の泥があるのか⁉︎」
「絵の具を混ぜてあるんです」
「だが、だとしてもこの輝きは」
「それ、クラブが一ヶ月以上磨き続けたんです」
軽い気持ちで進めたのに、今では私以上に作るのが上手くなってしまった。
一番出来がいいのを飾るように貰ったのだが、クラブの部屋にはまだまだ大量の泥団子が生成されている。将来的にはボーリング玉サイズを作るとか。
「凄いな。貴様の弟は」
「そりゃあ、私の弟ですから」
「姉さん!恥ずかしいからやめてよ」
謙遜しなさんなクラブよ。泥団子に対するあなたの執念は本物よ。お姉ちゃんちょっと引いてるから。
「これはなんだい?」
「そちらは紙飛行機ですね。……折り紙で作った鳥みたいなものです」
紙飛行機って通じないから説明が困るな。
「こうやって、ほら!」
部屋の端から対角の端に向かって投げると、ゆっくりふわふわと飛ぶ。
「おぉ!凄いぞ!」
「風の魔法じゃなくて折ることで風を切り裂いているのか……素晴らしいな」
「こちらもクラブ制作でございます」
「「うむ。見事」」
「ね、姉さん!」
定規まで持ち出してミリ単位で調節してたの知ってるからね。
私の知ってる折り方は全部マスターしたし、クラブには折り紙博士の称号を与える!ってね。
「他には何かないのか?」
「こうも色々あると目移りしてしまうな」
「まぁまぁ。室内の遊びは限られていますから。………自作のボードゲームならありますよ」
「まさか姉さん、アレを⁉︎」
クラブの反応に王子二人が何を出すつもりだ⁉︎と不安そうにしてるけど、ただの人生ゲームです。
この世界にも娯楽はあるけど、オセロとかチェス。あとは陣取り合戦?みたいな小難しいボードゲームくらいだ。トランプもあったね。
ゲーム機とかはないので、遊びの種類が限定されがちなのだ。
そこで私は考えた。刺激的で大人数でも遊べて、例え相手が年上だろうが王様だろうが関係ない運のみで勝負する……そう、それこそが人生ゲーム!
小さなボールを相手のゴールにシュート!!!!するエキサイティングなバトルできるドーム型の玩具も欲しいけど、人生ゲームだったら紙とサイコロあれば作れるからそっち選ぶよね。
「はい。玉の輿で上位貴族と結婚……ご祝儀をみんなから貰うですって〜」
「貴様!まだオレから金を奪うのか⁉︎」
「財政的な余裕が……現実でも結婚ラッシュが起こるとこのような弊害が」
「……子供が誕生。ご祝儀をくださいみなさん」
遊びなのに真剣に取り組む男子達。クラブは私とソフィアと何回か遊んでいるから要領がわかっているけど、残り二人は今日が初プレイ。
ジャックは止まるマスでお金がどんどん減って借金状態。エースはまぁまぁお金を増やすけど、出る目が悪くて大きな額は出ない。
その点、私は常にクリティカルな目を出してご祝儀や出産祝いを取り立て。旦那が死んで再婚、王妃になるって!!
「くっ……かつての夫を捨てて新しい男を作るのか貴様は」
「いや、ゲームですから。ジャック様、足りないのであれば銀行から借金しましょ?」
「笑えない。このゲームは笑えない……もしこれが現実だったら俺は愚王として」
「エース王子、これは姉さんが作った遊びですから!そんなに落ち込まないでください!!」
結果発表。
一位は私。
二位は最後の清算で逆転したエース。
三位は惜しくも出た目が悪かったクラブ。
ぶっちぎりの最下位はジャック。私が稼いだ額より借金が多いとかどれだけ運ないのよ。
「もう一回、もう一回だ!」
「えぇー。そろそろお茶会にしませんの?」
悔しがるジャックが駄々をこねるが、そろそろおやつの時間だから却下。
ソフィアを呼び出してお茶の時間にしてもらった。
「しかし、シルヴィアはよく色々と遊びを思いつくね」
「人生は楽しんだもの勝ちですから。楽しむためには労力と知恵を惜しみませんの」
「ふん。遊び呆けて勉強できないだけじゃないのか?」
「そうですわね。私が今勉強しているのは学園の初年度くらいですからまだまだですわね」
「ふ、ふーん。そ、そ、そうか」
あからさまに動揺する銀髪王子。
馬鹿にしないでいただきたい。
こちとら人生二回目なのだ。しかもゲーム通りのポンコツのままだと破滅しかないので、勉強はしっかりやっている。目指すは学年トップ!
「それは凄いな。俺も学園の勉強に手をつけたいが、予算案や他国との交流会のせいでそこまでは……」
いや、その年齢で国営に関わってる方が凄いから。
私なんて屋敷の総資産額とか領地の税金とか知らないよ。自分の知識とこの国の情報を照らし合わせるだけで他国とか手に負えないし。
「貴様はどうだクラブ」
「僕は姉さんほどじゃないので」
「ふっ。そうか」
「二つ上の勉強くらいまでしかわかりません」
「…………貴様もか」
そんなに卑下しないでいいのにクラブ。
私みたいな転生チート無しでエースみたいにバグってないなら十分だと思うよ。
ジャックは年相応の勉強で精一杯らしい。お馬鹿ってわけじゃないから落ち込まないで。
「学園の勉強に入っているなら魔法の訓練もしているのかな?」
「えぇ。ただ、こちらはあんまり上手くいっていませんの。中々、師事する方が見つからなくて」
「伯爵家だと苦労するな。まぁ、オレのように二つの属性を持っていないならいずれ見つかるだろうさ」
「ジャック様。私、四属性持ちなんですの」
「「なんだと⁉︎」」
これにはエースもビックリ。
またもや双子のリアクションが被ったのであった。
「言っておきますけど僕は一つです。クローバー家は殆どが一つだけで、ごく稀に二つ持ちがいるくらいなので、姉さんだけ突出しています」
「王族は多重属性持ちが多いけど、それでも大半は二つまでだ。それを四つもなんて」
「両親は後天的魔力発生病のせいじゃないか?って話していました」
「シルヴィアはあの病気の生還者だったのか。……俺達は双子だが、本当は上に兄がいたらしい。幼い頃にその病気にかかってね」
「そのせいか、母上と父上は健康管理や食事にうるさいのだ」
そんな裏話があったとは知らなかった。
この後天的魔力発生病って主人公ちゃんを学園に入学させるための設定くらいにしか思っていなかった。
でも、病気になった本人や家族からしたら最悪の病を引き当てたことになるのよね。
「どういう経緯で多重属性持ちになったのか参考にしたかったけど、真似できそうにないね」
「むしろ、よく生きていたな」
「まぁ、いっぺん死んだようなものですから」
多分、きっかけはあの病気だ。
前世の私の最期がどうなったのか思い出せないけど、魔力を発現したのと転生したのはほぼ同時。
転生したから多重属性持ちになったのか、病気になったから転生したのかはわからない。
ゲームでは主人公が転生者だっていう設定はないから、後者ではないと思う。原作通りならシルヴィアは
一つしか属性がなかったから。
「ジャックが多重属性持ちだけど、俺は一つしかないからね」
「嫌味か兄上。オレは火と水だが、兄上は光属性だろう」
「光属性……四大属性以外ってとても珍しいじゃないですか!」
「そうなのクラブ?」
「うん。光属性はこの国の主神様が司る属性で、建国した初代国王も光属性だったらしいんだ」
珍しさでいえば、光属性単体の方が上のようだ。
ここでも運がないのかジャックは。なんていうか、もうグレさせるためだけに作られたキャラクター感があるよね。
「そうなると、この中で純粋に魔法適性が低いのは僕だけなんだね」
いけない。私の可愛いクラブが落ち込んでしまっているわ!
亡くなった叔父・叔母から期待され、最近ではお父様からも魔法の腕を褒められていたのに。
「くだらん。属性の数や希少性だけで全ては決まらんぞ」
「ジャックの言う通りだ。クローバー家は風魔法が得意だ。その家に合った属性の方が学びやすいだろう。希少性が高いほど関連する資料も少ないし、シルヴィアの様に指導者探しが難しくなる。四属性ともなれば政略結婚の対象として注目される。自由な恋愛など困難だろう」
うげぇ。
それって苦労しかしないじゃん私。そんなんなら原作通りの展開でお願いしますよ。
政略結婚相手が肥えたおっさんとか嫌だよ私。他国にお嫁とかも嫌……ただ、伯爵の娘だから断れないよね。
自称天才魔法使いからサラブレッドの牝馬になった気分です。ヒヒン。
「そうですよね。僕は僕なりに頑張っていきます」
「それがいいさ」
お姉ちゃんが大丈夫じゃないのにクラブが一人で立ち上がりました。
姉さんだから仕方ないよね?みたいな目で見られても困る。
「心配するな。嫁の貰い手がない時は……」
「ない時はどうするんですか?」
急に言い淀むジャック。
気になるところで途切れさせないでよ。
「シルヴィア。もしもの場合は王家の方でも良縁を探すよ。四属性持ちなら国としても放ってはおけないし、王家の介入があれば選択の幅も少しは広がるはずだ」
「そう。オレはそう言いたかったんだ」
「本当ですか⁉︎忘れないでくださいね!」
「もちろん。大切な友人のことだからね」
ありがてぇ……ありがてぇよ王族様。エースの背後から後光が差して見える。
お友達になれて良かった。このまま破滅フラグを起こさずにお互いの利益になる関係を築きましょうね。
「これは不味いよ姉さん」
ボソっとクラブが何か呟いたけどよく聞こえなかった。
そんなこんなで会話してると、ソフィアがお茶のおかわりを持ってきてくれた。
お城からのお土産だったケーキもとても美味しくて、大満足でお茶会は終了した。
その後はまたジャックが人生ゲームがしたいと言い出したので、仕方なく再戦することになった。
意地と執念で逆転勝ちした彼の提案というか、勝利者権限(私はそんなの使ってないのに)の力でジャックともお互いを呼び捨てにし合うことになったのでした。
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