アチラ側

第4話

 金曜日の業務を予定通りに終え、歳の近い顔馴染みと久々に集まって飲んでいた。皆が似たような仕事を通して、担当するクライアントさえ違えど苦楽を共にした互いによく知った仲間達だ。

 しばらくは互いの近況を共有しながら良い雰囲気の時間が流れていたのだが、フリーとして近年独立したその中の1人がいつしか商売目線で「カネ、カネ」と露骨なキーワードを頻発し始め、その場を独壇場に持って行きつつあった。普段余り意識することは無いが金の話を露骨にされること品が無いと思うタチなのだろうか、僕はシラけ気味に隣の別の者と引き上げるタイミングを窺いながら別の話題で会話を楽しんでいた。もしかすると、自分達がもっと若い頃に僕が人前で繰り広げていた、異性関係の情事を聴くに耐えないと感じていた者もいたのかも知れない。歳を重ねながら他人の様を見ながら我が振りを見直す機会も増えたように思う。


 普段であればこういった集いの際には、帰りは終電を意図して逃しては遅くまで浴びるように酒を飲んでタクシーで自宅へ直行するのだが、そんなこともあってか引き上げは早まり、かつこのまま真っ直ぐ帰路へ着きたくない持て余した感覚のまま、最寄駅への路線に乗り換えずに途中の駅の改札を通過していた。駅前のコンビニでレモンサワーを買い、すっかり人通りの無くなった国道を歩きながら飲み直し、次の駅前辺りでタクシーを拾うことにした。夜風に身を晒すと幾分先ほどまでのモヤモヤも晴れて来たように感じる。

 手持ち無沙汰に前を歩く女性に並びながら声を掛けると、ワイヤレスイヤホンで誰かと通話中だったらしく、「今男が話掛けてきた」と僕に聞こえるように言うので、「僕は不審者か?」とそそくさとその女性を追い越して隣駅を目指して歩いた。


 辿り着いた駅のロータリーには2台のタクシーが列を成している。

 飲み干してしまいそうな手元のレモンサワーが気になりながら、追加の一本を買い足してタクシーへ乗り込もうと高架をくぐった先のコンビニを認識したところ、進行方向の前方をゆったりと歩く一人の女性が目に入ったのでまたもや追い越し際に声を掛けた。

「お姉さん、帰宅中ですか?」

「…はい、そうですけど…?」

「急がれてますか?」

「特に急いではいません。主人も寝てますし…(笑)」

「であれば!何か飲み物買ってくるんでお散歩しません?」

「はぁ…」

「ビール飲めます?」

「お酒はちょっと…」

「じゃぁタピオカミルクティーでも飲まれます?」

「甘くないのが良いです…(笑)」


 高架先のコンビニで僕はレモンサワーを、彼女は野菜とフルーツのスムージーをそれぞれ手に取り、会計を済ませる。駅前のロータリーへ出たところで、当ても無く歩き回るくらいならここで良いではないかと、どちらからからともなく歩みを止めた。

 街路樹傍の腰より少し低い位置の調度良い高さのヒップレストに身を委ねて会話をしながら暫くすると、先ほどのコンビニから5、6人の大学生らしき男性のグループが出てきてはそこに留まり、わいわいとし始めたので場所を変えたくなる。

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