第20話 カナのわがまま
「……暇」
カナは俺の袖を引っ張りながら見上げてくる。
「んー、暇って言ってもなぁ……」
俺はカナの方を見て考える。もう外は暗くなってしまっているし、外で遊ぶというのは無理だろう。家の中で遊ぶと言っても、何も思いつかない。
「遊んで」
袖から手を離したと思ったら、カナは俺の腕を掴んで引っ張った。
「カナ、わがまま言わないの」
マナがやってきて、カナの頭を撫でる。
「お姉ちゃんうるさい」
カナはマナの手を払って俺に抱き着いてきた。
「こら、カナ!」
「いいって。カナ、何がしたい?」
声を荒げるマナを制止して、カナを見た。マナは納得いっていない顔をしていたが、渋々といった感じで自分の席に戻っていく。
「んー、外で遊びたい」
「もう暗くなってるからなぁ……」
「えー」
カナが頬を膨らませる。俺は室内で遊べる何かを考えた。
かくれんぼはどうだろうか。しかし、入ってはいけない場所があったら俺が知らずに入ってしまう恐れがある。それに、カナはどっちかと言うと体を動かしたいのだろう。
「どうしようか……」
カナは俺に抱き着いたまま、固まっていた。
「カナ……?」
声をかけても反応がない。すると、もぞもぞとカナが動いて顔が見える。
「寝てる……」
安らかな寝息を立てて、カナは俺に抱き着きながら寝てしまっていた。
起こしてしまうのも気が引けて、俺はカナを抱きかかえて立ち上がった。
「マナ、カナが寝ちゃったから部屋まで運びたいんだけど……」
俺はマナやカナの部屋の位置を知らない。マナにそういうと、つまらなそうに立ち上がり、俺をカナの部屋まで案内してくれた。
カナの部屋は服やノートなどが床に散らばっており、お世辞にも綺麗な部屋とは言えなかった。唯一、ベッドの上だけは何も乗っていない。
俺は物を踏まないように慎重に動き、カナをベッドまで運んだ。
カナを降ろそうとすると、カナは俺に抱き着く力を少し強めた。
「ごめん、起こしちゃったか」
寝ぼけ眼でカナは俺を見つめ、次にベッドを見た。
「一緒に寝よ?」
カナは俺から一旦離れると、掛布団を退かして俺の腕を引っ張る。
「え……」
「もう、早く!」
俺が困惑していると、カナは強い力で俺をベッドに引っ張り込んだ。カナの横に倒れるように寝転がると、俺をがっちりと抱きしめて嬉しそうに顔を擦り付けてきた。
「おやすみ」
「お、おやすみ……」
今の状況がいまいち飲み込めないまま、カナは幸せそうに寝息を立て始めてしまう。
「どうしよう……」
カナが俺から離れる様子もないし、起こしてしまうのも気が引ける。
俺は動けないまましばらくカナの横で寝転がっていた。
「んん……」
しばらくすると、カナが俺から手を離して寝がえりをうった。俺はゆっくり立ち上がると、掛布団をカナにかけなおし、部屋から出る。
「はぁ……なんだったんだ……」
俺はため息を吐いてフロアの方に戻った。
まだ、カズキたちは飲んでいるみたいだ。俺が席に戻ると、マナが席を立って近づいてきて、果実酒の入ったグラスを俺の前に置いた。
「お疲れさま、トーマ君」
「あ、ああ。ありがとう」
少し言葉に棘がある気がするのは気のせいだろうか。
俺が果実酒に口をつけると、マナは自分の持っていたグラスを持って、一気に飲み干す。
「じゃあ、次は私ね」
マナは自分の椅子を引っ張ってきて俺のすぐ横に置くと、椅子に座って俺にもたれかかってきた。
周りの獣人がひゅーと口笛を吹くのが聞こえる。俺は頭を掻きむしり、残っていた果実酒を飲み干した。
転生したら勇者になりたかった @山氏 @yamauji37
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