第19話 飲酒

「みんな飲み物は持ったか?」

 カズキが周りを見渡して声をかける。

「大丈夫だよ」

 マナも周りを見て返事をした。

「じゃあ、乾杯!」

「「かんぱーい!」」

 カズキの声に合わせて全員がグラスを前に突き出す。コンッと小気味良い音を立てて、グラスが鳴った。

「トーマ君、お疲れ様」

 マナが笑って俺の方にグラスを突き出す。俺もグラスを出して打ち鳴らした。

「ありがとな。マナもお疲れ」

 俺はグラスに口をつけると、口内に違和感を感じた。

「これ、お酒か……?」

 頼んだのは果物のジュースという話だったと思うが……。

「うん、果実酒だよ」

「え、この国って未成年でも酒飲んでいいのか……」

「ミセイネン?」

「なんでもない」

「?」

 マナは首を傾げていた。そもそもこの世界には未成年と言う概念がないらしい。

 カズキたちはごくごく果実酒を飲んでいる。少し人間よりも老けて見えるせいか、居酒屋にいるおっさんのようだった。

「ん、なんだよ。あんまり飲んでねえじゃねえか」

 俺の視線に気付いたカズキが、席を立って俺の隣に来た。

「酒は苦手なんだよ」

 元の世界では俺はあまり酒が強くはなかった。上司の飲み会に付き合わされた時、何度か吐いたこともある。

 無理矢理付き合わされていたこともあって、あまり酒にいい思い出はない。

「珍しいな。酒が苦手なんて」

「好き嫌いくらいあるだろ」

「まあそうだな。じゃあ無理して打ち上げに付き合わなくてもよかったんだぞ?」

「酒が出てくるとは思ってなかったんだよ……」

「お前、ホントにこの街のこと何も知らないんだな」

「悪いかよ」

「別に悪いとは言ってねえよ。そんなだから俺はお前と今こうやって話してるわけだしな」

 カズキはニヤリと笑うと、持っていたグラスの中身を一気に飲み干した。

「俺のも飲むか?」

 俺が自分のグラスと差し出すとカズキは「お、いいのか?」とグラスを受け取ってこちらも一気に飲み干す。

「カズキ、こっち来いよ」

「おう! じゃあ、またな」

 カズキは他の獣人に呼ばれて先ほどいた席に戻っていった。

「トーマ君、お疲れ様」

 カズキの次はマリアが声をかけてきた。

「おう、マリアもお疲れ」

「みんなトーマ君のこと話してたよ? ドッジボールで残ってた人って」

「ちょうど狙われなかっただけだろ? あんまり過大評価しないでくれよ……」

「そんなことないよ。トーマ君、すごかったよ? 最後はまあ……残念だったけど」

 マリアが俯きながら言う。

「残念って……」

「あ、そう意味じゃなくて!」

 慌てて手を振るマリアを見て、俺は吹き出した。

「わかってるって」

「もう!」

 マリアと話していると、服の裾をくいくいと引っ張られる。そっちを向くと、カナが顔を赤くして俺の方を見ていた。

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