第16話 ドッジボール
俺が出る最後の種目、ドッジボールが始まろうとしていた。
チームは十人。バスケットボールくらいの大きさのボールを、先に相手にぶつけて地面に落とし、コートの中に人がいなくなったら負けというシンプルなルールだ。
顔面に当たったらセーフ、地面に落ちる前に誰かがボールをキャッチできてもセーフらしい。
俺たちのチームは、獣人が七人、人間が三人だ。対する相手チームは獣人が六人、人間が四人と一人だけ人間の数が多い。
じゃんけんで最初にどっちがボールを持ってスタートするかを決め、コートに入る。最初は白チームのボールだ。
「足引っ張んなよ」
「ああ、やれるだけやってみるさ」
カズキは俺の肩を叩いて、前に出た。そして、大きく振りかぶってボールを投げる。
「まず一人!」
投げたボールは獣人の一人に当たり、地面に落ちる。
「おお、すげ」
ボールはこっちのコートに返ってくる前に獣人の一人が取り、そのまま投げた。
「あっぶね」
俺は飛んできたボールを横に飛んで避けた。すると、後ろに居た人に当たり、地面に落ちる。そのボールを拾い、思い切り投げる。
獣人はボールを軽々とキャッチして、俺に投げ返した。ボールは俺の胸に当たり、後ろに飛ばされる。しかし、ボールが地面に落ちる前に、カズキがボールをキャッチしたことで、俺はセーフだった。胸はめちゃくちゃ痛いが……。
「危なかったな」
カズキはボールを投げて人間の一人に命中させた。その後も激しい攻防が続き、残っているのは、白チームは俺とカズキとマナ、赤チームは獣人が四人になっていた。
「人間がここまで残ってるなんて珍しいな」
相手の獣人は俺の方を見て呟く。そして、相手はまず当てやすいであろう俺を集中的に狙いだした。
必死でボールを避け続け、その間にカズキやマナにボールを当ててもらう。赤チームは二人になり、焦りが見えてきた。俺から狙いを変え、マナを狙いだす。マナは平然とした様子で避けていたが、ついに足にボールが当たって倒れてしまった。
「大丈夫か?」
俺はマナに駆け寄った。
「う、うん。大丈夫だよ」
マナは少し恥ずかしそうに立ち上がると、コートから出ていった。
これで二対二だ。正直、俺が獣人相手に役に立てるとは思っていない。せめてボールに当たらないように避け続け、取れそうなボールを取るだけだ。
カズキがボールを掴むと、獣人の二人が構えた。カズキが投げたボールは、相手の獣人ががっしりとキャッチして、そのままカズキ、ではなく俺に向かって投げてきた。
ボールは俺の顔面に直撃して、その場で倒れる。カズキが駆け寄ってきたのが見えたが、俺はそのまま意識を手放した。
目が覚めると、俺は保健室のベッドの上に寝転がっていた。近くにはマナが座っている。
「大丈夫?」
「……結果は?」
マナの言葉に返事をするでもなく、俺は体を起こして聞いた。
「ドッジボールは白チームの勝ちだったよ。それよりも……」
マナは俺の顔を覗き込んだ。急に顔が近くなり、俺は目を逸らす。
「お、俺は大丈夫だから」
「よかった……」
一息ついて、マナは立ち上がった。
「それじゃあ、私はカナの応援に行ってくるから。トーマ君はちゃんと休んでね」
そういうと、マナは保健室から出て行ってしまう。休んで、と言われても体に異常は感じられない。俺は保健室から、グラウンドの様子を窺った。
何をやっているのかはあまり見えなかった。
「おう。もう元気そうだな」
カズキが保健室に入ってきた。
「ああ、もう大丈夫だよ。勝ったんだってな」
「当然だろ?」
カズキは笑って俺の肩を叩く。
「まあ元気そうなら安心した。それじゃあな」
「ああ、ありがとな」
カズキはそれだけ言って保健室から出ていく。
俺はベッドに寝転がり、しばらく休んでみることにした。
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