第14話 体育祭

 ついにこの日がやってきた。体育祭、本番だ。

 教室内は熱気で満ちており、いつも気だるげなソータでさえどことなくやる気を感じる。

「トーマ君、白チームは別の教室に移動だよ」

 マリアが俺に言って、自分の荷物を手に取った。俺はマリアについていき、別の教室に向かう。

 入った教室には獣人と人間が別々に固まっており、仲の悪さを感じさせる。

「あ、トーマ君」

 マナとカナが俺に近づいてきた。獣人も人も、俺たちの方に注目していた。

「今日は頑張ろうね!」

「ああ。どうせだから勝ちたいな」

 そのために練習してきたのだ。ほとんどカナと遊んでいたような気もするが。

「おいおい、人間が頑張ったって別に勝敗には関係ないだろ?」

 獣人の一人が嘲笑気味に言った。周りの獣人も、笑いながら「そうそう」と同意していた。

「せっかくおんなじチームなんだから、仲良くしようぜ」

 俺は獣人のグループに近づいて、手を差し出す。獣人は困惑したように俺の手と、周りの獣人の顔を見る。

「人と獣人が仲良くできるわけないだろ」

 結局、俺の手を取ることはなく、獣人たちは俺に背を向けた。

 俺は固まっている人の方に戻るでもなく、マナとカナと話す。

「まず短距離走から始まるから、トーマ君頑張ってね!」

「ああ、やれるだけやってみるよ」

 短距離走。走るメンツは獣人二人と人間二人の四人で一組だ。勝てるとは言わないが、せめて三位になるくらいには頑張りたい。

『第一種目、短距離走を行います。選手の皆さんはグラウンドに集まってください』

 校内放送が流れる。俺はグラウンドに向かった。

 グラウンドにはすでに何人か来ており、赤チームも白チームもお互いに談笑していた。もちろん獣人と人は誰も話していない。

「応援してるね!」

「……頑張ってね」

 マナとカナは俺たちに声をかけると、近くに設置された椅子に座った。

 そして、俺たちは走る順番に列に並ぶ。

「お前も短距離走に出てるのか」

 急に横から声をかけられる。横を見ると、練習場所を賭けて短距離走をした獣人がいた。

「同じ白チームみたいだが、せいぜい三位にでもなってくれや」

 俺が獣人に勝つことは微塵も考えていないらしい。かくいう俺も勝てるとは思っていないが。

「せっかくだし、獣人に勝てるくらい頑張ってみるよ」

 俺が言うと、獣人は吹き出して俺の肩を叩いた。

「お前、変な奴だな。勝てるわけないだろうが」

「最初から気持ちで負けてたら、勝てるもんも勝てなくなるぜ?」

「ふん、まあいいけどな」

「同じチームなんだから、応援くらいしてくれよ」

「はいはい、頑張れ頑張れ」

「そういえば、名前教えてもらっていいか? 俺は斗真」

「ああ、俺はカズキだ」

 名前は普通に教えてくれた。獣人は勝負事が絡まなければいいヤツらなのかもしれない。

「よろしくな」

「……俺たちの番、始まるぞ」

 カズキは俺の言葉に答えず、コースの方を見た。

 俺はスタートラインに立ち、軽く伸びをした。横を見ると、マナ達が手を振っている。

 手を振り返し、前を見た。

「位置について、よーい……ドン!」

 俺たちは一斉に走り出した。スタートダッシュは上手く切れた。あとはどれだけ獣人に差を付けられるか……。

 すでに前には二人の獣人が走っている。差は埋まりそうもない。

 俺は全力で足を動かし、ゴールラインを抜けた。

「はぁ……はぁ……」

 肩で息をしながら後ろを見ると、悠々ともう一人がゴールするところが見える。勝ち目のない勝負だと最初から全力で走っていないようだった。

「まあ、こんなもんか……」

 俺はマナたちの元に歩いていき「勝てなかった」と言って笑った。

「カッコよかった」

 カナが呟いて、走って行ってしまった。俺は呆然とマナの方を見ると、マナは笑った。

「短距離走では勝てなかったけど、まだ出る種目あるんだから、そっちで頑張ろう!」

「そうだな」

 俺はマナと教室に戻った。

 全体の結果としては、赤チームが優勢に終わっていた。

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