第13話 カナと練習という名の遊び
森の入り口での練習も何日か経ち、みんなこっちのグラウンドに慣れ始めていた。
カナはあれから俺とマナの三人で練習していた。練習と言っても、カナとボール遊びしているだけだったが。体力のない俺にとってはいい運動だ。
「疲れた……」
少ししたら、俺は木陰で休憩する。カナは俺の横にちょこんと座り、水筒を差し出してきた。
「ありがとな」
カナが森の中に入っていった事件のあとから、カナは俺にべったりになってしまった。
部屋にもよく顔を出すようになったし、毎朝俺を起こしに来る。
心を開いてくれているようで嬉しくもあるのだが、少し恥ずかしい。
「カナ、トーマ君のこと大好きみたいだね」
「そ、そんなことないもん」
マナに言われると、カナは顔を伏せて否定した。
「トーマ君、私たちも一緒に練習していいかな」
休憩していると、マリアとソータが声をかけてきた。
「ああ、もちろん」
俺一人ではマナたちの相手をしきれない。人数はできるだけ多い方がいい。
カナは警戒するように俺の陰に隠れてしまった。
「こいつらはカナのこといじめたりしないよ。それに、前も言っただろ? もし何かあっても、俺が守ってやるって」
俺はカナの頭を撫でて笑った。
「……わかった」
カナは俺の陰から体を出して、マリアとソータの方を見た。
「よろしくね」
マリアが手を差し出し、カナに握手を求める。カナはおずおずと手を出し、握手を交わした。
「ほら、ソータも」
マリアはソータの背を押して、カナの前に押しやった。
「……よろしく」
「……うん」
握手もなく、ぎこちない感じだ。
そういえば、ソータは元々獣人のこと嫌ってたんじゃなかったか? どうして一緒に練習する気になったんだろうか。
「ソータ、前のトーマ君が怒ってたのを見て、ちょっと獣人の見方が変わったって言ってたよ」
マリアが俺に耳打ちした。
「おい、あんまり変なこと言うんじゃねえ」
ソータが恥ずかしそうにこっちを見る。マリアは口笛を吹きながら俺から離れていった。
「そういう人がもっと増えたらいいんだけどな」
俺は呟いて、練習を再開した。
空が赤くなり始め、今日の練習は終わり、とグラウンドから人が減っていった。
カナはまだ遊び足りないようで、ボールを投げて遊んでいる。
「トーマ君、悪いんだけど、カナのこと見ててもらっていいかな。私は家の手伝いしないとだから……」
マナがカナの様子を見て、俺に言った。手伝いは俺もやらないといけないのだが、あいにく接客等の仕事はまだ教わっていない。
「わかった」
「よろしくね」
マナは家に向かって歩き出した。
「カナ、もうちょっと遊んでいくか?」
「いいの?」
嬉しそうに目を輝かせるカナに俺は笑って「おう、もう少しだけな」と言った。そして、カナと遊んだ。
俺は疲れ果ててグラウンドに寝転がり、カナが俺の近くで座った。
空はすっかり暗くなり、星がちらほらと見える。
「もうそろそろ本番かー」
カナは何を言うでもなく俺の方を見ていた。
「せっかくこうやって遊べる場所ができたし、体育祭が終わったあとも遊びにくるか」
「……うん!」
「よし、じゃあ今日は帰るか」
俺は立ち上がり、カナの手を取った。カナはぎゅっと手を握り返して、家まで手を繋いで帰る。
「おう、すっかり仲良くなってんな」
家に入ると、アキラがニヤニヤして俺たちを見た。カナは恥ずかしそうに手を離し、部屋の方に走って行ってしまう。
「あんまりからかわないでくださいよ……」
俺はため息を吐いて部屋に戻った。
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