第11話 新しいグラウンドと迷子

 森の入り口に着くと、何人もの生徒が草むしりをしていた。

「結構な人数集まったんだな」

 俺は作業中のマリアに声をかける。

「うん、みんな手伝ってくれるって。体育祭、みんな勝ちたいとは思ってるんだよ?」

 俺は持ってきた道具を置いて、草むしりに参加した。マナとカナも手伝ってくれている。

「悪いな。手伝ってもらって」

 マナとカナに声をかける。マナは俺の方を向いて「気にしないで」と言った。カナは黙々と草むしりをしている。

 大人数で作業していたおかげか、草むしりはあらかた終わった。あとは地面を均すだけだ。

 俺が地面を均し、残った大きめの石を拾っていってもらう。それを何回か繰り返し、だいぶグラウンドっぽくなってきた。

「こんなもんか……」

 ずっとトンボを引きずっていたせいで、腕が痛い。俺は木にもたれかかって座った。すでに練習を始めている人もいる。

「お疲れ様」

 マナが水筒を俺に差し出した。俺はそれを受け取り、口を付ける。疲れている体に冷たい水が心地いい。

「ありがとな。マナも練習あるだろうに……」

「別にいいよ。私はそんなに頑張るぞ! って感じでもないし……」

 恥ずかしそうにマナは笑って、俺の横に腰かけた。

「それに、私は人とも仲良くしたいんだ。せっかくおんなじ学校にいるんだから、喧嘩したくないよ……」

「そうだな……」

 俺だって、獣人たちともっと仲良くしたい。この体育祭で、ちゃんと交流を深めることができたら、と思ってはいる。

 現状、練習場所ですら揉めているわけだが……。

「そろそろ練習するか……」

 少し休憩もできた。俺は立ち上がり、仮グラウンドに向かう。

「即席で作ったにしては結構上出来なんじゃないか?」

 均した地面を歩いてみたが、かなりグラウンドに近い足場になっている。これなら練習はまともにできそうだった。

「うん! ありがとね、トーマ君」

 マリアは嬉しそうに笑う。

「いやいや、そもそも俺が勝負で決めようなんて言わなかったらこんなことになってなかったかもしれないし……」

「そんなことないよ。結局練習場所は取られてたと思う。トーマ君がいなかったら、ここで練習しようってならなかったと思うし……」

「練習場所まで作ったんだ。本番では獣人に一勝でもしようぜ」

 俺はマリアにそう言って、準備運動を始めた。マリアは「そうだね!」と張り切った様子で、走り出す。

「マナ。ちょっと俺と走ってくれないか?」

 俺は座ってこっちを見ていたマナに声をかける。「いいよー」と軽い調子でマナは立ち上がり、俺の横に小走りで来た。

「それじゃあ。よーい……どん!」

 マナの掛け声で俺たちは走り出した。俺は全力で走ったが、マナと並んで走るどころか、ぐんぐん距離を離される。

「はぁ……流石に、勝てないか……」

 結局、コースの三分の一ほどの差を付けられて俺はゴールした。

 肩で息をしながら、俺は膝に手を付けた。

「はぁ……トーマ君、結構速いんだね……」

 マナも息を切らしている。女の子にすら勝てないのかと少し落ち込んだ。

「短距離で獣人に勝つの、無理かも……」

 俺は座り込んで、空を見上げた。

「種目は他にもあるんだし、他で頑張ろうよ」

「なんか、それは諦めてるみたいで嫌だな……」

「それなら、まずは私に勝たなきゃね!」

「なんだそれ、感じ悪い……」

「ごめん……」

 俺は冗談のつもりで言ったのだが、マナは申し訳なさそうな顔をして謝った。

「ごめん、そういうつもりじゃなくて……」

「そ、そうだよね。ごめんね」

 マナは恥ずかしそうに笑った。そして、周りを見渡して言う。

「そういえば、カナはどこ……?」

 俺も練習場所を見渡すが、カナの姿は見えない。

「ホントだ……。もう帰ったのか?」

「さっきまで他の人と練習してたはずなんだけど……」

 俺はカナと練習していたであろう生徒たちに声をかけた。

「なあ、カナがどこ行ったか知らないか?」

「し、知らねえよ」

 生徒は口ごもった。少し違和感を覚えるが、俺は他の生徒にも声をかけて回る。

 結局、練習場所にはカナの姿はなくなっていた。

「私、ちょっと家見てくる!」

 マナは焦った様子で家に走っていく。

「トーマ。ちょっといいか」

 ソータがゆっくり俺に近づいてきた。

「ん、どうした?」

「カナ……だっけ。あの子、さっき森の方に走ってったぞ」

「はぁ? なんで……」

「知らねえけど、なんか揉めてたみたいだな」

 俺は森の方を見て、血の気が引いた。

「ちょっと探してくる。マナが戻ってきたら俺が森に探しに行ったこと伝えておいてくれ」

 

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