第10話 新たな練習場所

 俺は、マリアに連れられて神樹の森の入り口に来ていた。

「ここら辺なら大丈夫かな」

 森の前は雑草が生い茂り、当然だがグラウンドとは違って整備されていない。

「ちょっとだけ均そうか。流石にこのまんま走ったりしたら怪我しそうだ……」

 均すと言っても、道具は持っていない。学校から持ってくる必要があるだろう。

 しかし、学校に戻っても貸してもらえるだろうか……

「私、学校に取りに行ってくるよ!」

 マリアがそういって、走り出してしまった。

「あ、おい!」

 引き留めようとしたが、すでにマリアは声が届かないところまで行ってしまった。

「とりあえず、この雑草からか……」

 マリアが戻ってくるまでのあいだ、俺は草むしりをしていた。

「ダメだった……」

「まあ、そうだよな……」

「なんなの!? 道具くらい貸してくれたって良くない?」

 マリアは地団駄を踏んで怒っている。俺はマリアをなだめ、どうするか考えた。

「あ、トーマ君。こんなところにいた!」

 すると、マナとカナがやってきた。こんなところに何か用事だろうか。

「練習場所取られちゃったんだって?」

「そうだよ! あなたからもあいつらに言ってやってよ!!」

「マリア。俺たちは勝負して負けたんだから、マナに当たるのは違うだろ……」

 確かに、マリアの気持ちもわからなくもない。獣人であるマナが言えば、少しは改善の余地がある気はする。しかし今回、俺たちは勝負を挑んで負けた。それでマナに言ってもらって練習場所を譲ってもらうのは何か違う気がした。

「ごめんね……私がそこに居たら手助けできたかもしれないのに……」

「マナが謝ることじゃないだろ。それより、こんなところに何か用か?」

「森の方に行くってクラスの人達が言ってたから、何か手伝えることないかなって」

 マナは申し訳なさそうに笑った。

「ありがとな。ここら辺を均す道具が欲しいんだけど、マリアが学校に取りに行ったら、案の定断られたらしいんだ。何か使えそうなものないかな……」

「それなら、私が取ってこようか?」

「え? いいのか?」

「うん。それに、私の家なら使える道具あるかも……」

「助かるよ。じゃあマナは学校の方から頼む。俺は家の方を探すよ」

「わかった。どこにあるかはカナに聞いて」

 マナがさっきから後ろに隠れて俺たちの様子を伺っているカナを前に出した。

「じゃあ、マリア。悪いけど、ここら辺の草むしりを頼んでもいいかな」

「ええ!?」

 マリアは心底嫌そうな顔をする。

「だって、他にやるやついないだろ……」

 俺がそういうと、閃いたように手を叩いた。

「じゃあ私、学校の人呼んでくる! みんなでやった方が早く終わるし!」

 そして、マナとマリアは二人で学校に向かい、俺はカナと家に向かった。

「ごめんな、俺たちのことに巻き込んじゃって」

 歩きながら、カナに言った。カナは首を振ると「別にいい」と一言だけ言う。

 家に着くと、アキラが忙しそうに店内を歩き回っている。

「おう、おまえら。学校は終わったのか?」

「いや、ちょっと体育祭の練習で」

「そういや、もうそんな時期か。練習場所なくなったか?」

 アキラはニヤリとして言った。こういうのは昔から同じなんだろう。

「獣人と人間って昔から仲悪いんですね」

「まあな。俺はそんなに気にしたことはないが」

「人間の俺を居候させてくれてますからね。この街はそういうのないんだと思ってました」

「お互いに嫌ってるやつらばっかじゃないんだぞ? ここに来る客はだいたい仲良く飲んでるしな」

「そうですよね……って違った。普通に帰ってきたわけじゃないんだった」

 カナに道具の場所を教えてもらおうと横を見ると、すでにカナの姿はなかった。

「あれ……?」

「カナなら、物置の方に行ったぞ? なんかいるのか?」

「地面を均す道具が欲しくて……」

「ああ、なるほどな」

 アキラは納得したようにうなずくと、自分の作業に戻っていった。

 俺はカナが向かったという物置の方に向かう。

「はい」

 物置入ると、カナが野球部がグラウンドを整備する時に使うトンボのようなものを持って俺に渡した。

「ああ、ありがとう」

 俺はカナからトンボを受け取り、森の入り口に戻った。


 

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