第8話 体育祭

 教室に着くと、中はざわついていた。

「トーマ君おはよー」

 席に着くと、マリアが声をかけてくる。

「おはよ。なんか騒がしくないか?」

「ああ、それはね。体育祭が近いからじゃないかな」

「体育祭?」

 元いた世界でも参加したことはある。運動神経がいい方ではないので、結果は散々だったが。

「そう。定期的に獣人と人間の交流も兼ねてこういうイベントがあるんだけど……」

 マリアは苦笑いしながら話しているクラスメートたちを見た。

「今年こそ獣人どもに勝つぞ!!」

「おうよ! 毎回あいつらばっかにいいカッコさせてたまるかよ」

「……毎回こんな感じなんだ」

「ははは……」

 俺も苦笑いして、クラスメートたちを見ていた。

「みんな席についてー」

 タマキが教室に入ってきた。ざわついていたクラスメートは急に静かになり、自分の席に戻っていく。

「今日の授業は体育祭の種目決めにしましょうか」

 タマキの言葉で、教室内が一気に騒がしくなる。

「もう、みんな落ち着いて……。トーマ君は初めてだよね」

「はい。昔いた学校でなら似たようなことはやったと思います」

「そうなの? なら話は早いわね」

 俺はタマキから体育祭についての説明を軽く受けた。

 まず、チーム分けだ。各クラス、くじを引いて赤と白のチームに分かれるらしい。獣人対人間、というわけではないようだ。

 そして、競技。リレーや短距離走、ドッジボールにサッカー。他にも様々な競技があり、出る種目はどれか一つに出ていればいいらしい。俺はあんまり動きたくないため、短距離走だけ出ようと決めた。

 最終的に得点を競って勝ったチームには記念品が贈られるそうだ。基本的には活躍した生徒が貰っていくらしく、だいたい獣人が貰っている、と説明される。

 くじ引きが始まり、一人ずつ前に出て先生が用意したであろうくじを引いていく。

 俺は白チームだった。

「あ、同じチームだね、トーマ君」

 マリアも白チームだったようだ。俺は知り合いが同じチームにいることに安心する。

「俺は赤だ」

 ソータは自分が引いたくじを俺たちに見せた。そこには赤色の丸が書いてあり、日本の国旗を思い出す。

「負けないからな」

 眠そうな目でソータは言った。ソータもソータで体育祭を楽しみにしているようだ。

「それじゃあ競技を決めましょうか」

 基本的に、人間は短距離走のみ出るらしい。運動神経がいい生徒は他の競技にも参加するようだ。

 俺は短距離走だけに出れればそれでいい。

「ドッジボールがちょっと少ないわね……トーマ君、出てみない?」

 出る種目があらかた決まったところで、タマキが俺に声をかけた。

「え? 俺そんなに運動神経よくないですよ?」

「別に運動神経よくなくても大丈夫よ。体育祭は獣人と人間の交流を目的に行われる行事だから」

「……わかりました」

「ありがとう」

 あまり乗り気ではないが、せっかくの機会だ。俺は短距離走とドッジボールに参加することになった。

「それじゃあ、種目も決まったし今日の授業はここまで。あとの時間はみんな練習時間にしていいわよ」

 タマキはそういって教室から出て行ってしまう。

「え、そんなんでいいのか」

 俺は困惑してマリアの方を向いた。

「毎回こんな感じだよ? トーマ君の学校だと違ったんだ」

「そうだな……」

 体育の時間は練習の時間になったりしたが、残りの授業すべてが練習時間に充てられるなんてことはなかった。

 クラスメートたちは教室から出ていき、グラウンドへ向かった。

「私もドッジボール出るからさ。一緒に練習しようよ」

「ああ……」

 俺もマリアと教室を出てグラウンドに向かう。

 グラウンドにはすでに獣人もいて、人間は端の方で練習していた。

「あ、トーマ君!」

 マナも練習に来ていたようで、俺を見つけるなり走ってきた。

「トーマ君は何に出るの?」

「短距離走とドッジボールに出ることになったよ」

「私もドッジボール出るんだ! 頑張ろうね! あ、そういえばトーマ君はどっちのチームになったの?」

「ああ、俺は白チーム」

「じゃあ、同じチームだね!」

 マナも白チームらしい。耳をぴょんぴょんさせてマナは笑った。

「それじゃあ私、練習に戻るね!」

 そう言ってマナは他の獣人の方に戻っていく。

「足引っ張らないようにしないとな……」

 俺は準備運動をして、練習に臨んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る