第7話 マナと人間

 授業が終わり、教室から人がいなくなっていく。

「それじゃあ、また明日」

「ああ、また明日な」

 マリアは俺に手を振って教室から出ていった。ソータはいつの間にか帰ってしまったようだ。

「俺も帰るか」

 まだ何人か教室には生徒が残って話していた。俺は教室から出て、学校の外へ向かう。

「あ、トーマ君!」

 校門ではマナとカナが待っており、俺を見つけるなりマナが駆け寄ってきた。

「一緒に帰ろ?」

 俺はマナの横に並んで歩き始める。

「おう、マナ。また明日な」

「うん、またね」

 熊のようなガタイのいい男がマナに声をかけた。マナは笑顔で手を振る。

「ん? マナ、そいつは誰だ?」

「彼はトーマ君。今日から学校に来たんだよ」

「そんなことはどうでもいい。なんで人間と一緒にいるんだよ」

「え? 何か問題あるの?」

 マナは首を傾げた。俺は心の中で、マナは人間のことを見下しているわけではないんだ、と安心する。

「人間と居たってなにもいいことねえぞ。お前もお前だ」

 男は俺の胸倉を掴んで俺を睨みつけた。

「人間のくせに」

「ちょっと!」

 マナが男を止めようと腕をつかむが、簡単に引き剥がされる。

「お前、マナのこと好きなのか?」

 俺はマナに聞こえないように言った。男は一瞬で顔を真っ赤にして狼狽えていた。

「な……な……」

「別に俺はマナと付き合ってるとかそういう関係じゃないから、あんまり気にすんなよ」

 男は俺から手を離し、舌打ちをしながら去っていった。

「……」

 男が完全に見えなくなったところで、俺は地面に座り込んだ。

「怖かった……」

「ごめんね……」

「マナが悪いわけじゃないだろ」

 俺は立ち上がり、服装を整えた。

「でも……」

 マナはまだ納得いっていないようで、俺を心配そうに見ている。

「気にすんなって、俺は大丈夫だから。帰ろうぜ」

 俺はマナに笑いかけ、家に向かって歩き出す。

「……これ」

 カナが俺に何かを差し出した。受け取ると、カナはマナの方に行ってしまう。渡されたものは、絆創膏のようなものだった。

「カナちゃん、ありがとな」

「……」

 俺が言うと、ふいっとそっぽを向いてしまった。

 俺たちは学校から出て家の近くまで着いてた。

「そういえばマナ、お前さ。人間のことどう思ってる?」

「人間のこと? どう、かぁ……」

「今日、クラスのやつに、獣人は人間のこと見下してるって言われたんだよ」

「私はそんなことしないよ!」

「うん、そうだよな」

「トーマ君はどうなの……? 獣人のこと」

「別に、何とも思ってない」

 俺はきっぱりと言い切った。

「マナ達には世話になってるしな。獣人とか人間とか関係ないだろ」

「そっか……よかった……」

 安心したようにマナは息を吐く。気が付けば、もう家は目の前だった。

「それじゃ、私はお手伝いしなきゃだから」

 マナは小走りで家の中に入っていき、俺とカナはあとを追うように家に入った。

「……」

 自分の部屋に向かった。椅子に座り、ぼーっとしていた。

 すると、扉が開いてカナが入ってきた。ボールを抱えている。

「遊んで」

 カナはそういって俺の方をじっと見つめた。

「ああ、いいよ。外行くか?」

「うん」

 俺はカナに連れられ、広場まで来た。

「はい」

 カナは俺に向かってボールを投げ、耳をピコピコ動かした。俺はカナに向かって軽くボールを投げる。カナはボールをしっかりキャッチして、俺に投げ返した。

 俺たちは何度かボールを投げあって遊び、カナがボールを持ったところで、俺の方に駆け寄ってきた。

「……ありがとう」

「おう。また遊びたくなったらいつでも言ってくれていいよ」

「ホント……?」

「もちろん」

 カナは笑顔で俺の手を掴んで、家に向かって歩き出した。

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