第6話 学校生活と獣人

 授業が終わり、俺はクラスメートに囲まれていた。

「トーマ君って森で倒れてたんでしょ?」

「どこから来たの?」

「なんで学校に来たの?」

 四方八方から質問が投げかけられる。

「えっと……」

 何から答えていいかわからず戸惑ってしまう。

「一気に聞いたらトーマ君も困っちゃうよ」

 マリアが周りの生徒たちを制して言った。

「ありがとう」

「別にいいよ。私もトーマ君に聞きたいことあるし」

 俺はクラスメートの質問に一つ一つ答えていく。

 どこから来たのか、なんで学校に来たのか。異世界から来たことは伏せ、遠い村から来たことにしておいた。その方が変に聞かれなくて都合がいい。

「マナとどんな関係なの?」

 マリアが言うと、クラスメートがざわつき始めた。

「今はマナの家に世話になってるんだ。助けてもらって、それで家の手伝いしながら……」

「マナって獣人だよ?」

「獣人だと何がいけないんだ?」

 真剣な表情で俺に言う。マナは気まずそうに目を逸らした。

「獣人は、俺たち人間のこと見下してんだよ」

 ソータがマリアの代わりだと言わんばかりに言った。眠そうな顔のまま。

「見下してる?」

 マナがそんな態度を取ったところを見たことがない。アキラやカナだってそうだ。

「身体能力では圧倒的に獣人の方が上だからな。俺たちのこと見下すのもわからんでもないけど、ムカつくぜ」

「あいつら、ことあるごとに突っかかってくるから、トーマも気を付けた方がいいぞ」

 他の生徒もソータの言ったことに同意しているようだ。

 この学校で人間と獣人のクラスが別れている理由がわかった。

 獣人と人間はそんなに仲が良くないらしい。

「全員が全員そうじゃないと思うけど……」

「そんなことねえよ」

 ソータは即答して自分の席に戻っていった。

「ソータはね、昔獣人に仲いい子がいたんだよ」

 マリアが気まずそうに言って、ソータの昔話を掻い摘んで話してくれた。

 仲が良かった二人はよく外で遊んでいたらしい。小さいころは大丈夫でも、成長していくにつれ、体力に差が出始めた。そして、その獣人の子は別の獣人と付き合い始めたそうだ。

「結局、人間は人間とつるんでる方がなんも気にしなくていいんだって」

「そうそう、悪いことは言わないから、お前も獣人と付き合うのはやめとけって」

 クラスメートは俺の肩を叩いて、自分の席に戻っていく。

「私だって、みんながみんなそういう人じゃないってわかってるよ」

 授業中、マリアが呟くように言った。

「でも、そういう人の方が多いんだ。この学校も、街も」

「そっか……」

 俺はまだこの街のことを何もわかっていなかったらしい。アキラの店に初めて入った時に見た、仲の良さそうな獣人と人間も、実は不仲だったのだろうか。

「でも、もうちょっと付き合ってみるよ」

 マナやアキラにはお世話になっている。助けてもらってばかりでまだ何も返せていない。この恩を返すまでは、あの家族から縁を切るなんてことは考えられなかった。

「……わかった。何かあったらなんでも相談に乗るからね」

 マリアはため息を吐いて前を向いた。俺も「ありがとう」と一言返して授業に集中する。内容は恐ろしく簡単で退屈なものだったが。

 昼休みになると、教室内は休み時間よりもさらに騒がしくなった。外に出ていく生徒もいる。

 俺はアキラにもらった弁当を取り出した。

「トーマ君お弁当なんだ」

 マリアが自分の弁当を取り出しながら言う。

「ああ、アキラさんが作ってくれたんだ」

「アキラさん?」

「マナの親父さんだよ」

「そうなんだ、優しい獣人なんだね」

 マリアは言いながら席を立ち、教室から出て行ってしまった。

「まあ、お前がいいならそれでいいけど。あんまり獣人と仲良くなると後悔するぞ」

 ソータが振り返って言った。手にはパンが握られている。

「ソータはここで食ってるんだな」

「食べたらすぐ寝るからな。基本的には寝ていたい」

「なんか仕事でもしてるのか?」

「ああ、家の手伝い。ここのやつらはそういうやつばっかだぜ?」

 パンをさっさと食べ終えてソータは机に突っ伏してしまった。

 俺は弁当を一人で食べ、ぼーっと次の授業が始まるのを待った。

 

 

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