凄い効き目の惚れ薬
親友で自称発明家の徳田が、新しく道具を発明したから是非とも試してみてくれ、とメッセージを送ってきた。
喫茶店のテーブル席で相対するなり、徳田は懐から香水の小瓶のようなものを取り出した。中には毒々しい紫色の液体が入っている。
「これが、僕がこのたび発明した『凄い効き目の惚れ薬』だ」
三十二歳既婚子持ちの男は真面目腐った顔で説明する。
「この液体を浴びた人間は、目の前にいる人物に強烈な恋愛感情を抱くんだ。文字通り凄い効き目を発揮する薬だから、その点には注意してくれたまえ」
毎度のことながら胡散臭い発明品だが、効果が本物ならば、三十を過ぎても異性と密に交際した経験のない私にとって、この上なく魅力的な代物だ。
「とりあえず使ってみるよ」
小瓶を受け取り、徳田と別れた。
「さて、誰に使おうか……」
思案しながら路地裏を歩いていると、前方から一人の若い女性が歩いてくる。相当な美人だ。
擦れ違いざま、女性に液体を振りかけた。女性は足を止め、こちらに向き直った。潤んだ瞳が私を見つめる。どぎまぎしている私の手を取り、無言で歩き出した。惚れ薬の効果が発揮され、デートが始まったらしい。
その足が止まった時、目の前にはラブホテルがあった。女性は嫣然と私に微笑みかけた。
「今夜は楽しみましょうね」
なんということだ。『凄い効き目の惚れ薬』を浴びた人間は、その効き目の凄さ故に、男女間の交際における最終目的を達成することしか考えられなくなるらしい。性交ならば、その手の店に行って金を払いさえすれば、恋人のいない私にでも出来る。彼女いない歴イコール年齢の私が望んでいたのは、食事を共にしたり、一緒にショッピングをしたりといった、恋人同士だからこそ味わえる甘いひとときを楽しむことだったのだが……。
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