雨宿り

 あの日は昼過ぎから雨が降る予報になっていた。

 だが朝の空は、降雨を微塵も予感させない快晴だった。だから私は、傘を持たずに小学校に登校した。

 予報は見事に的中し、午後になると雨粒が落ち始めた。雨は次第に強まり、下校時間になる頃には土砂降りになった。当分降り止まないだろうと判断した私は、覚悟を決めて降りしきる雨の中に飛び出した。全速力で走ったのは言うまでもない。

 家まであと少しというところで、運悪く赤信号に引っかかった。走っていた時はそうでもなかったが、立ち止まると叩きつけてくる雨が煩わしいことこの上ない。耐えきれなくなり、近くの民家の屋根の下に避難した。信号が青に変わり次第立ち去るつもりだった。

 民家の玄関のドアが開いたのは、その直後のことだった。姿を見せたのは、桜色のワンピースを着た、若く美しい女性。

 ずぶ濡れの私を認めると、女性は痛ましげに眉をひそめたが、すぐさま柔らかな微笑を浮かべた。そして、雨が止むまで家の中で休んでいきなさい、と促した。

 その瞬間、自分はここに居てはいけない人間なのだ、と私は思った。他人の家の屋根で雨宿りをしたのは間違いだった。そう後悔した。

 折良く信号が青になった。私は脱兎の如くその場から走り去った。呼び止める女性の声はすぐに雨音に紛れた。

 女性から貸してもらったタオルで雫を拭い、雨が小降りになり次第、礼を言って辞去する。

 あの時、仮に逆の選択をしていたとしても、小学二年生の私を待ち受けていたのは、ただそれだけの未来だったに違いない。

 だが、それと同時に、こうも思うのだ。

 あの時の私に、あの見目麗しい女性の好意に甘える勇気があったならば、私は今頃、今の私よりも少しばかり華やかな人生を送っていたのではないか、と。

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