コンビニのババア

 俺は朝、会社近くのコンビニで昼飯を買ってから出社することにしているのだが、その店で店員をやっているババアが、俺に対して妙に馴れ馴れしい。会社の近所に食料品を買える店がそのコンビニしかない関係で、毎朝欠かさず利用するのが災いし、ババアに顔を覚えられ、親近感を抱かれてしまったらしいのだ。

 そのババアは、実際は五十に届くか届かないかの年齢と思われるので、オバハンと呼称するのが適切なのだろうが、メスとして生きることを放棄したような面をしているし、なにより憎たらしいので、俺はババアと呼んでいる。

 なにが憎たらしいかって、釣り銭を渡す時に、にこやかな表情でなにか一言添えてくるのだ。本日の天気についてとか、今朝の朝刊の一面についてとか、どうでもいいようなことを。そのくせ、「お箸はおつけしましょうか」と毎回訊いてくる。それがまた憎たらしい。

 はっきり言って、いい迷惑だ。なにを勘違いしているのか、と思う。俺がコンビニに求めているのは昼飯であって、人との交流ではない。なにが嬉しくてババアの話し相手を務めなければならないのか。

 コンビニの店員に馴れ馴れしくされたくらいで腹を立てるな、と言う者がいるかもしれない。もっともだと思う。もっともだとは思うが、気に障るものは仕方がないではないか。

 今後ずっと、毎朝ババアからしょうもない言葉をかけてこられるのかと思うと、発狂しそうだった。どうすればこの苦痛から逃れられる? 別の店まで昼食を買いに行くのは面倒だし、面と向かって「無駄口を叩くのを止めろ」と文句を言うのは気が進まない。

 悩んだ末、思い切って職場を変えることにした。苦労したが、どうにか新しい仕事を見つけることができた。

 初出勤の朝、俺は昼飯を購入するべく、職場近くのコンビニに寄った。

 案の定、ババアがレジ打ちをやっていた。

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