白日夢

 同棲中の彼氏と喧嘩をして、部屋を飛び出した。それで今、雨の中、傘もささずに道端に立ち尽くしている。

 女の子が雨に打たれているのだから、誰かが声をかけてくるだろう。そう思いながら佇み続けていると、妻夫木聡似の男が話しかけてきた。

「こんなところで立っていたら、風邪を引きますよ。僕が経営している焼き肉屋で雨宿りしていきませんか。食事、ご馳走しますよ」

 行くあてもないし、ちょうどお腹も空いていたので、妻夫木くんについて行った。それで今、開店前の焼肉屋の店内で、テーブル席に座って料理が来るのを待っている。

 ロース肉がテーブルに到着した。さっそく焼いて食べた。途端に眠たくなった。

 気がつくと、あたしは大きな俎の上に全裸で仰向けに寝ていた。厨房の中らしい。傍らでは、妻夫木くんが肉切り包丁を握っている。

 妻夫木くんが包丁を振るった。肩に激しい痛みが走り、あたしの肩の肉が骨から綺麗に削ぎ落とされた。肉片が一口大にカットされていく。

 肩に激痛を覚えたのを境に、あたしが見る景色は一変していた。どうやらあたしの魂は、何等分かにされたロース肉の一片に憑依したらしい。

 焼肉屋が開店した。皿に載せられたあたしは、賑わう店内をぼんやりと眺めていた。すると見覚えのある顔が店に入ってきた。ケンカ別れしたあたしの元彼だ。

 元彼は席に着くなり、ロースを注文した。オーダーを受けて妻夫木くんが、あたしが載った皿を元彼の席まで持って行く。

 元彼があたしをトングで掴み、焼き網の上に置いた。あたしにはすぐに火が通った。元彼はあたしをトングで小皿に装い、箸でつまんでタレをつけ、口に運ぶ。

 このあと、あたしは噛み砕かれ、唾液と混ざり合って嚥下され、食道・胃・小腸・大腸と通過し、肛門から排出されるに至って漸く、元彼に永遠の別れを告げるのだろう。

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