意義

 例えば夕食後、特に疲れてはいない体をソファに横たえて、特に食べたくもない醤油煎餅をかじりながら、特に観たくもないバラエティ番組を観ていたとしよう。

 その光景を目撃した、その人にある程度近しい人間は、その人にこう忠告するに違いない。そんなくだらないテレビ番組を観ている暇があるなら、なにか別の、もっと意義のあることをするべきだ、と。

 この意見は、世間一般では正しいものとされているが、果たしてそうだろうか。彼らの言い分は本当に正しいのだろうか。

 必ずしも正しいとは言えない。そう僕は考える。

 彼らの誤謬は、無意味な時間を過ごすことは無意義だと決めつけていることにある。意味のある時間を過ごすことは有意義。その逆も然り。彼らはそう考えてしまっているのだ。

 断言しよう。それは的外れな考え方だと。

 例えばあなたは、なにかに行き詰まった時、いくら考えても浮かばなかった打開策が、漫然と空を眺めるだけの時間を設けた直後に呆気なく見つかった、という体験をしたことはないだろうか。

 そう。一見無意味に思える行為や時間が、ある場合においては一転、意義のあるものに変わるという事例が、世の中には存在するのだ。

 その法則の存在を知ったことで、主観的には無意味に思える時間を過ごす人間を頭ごなしに否定することの愚かしさが、あなたにも理解できたのではないだろうか。人は結句、他人の物差しで決められた幸福よりも、自らが幸せと実感できる時間を享受する方が幸福なのだ。要するになにが言いたいのかというと――。

「なにをごちゃごちゃと屁理屈こねてるの! いつまでもだらだらとテレビばかり観てないで、さっさと宿題を済ませなさい!」

 母親は声を荒らげて僕の言い分を一蹴した。

 僕はテレビの電源を切り、溜息と共にソファから身を起こし、宿題に取りかかるべくリビングを後にした。

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