南青山
南青山のお洒落なカフェで薫さんとばったり再会した。顔を見るのは三か月ぶりだ。大きかったお腹はすっかり元に戻っている。
産まれたんですか? うん、産まれた、見に来る? 見に行ってもいいんだったら見に行きたいですけど、でも、迷惑じゃないですか、ていうか、赤ちゃん、家に置いたまま外出して大丈夫なんですか。平気よ、ベビーシッターに任せてあるから、さ、行きましょ。
赤ちゃんは三つ子だった。大きなベビーベッドに同じ顔・服装・姿勢ですやすやと眠っている。可愛いでしょ? 可愛いですね。後学のために授乳・おむつ交換の模様を見学させてもらい、辞去した。
三か月後、南青山のお洒落なカフェでまた薫さんに会った。変な形のグラスで飲んでいるな、と思ってよく見てみると、赤ん坊の頭部だった。頭頂部に円い穴が開けられ、内側に脳味噌が入っている。薫さんは脳味噌をストローでじゅるじゅると吸った。
薫さん、そのグラス、もしかして……。長男よ。なんでグラスになっちゃったんですか。色々あってね、そんなことより、あなたもなにか注文しなさいよ、あたし、ケーキを追加で注文するつもりなんだけど、同じのでいい? この店のりんごケーキ、とっても美味しいの。そうなんですか、じゃあ、僕もそれで。
りんごケーキが運ばれてきた。二枚の皿に載った、二つの赤ん坊の頭部。薫さん、これ、薫さんの赤ちゃんじゃ……。次男と三男よ、まあ食べてみて。僕は次男、薫さんは三男。次男の頬にフォークを突き刺すと、ずぶりと沈んだ。一口食べてみる。りんごの味がして、食感はスポンジケーキのそれに近い。ほどよく甘くて、とても美味しい。
どう、美味しい? ええ、とても、でも、薫さんの三つ子、全滅しちゃいましたよ、よかったんですか? いいのよ、別に、また産むから。薫さんはクールに答え、長男の脳味噌をじゅるじゅると吸った。
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