徳島の盆踊

 自分の故郷やそれにまつわる事物が、マスメディアに取り上げられているのを見聞きすると無性に嬉しくなるのは、私だけではないはずです。

 早秋の午後、私は近所のレンタルビデオ店のアダルトコーナーにて、『徳島の盆踊』というタイトルの一枚を見つけました。どうやら阿波踊りを題材にした作品のようです。

 私は『徳島の盆踊』をレンタルし、帰宅後すぐさま視聴しました。街中に設けられた無人の演舞場で、全裸で阿波踊りを乱舞する複数の妙齢の女性を、どこからか現れた真っ裸の男性の集団が阿波踊りを踊りながら強姦する、という内容でした。

 祭りの夜の熱狂的かつ淫靡な雰囲気がそつなく表現されていましたし、女優も美女揃いで、中々のクオリティでした。唯一惜しまれるのは、女優も男優も、阿波踊りの踊り方が全くなっていない点でしょうか。男踊りは、腰を低く落とし、雄々しく手を振り動かすべきですし、女踊りは、両手を天に向かって高く伸ばし、優雅に舞い踊るべきです。恐らくこの作品の企画者は、阿波踊りに女踊りと男踊りの区別があることすら知らずに、それっぽく手を動かしさえすれば阿波踊りになると考えたのではないでしょうか。技術的な指導も一切なかったに違いありません。

 仕方がありません。ここは一つ、私が手本を見せてあげましょう。

 私は街へ足を運ぶと、全裸になり、阿波踊りを踊りました。無論、雄壮なる男踊りです。徳島に住んでいた時以来、実に十年ぶりに踊る阿波踊りです。

 踊りながら、私は狂っている、と私は思いました。気がつくと、底抜けに明るい笑みを満面に湛えて、はらはらと涙を落としている私がいました。死にたい、とも思いました。

 どうしてそう思ったのか、ですって?

 決まっているではないですか。私も、あなたも、いつの間にか服を着ているからですよ。

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