勇者になったニート
俺がニートになったのと同時期にこの世界を掌握した魔王は、圧政を敷いて民衆を苦しめた。逼迫する家計。されども働こうとしない俺。困り果てた俺の両親は、起死回生、一石二鳥の打開案を俺に示した。それは、俺が魔王を討伐する、というものだった。
日頃から「働け」と口やかましい両親に辟易していた俺は、その提案を手放しで受け入れた。もっとも、危険を冒してまで魔王を倒しに行く気は毛頭ない。両親から得た軍資金で放蕩三昧と洒落込むつもりだった。
家を出た日の夜、町の路地裏でならず者に絡まれた俺は、自分でも驚くほど鮮やかな太刀捌きでその男を撃退した。こうして俺は、剣術の才能があることを自覚した。
俺は己の実力を量るべく、町一番の悪党に喧嘩を売った。結果は、こちらの勝利に終わった。これに味をしめた俺は、次から次へと賞金首に戦いを挑んだ。連戦連勝、勝利と懸賞金を獲得しなかった戦いは一度たりともなかった。独学でいくつかの魔法を習得してからは、赤子の手を捻るように相手を倒せるようになった。自信は日増しに高まっていった。
一年も経つと、俺の名前と実力は世間に広く知れ渡った。俺に打倒魔王を望む声さえ聞かれるようになった。俺を疎ましがる人間など、最早この世界のどこにも存在しなかった。
機は熟した。俺は単身魔王の根城に乗り込んだ。
「貴様の悪行もここまでだ。覚悟!」
魔力をまとわせた大剣を振りかざし、魔王に突撃する。魔王は鼻を鳴らし、掌上に巨大な火球を出現させ、俺に向かって放った。逃げられない、と本能的に悟った。
挑む相手を間違えた。小悪党ばかり倒して、有頂天になっていた俺が馬鹿だった。こんなことだったら、両親から白い目で見られようが、家計が多少苦しかろうが、家で図太くニートをやっていればよかった。
心の底から後悔した、次の瞬間、俺は紅蓮の炎に身を焼かれ、掃いて捨てるほどいる魔王の犠牲者の一人となった。
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