過つ夜

 行きつけの喫茶店のテーブル席で恋人と談笑していると、空席があるにもかかわらず、二人の男が相席してきた。年齢はどちらも三十代半ばくらい。黒色のスーツを着用し、堅気の人間ではないように見える。

 席に着くなり、男たちはしきりに店内を見回した。そうする傍ら、さり気なく私たちの様子を窺っているらしい。私は恋人を促し、喫茶店を出た。二人は追ってこなかった。外は既に真っ暗だった。恋人とは店を出てすぐに別れた。

 帰宅後、私は父親が運転する車に同乗し、郊外の大型スーパーに足を運んだ。駐車場で車から降りると、父親は「ちゃんと鍵をしておくように」と告げ、車の鍵を投げて寄越した。私はただちに言いつけを実行したが、何度試みても鍵がかからない。

 訝しく思い、車体の側面に目を移すと、「警察署」の三文字が確認できた。父親の車ではなく、警察が所有する車両に鍵をかけようとしていたのだ。勘違いからとはいえ、とんでもないことをしてしまった。慌てて車から離れ、スーパーの店内に逃げ込んだ。

 買い物を済ませたが、気が晴れず、休憩スペースのベンチに腰を下ろした。しばらく座っていると、若い女性の警官が私の前で足を止めた。表情のない顔が私を見据える。

「あなたを逮捕します」

 私の襟首を掴んで立たせ、有無を言わさず、出口に向かって歩き出す。客たちが唖然と私たちのことを見ている。私は抵抗する気力もない。

 店頭に待機していたパトカーの後部座席に私は押し込まれた。右側に私、左側に女性警官が座った。運転席と助手席には既に人が座っている。喫茶店で相席してきた男たちだ。パトカーが走り出した。

「初犯だから、執行猶予がつきますよね?」

 震える声で女性警官に尋ねた。返事はなかった。パトカーは走り続ける。窓外には一面、闇が広がっている。

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