南国の蛇つかい
「お嬢さんたち」
南国の観光都市を散策していたマユとサナは、路傍に座っていた男に声をかけられた。
「私、この国で一番の蛇つかいね。芸、よかったら見ていくといいよ」
男は民族衣装を身に纏い、縦笛を手にしている。眼前には、古めかしい、バレーボールほどの大きさの壺が置かれている。
マユは興味津々に壺を見つめた。サナは眉をひそめてマユの腕を引く。
「行こう、マユ。この手の芸って、十中八九、インチキのぼったくりだから」
マユはその場から動こうとしない。サナは溜息をこぼし、不承不承男に向き直った。男は柔らかく微笑み、縦笛を構えた。
「この壺の中に、蛇、います。私、私が奏でる笛の音色で、蛇、自在に操ってみせます」
幻想的な音色が流れ始めた。男は笑顔で、上体を蛇のようにくねらせながら、一心不乱に笛を吹く。マユとサナは壺を注視したが、蛇が現れる気配はない。二人は顔を見合わせた。
男の表情が曇った。笛の音が乱れ始めた。上体の動きが激しくなったが、蛇はやはり姿を見せない。
「なんだ、出ないじゃん」
サナの嘲りの言葉に、男は顔を紅潮させた。やにわに笛を投げ捨て、右手を壺の中に突っ込む。
次の瞬間、男は「あっ」と短い悲鳴を洩らした。上体を大きく弓なりに反らし、そのまま仰向けに倒れ込む。男の体は激しく痙攣している。二人は再び顔を見合わせた。
やがて痙攣が治まった。サナは聞こえよがしに溜息をついた。
「なにがやりたかったんだろうね、この人。マユ、そろそろ行こうか」
二人は男のもとを去り始めた。
遠ざかりながら、マユは何度も男を振り返った。豆粒ほどに見える距離にまで離れても、男は倒れた時と同じ姿勢のままだった。
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