デモを見学に行く
暇だったので、首相官邸前にテレポートし、なんとか法案に反対する人たちの抗議活動の模様を見学することにした。
首相官邸前にはプラカードを掲げたり、「安倍辞めろ」と連呼したりしている人が複数いた。昼のニュースでは、主催者の発表では参加者は二千人、と報じられていたが、どう見ても五十人ほどしかいない。そして、そのうちの少なくとも十人は警備員だ。
「デモ参加者の方ですか? これ、どうぞ」
女性議員が近づいてきたかと思うと、ポカリスエットの缶を差し出した。暑い季節に冷えた清涼飲料は嬉しい。有り難く頂戴し、一気に飲み干した。
「では、これもどうぞ」
次いで女性議員は、「安倍晋三=ヒトラー」と書かれたプラカードを差し出した。私は受け取りを拒んだ。抗議活動に参加する意思は毛頭なかったし、それに、プラカードの文言にセンスが微塵も感じられない。
「受け取れないの? 男のくせに」
嘲るような口吻で女性議員は言った。性差別発言をするような政治家の相手をしても仕方がない。無視していると、諦めたらしく、女性議員は去っていった。
大音量で音楽が流れ始めたのは、その直後のことだった。音源を見やると、野球帽を前後逆さに被った若い男が、ダンボール箱の上に立ち、マイクを片手に歌っていた。
「俺には見えるこの国の将来、戦争に突き進み貴い命、奪い奪われる殺し合い、繰り返される痛ましい悲劇。俺は悟った、政治家は能がない。俺たちで変えるんだ、日本の未来」
歌い終わったらしく、男はダンボール箱から降りた。手の甲で額の汗を拭いながらこちらへと歩いてくる。私は自ら男に近づき、無言でポカリスエットの缶を差し出した。男は笑顔でそれを受け取ったが、缶が空だと分かると眉をつり上げ、私を口汚く罵った。
私は苦笑し、テレポートして自宅に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます