第5話 春休みはぎりぎりの味

春休みも今日で終わりだ。とは言っても、特に予定もないので普段通りバイトに行きたいのだが、美香さんの店が定休日なのでそれは叶わない。

喫茶店「ハートストライプ」は毎週火曜日が定休日で、今日がその日だ。


宿題は長期休みの始めか始まる前に済ましてしまう派で、最終日だからといって焦ることはない。確か、早織は俺と真逆のタイプはず。小学校の頃とかは、よく夏休みの最終日に俺に泣きついてきていた。


そんな訳ですることもなく、暇でゴロゴロしていると、急にスマホの着信音がなる。スマホを開き確認してみると、メッセージアプリの通知だった。



早織『早急に私の家に集合すること!』



そんなメッセージと怒ったウサギがぴょんぴょん跳ねるスタンプが送られてきていた。


なんだろう。今日の分のカプチーノの催促だろうか。流石に、高校生にもなって宿題が終わっていないとかはないと思いたい。まったく変わっていなかった早織ならそうであってもおかしくないが。


とにかく行ってみないことには分からないので、『はいはい』とだけ返信して彼女の家に向かうことにする。







早織の家は、徒歩で1分程で着くくらい近い。だが、通学路でもバイトに行くときに使うわけでもないので、最近は通っていなっかた。


バイト終わりに早織を送っていくためにこの頃よく通る道を進んでいくと、すぐに目的地が見えてくる。

その目的地の主である早織が、二階にある彼女の部屋から体を乗り出して手を降ってきている。



「あー!きたきた。もう入っていいよ。」



そう言われたので手入れされたきれいな庭を通って玄関に向かう。

小さいが雑草が見当たらない丁寧に整備されたこの庭は、早織のお母さんの趣味だ。こんな細かい作業は不器用な早織には無理だろう。



「お邪魔します」


「はーい、いらっしゃい。まあ、久しぶりねえ。」



何年ぶりかに訪れた早織の家で、出迎えてくれたのは招待した本人ではなく、彼女の母である多田玲奈さんだった。


早織との関係が冷え切っていたこともあり、最近は会うことも少なくなってしまっていたが美香さんと同じくらいにお世話になった人だ。



「達也ちゃんが来てくれなくなってからは、早織が大変だったのよ。」


「え?どうしたんですか。」


「いつもイライラしていてね。それに、あんまり笑わなくなったりして。」


「あの早織がですか?」



普段からわがままだがイライラしているわけではないと思う。それに、カプチーノを飲まさしてあげれば大抵ニコニコしている早織が全然笑わなくなっていたというのも驚きだ。



「でも、ここ最近は昔の早織に戻ったみたいだから、大丈夫よ。達也ちゃん早織のことよろしくお願いします。」


「あ、はい。」



意味はよく分からなかったが、原因が俺にあることは確かだろう。それに、お願いされなくても早織とはこれからも長い付き合いになると思うので頷いておく。


その後も久しぶりに顔を合わせたこともあり、玲奈さんと色々話していると2階からドタドタと床を鳴らして早織がおりてきた。



「達也遅い!お母さんも達也に余計なこと言わないで。ほら、早く私の部屋来て。」


「はいはい。達也ちゃん、後でお茶持っていくね。」


「ありがとうございます。」



早織と一緒に2階にあがり彼女の部屋に入る。

結構広い部屋で、中は意外と散らかっていない。家具は昔遊んでいた頃にあったのと同じ落ちついた感じのものに、見慣れないかわいい系の小物が所々においてある。


その中でも、ひときわ目を引くのは部屋の中央にある机。その上に、散らばって置いてある春休みの宿題たち。

嫌な想像が頭に浮かぶ。2人がかりでも、今からあれを全部するのは厳しいだろう。少なくとも、夜まではかかる。



「なあ、早織部屋に呼んだ理由って、」


「そうよ。宿題終わってないの!あ、でも半分はやったわ。」



すごいでしょと言わんばかりに胸を張る早織をみてため息をつく。ここに来る前に、もしかしたら宿題をしていないのではとか思っていたが、本当にしていないとは想定外だ。

成長していない早織に呆れつつも、俺がいない間はどうしていたのか気になったので聞いてみる。



「夏休みの宿題とかはどうしたんだよ。」


「それは、友達の愛梨ちゃんに手伝ってもらった。でも、愛梨ちゃんは大会でいないから今日は達也が手伝って。」



それだけ言うと早織は机に向かって座り、英語の問題集を開き始めた。


それにしても、愛梨とはあの人のことだろうか。矢野愛梨。成績優秀で、所属している吹奏楽部が賞をとったこともある。なりより落ちついた感じの人。話したことはないが、男子に人気があるのでよくそんな話が聞こえてくる。早織とは、正反対のイメージがあるのだが。



「ほらほら、さぼってないで達也も宿題する!」


「はいはい。」



宿題さぼっていたのはお前だろ!とは思うが、それを言っても機嫌を損ねるだけなので大人しく従う。

適当に数学の問題集を手に取ってみると、半分よりは進んでいて7割くらいは終わっていた。

これなら、終わったより早く終わるかもしれい。


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