第23話 盗め!黄金少女~その1~
「くそっ!やっぱりダメだったか…」
「そりゃ相手さんも予想してはったやろうし。」
一日目、ロミオはシーツ回収業者に紛れて入り込もうとしたのだが、受付を通過する時にあっさりとバレたのだ。
毎日ロミオ顔を合わせていた受付係からすれば、服装が変わったくらいでは誤魔化されなかった。
すぐに警備員が呼び出されて、ロミオはその場から逃げて帰ったのだ。
「次はどないします?日中が難しいとなったら、次は夜に忍び込むんとか?」
「夜か。確か電気系統のメンテが夜にやってた気がするが。」
「そうですね、エレベーター点検は残念ながら今日でしたけど、明日はカメラ系統の点検業者が入るみたいです。」
「おお!よく情報を手に入れてくれたな、ヒロネ。」
「社内のポータルサイトに旦那はんのアカウントで入ったらトップにデカデカとありましたけど。今週はたまたま二つ、メンテナンスがあるみたいですね。『両日残業禁止!』なんですって。」
「ってことは、実験エリアも人がいないってことか。好都合だな。」
「そうですね。多分ですけど、業者が作業している時はセキュリティを切っているんやと思います。」
「よし、明日はこの手で行こうか。」
「分かりました。この業者の制服用意しますね。」
ヒロネはパソコンを閉じ、外へ出かける支度をする。
「布屋街に行ってきますね。」
「頼むぞ。」
ヒロネは服を入手すべく、下層市場へと向かうことにした。
普段ならメイド服のままで行くのだが、買うものが買うものだけに、目立たないようにパーカーとズボンに着替える。
目立つ髪の色も分からないようにかつらを被る徹底ぶりだ。
「ほな行ってきます。」
主の返事を待たずにヒロネは家を出た。
ヒロネが向かう下層市場の布屋街はその名前の通り服を取り扱う店が集まった場所だ。
「えーっと払下屋はっと…。」
企業や公社から払い下げられた制服を専門に扱う店もあり、ヒロネの目的地でもあった。
店の中には所狭しと警察や、看護士、学生服が並んでいる。
役者が衣装として買い取るほか、下のシンマチ地区のコスプレ風俗店が仕入れに来るなど意外に需要があるのだ。
ヒロネは膨大な服の中から、メンテナンス会社が用いる作業着に似た服を探した。
上下がグレーの作業着は多くあるが、ポケットの数や襟の形ができる限り似ているものを二着、見つけることができた。
作業靴は別の店で揃え、次は電気街に向かう。
工具箱とヘルメットを買い、ヒロネは家に戻った。
「旦那はん、は書斎か。さて、ミシンはどこしまったやろか?」
ヒロネは変装のクオリティを上げるため、買ってきた作業着にメンテナンス会社の社章を縫い付けることにした。
刺繍で入っているため、手で縫うのは不可能に近いが、最新の機械式ミシンなら図と色糸さえあればそれなりのクオリティで仕上がる。
家庭用にしては大きなミシンに台座の布と色糸をセットする。
タッチパネルを操作し、社章の画像データを送る。
すると、ミシンはゆっくりと針を動かし、刺繍していく。
その間にヒロネは再びアルカディア・ケミカルのポータルサイトにログインした。
先程見たメンテナンスのお知らせページに、今回の作業員の代表者名が書かれている。
それだけを確認をして、ヒロネは夕食の準備に取り掛かった。
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