第21話 ギャンブル・ロワイヤル!

所長室にはホノサキとその秘書がロミオを待っていたが、ロミオの入室と共に秘書は隣の部屋に移動した。

「コンゴウくん、あなたから私に用事なんて、珍しいわね。」

「ええ、まあ。ちょっとお願いがあって来ました。」

「お願い?報酬の件なら、待って頂戴な。金はそうそう用意できないのよ。」

「それではありません。ちょっと、欲しい物ができたんです。それを譲って頂きたくて。」

ロミオの言葉にホノサキの顔が険しくなる。

ロミオが欲しがる、ホノサキが所有するものといえば、家宝の像。

黄金の神獣像だ。

「言っておきますけど、我が家の家宝はダメよ。」

「それも魅力的ですが、もっと別のものです。それが欲しいんです。」

「?何かしら。勿体ぶらずに行ってご覧なさい。」

「ジュリを引き取りたい。」

ロミオの言葉にホノサキも鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

そして顔がいやらしく歪む。

「あーら、やっぱり情が移ったのね。ま、個人の性癖は干渉しないけれども、彼女はウチにとって大切な大切な存在なの。分かっておいで?」

「勿論ただではないですよ。」

ロミオはホノサキのデスクにアタッシュケースを置き、鍵を外して中身を晒した。

アタッシュケースを埋め尽くす黄金に流石のホノサキも息を呑んだ。

「折角ですから、賭けをしませんか?乗っていただけるだけでこの金二十キロを差し上げます。もし俺が負ければ更に二十キロ、お渡しします。」

「随分と気前が良いのね。そんなに、勝算がある賭けなのかしら?」

単純に中身に興味が湧いたのか、ホノサキはロミオに訪ねた。

「賭けの内容は簡単です。一週間以内にジュリをこの建物から外に出すことです。」

ロミオの言葉にホノサキは笑った。

「あら、とても面白い内容ね!でも、収容エリアのセキュリティをキリシマ主任から聞いていないのかしら?」

「実際この目で見ましたよ。ジュリの部屋も。彼女の髪の色が映える、いい色でしたね。」

「髪の色?…ああ、そういうこと。あの子の金色の髪、それが気に入ったのね。…でもあのセキュリティを破るのは不可能だわ。それでも挑戦チャレンジするつもり?」

ロミオは不敵な笑みを浮かべ、頷いた。

「俺は欲しいと思ったものは手に入れないとすまない性質タチなんですよ。それに、ご自慢のセキュリティを試すいいチャンスでは?」

ロミオのわかりやすい挑発に、ホノサキは迷った。

この黄金しか興味がない男が、人間に興味を示すなど考えられない。

必ず何か裏があるはず。

今の状態なら、賭けに乗ったとしてもロミオの勝算は無きに等しい。

それでも仕掛けてくる意味は?

一週間以内に、何かが起こるということか?

それとも、本気でジュリをあの部屋から救い出せると思っているのだろうか。

ジュリを盗み出すことは陽動で、やはり家宝の黄金像を狙っているのか?

「どうしました?所長。」

「…いいえ、あなたの本当の狙いは何かと考えていたのよ。あれだけ、あの子に無関心だったのに。」

「離れて初めて、大切なものに気がつく。よくある話じゃないですか?」

そう答えるロミオの顔はいつも通りの軽薄な笑顔で、全く心に響かない。

ロミオの真意を知るべく、ここは誘いに乗っておくべきか…とホノサキは決断した。

「いいわ、コンゴウくん。その賭け、乗るわ。ただし、あなたが社内で立ち入れるエリアはノンセキュリティエリアと調査部のオフィスのみ。キリシマ主任のラボを含む、実験エリアと収容エリアの入所権限は期間中、停止させてもらうわ。あとは、調査用スーツの電子通信機能を切らせてもらうわ。」

「了解です。」

「それと、キリシマ主任への通信記録も…」

「所長、そちらの手の内を明かしても良いんですか?」

ロミオの指摘に、ホノサキは口を噤んだ。

「そうね、ありがとう。嗚呼それと、会社に損害を与えるようなことはやめてね。爆破とか、クラッキングとか。」

「それは勿論!じゃ、早速明日から一週間、ということで。」

「ええ、でこの黄金はもらえるのよね?」

「ええそうです。では、所長、また一週間後。」

ロミオは最後に黄金を一撫でし、所長室を後にした。

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