第3話 孤児
ノルズの女房と娘たちが全力で世話したというだけのことはあった。
エルフの少女、ディニエルは前評判より遥かにまともに見えた。
肩に落ちかかる長い髪は陽射しの色に輝いて美しく、緑の衣からすらりと伸びる手足も均整が取れてこれまた美しい。光を宿す小さな唇。慎ましい胸。
ただ、それだけにと言うべきか、その瞳の暗い
まあ何だ、とヴェストリは白髪頭を掻いた。
「あれだ、俺はこう、隠し事なんざできねえ
「あんたに治癒術をかけたアダラって婆さん、占術も得意でな。さっき尋ねてみたら、こうしてあんたがこの村に来たことについても、あれこれ占ってみたんだと」
「そのことなら聞いています」
深い泉の底から届くような、温もりに欠ける声だった。
「『霧に包まれたようで吉凶判じ難い』とか」
「何だ。婆さんもう伝えてたのか」
「
「今さら放り出す訳にもいかねえ、か」
「はい。なので、村でもできるだけ端の方にある家に、ひとまず留まるように、と」
ヴェストリの家は小高い丘の上にぽつんと立って集落を見下ろしている。村の行く末を担う若い夫婦の家や女子供がいる家になど、得体の知れない
その点ヴェストリならば
「助けていただいた私が言うのも何ですが」
と、ディニエルは初めてヴェストリと目を合わせた。
凍り付いたような無表情からはどんな感情も読み取れない。
「正直、
「そいつはうちの孫に聞いてくれ」
「エルフの里ならまずありえません。掟を破ることは
ディニエルが窓の向こうに遠い目を向けた。
失われた故郷の景色でも眺めるかのようだ。
刺のある言動はできる限り大目に見よう。ヴェストリは改めて心に誓った。この痩せたエルフの娘は、同情を寄せるに余りあるものを抱えてここに辿り着いたのだろうから。
客に暖かい飲み物でも出そうと、ヴェストリが腰を上げた時だった。入り口の戸が大きく開いて赤ら顔の若者が姿を見せた。
「お、いたいた。怪我はもういいのか?」
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