第3話 彼女なんていざ知らず
1限目の授業に向かう電車は通勤ラッシュと被り、目的の駅の1つ前の駅に到着するまで中々座ることができない。しかし、一つ前の駅で座れるようになっても、今まで立ってきたんだという謎のプライドから大体立ち続けてしまう。この謎のプライドをどうにかしないといけないと思いながらも、電車での最大の悩みはここではない。
通学、通勤で電車を使っている諸君ならわかると思うが乗る車両と扉は大体決まっているものである。エスカレーターから1番近い扉を選ぶ人もいれば、降りる時のことを考えて少し離れた場所まで行く人もいる。かく言う俺道田は、小学生の時から降りるところを考えて乗る場所を決める派だ。このポリシーだけは19年間生きてきて一度たりとも破ったことはない。そこだけは自慢ができる。こんなことにこだわりを持っているなんて、小さな人間だと思うかもしれない。しかし、俺はこのポリシー、いや信念を守っていくと誓ったのだ。
だが、ここに来て最大の悩みがある。それは知り合いが同じ場所から乗ってくるのだ。しかもだ、彼女と一緒に。ここで気にかけて欲しいのは友達と言わずに、知り合いと言っていることである。名前も知っているし、互いに少し面識もある。しかし、いつか話した俺の友達の定義に当てはまらないので、知り合いなのである。それもただ彼女と一緒にいるだけなら良いのだがイチャイチャするのである。俺は彼女が出来たことがないので分からないが、なぜ知り合いの前でイチャイチャするのか。ヘイトが溜まって仕方がないのである。
これが道田電車の乱である。
今日も前記した乱を乗り越えたあとに、枝野を待っていると、枝野が何やら女性と歩いているのが見えた。乱を迎えたあとだったのであいつに彼女が出来たのかと考えてしまったが、一瞬で冷静な判断を下した。まさかそんなはずはない。まさか。ない。しかし、少しは可能性があり気になる。見ていると、女性とはその場で別れてこちらへ向かってきた。
「おー道田。なんやそんな顔して、彼女欲しくてたまらんのか」
「いや、なんで分かんねん。メンタリストなんか」
「違う、俺もほんの昨日までそんな顔してたからや」
「なんか言い方きもいな、どういうことや」
「俺彼女できてん」
「は?え?いやちょっと待て。その冗談はもう高校生までや。俺らはもう大学生やねんで。もっとおもろいギャグ言えよ」
「ギャグやと思ってんのか。見てたやろさっき。知ってんねんで」
「ほんまか?あのさっき一緒にいてた女の子か?」
「ふぅ。話すまでもない。そうや」
「え、どういうことや」
「流石の道田もちょっとうろたえているようやな」
「そらそうやろ。まさかお前にって感じや」
「言いたいことはわかる。けどこれは現実や」
「どこで出会ったんや」
「ああ、今から話したる。どうせ学校まで長いんや」
「いや、手短にでええは」
「まぁそう言わずに聞いてくれて俺の千夜一夜物語を。と言っても正確には、まだ彼女ではない。これから彼女になる」
「え?意味わからんこと言うな。どういうことや」
「まあそう急ぐな。これは昨日のことや。『安藤かなみ』って子からLINEが届いてんや。なんか聞いたことのある名前やなー。誰やったっけなーと思ってたわけよ。そしたら中学の同級生にいたような気がして、急いでアルバムを見た。そしたら、おった。しかも結構可愛い。LINEの内容は、『中学の時ぶりよね。あのとき気になってたんだけど中々言えずに居たんだ。久しぶりに合わないですか?』こんな文が送られてきた。俺は即答した。いいですよって。明日にでも会いましょう。そう送った。そうしたら今日の授業終わりに俺の学校近くのカフェで会うことになったわけよ」
「まじか。そんな机の引き出しに入ったらタイムスリップ出来るレベルの奇跡あんねんな。あれでもなんで授業終わりの約束やのにさっき一緒におったん?」
「今日のお前なんか突っ込み下手やな。なんか、たまたま一緒の電車乗ってん」
「なるほどな。どんな会話してたん?」
「かなみちゃん俺のこと好きすぎるんかな。結婚後のことも気にしてるんか知らんけど、お金のことも気にしてるみたいで、かなみちゃんに3万円払ったら絶対に15万円稼げる方法を教えてくれるらしいねん。俺との将来のことも考えてるんかーって、電車の中で泣きそうなったわ」
「あ、そういうことか」
「なんやそんな急に冷めたトーンで」
「それネズミ講や」
「え?なんやそれ」
「大学生によく聞く、急に連絡とってきたと思ったら人が変わったように勧めてくるやつや」
「どういうこと?」
「ねずみ講で検索してみ」
「うわ、まんまやん。え?つまり、かなみちゃんは俺のこと別に好きではないの?」
「現実は厳しいな」
こうして学校までの長い旅路は浪費されていく。
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