第2話 とらぬ宝くじの皮算用
大学へ向かう道中、鴨川を渡って少しした所に宝くじ売り場がある。
宝くじとは全く不思議なもので、当たらない確率の方が相当に高いはずなのに自分はもしかしたら当たるかもしれないという根拠のない自信から、つい手を伸ばしてしまうものだ。その度にああ、なぜあの時あんなにも当たる気でいたのだろうと過去の自分を信じれなくなる。根拠のない自信とは全く怖いもので、良いことにしか湧かないのだ。
この宝くじの一連の現象の逆ともいえるのが詐欺や事故などに対して起こる。まさか自分が事故なんて、詐欺になんて遭わないだろうと何故かたかをくくってしまう現象である。
宝くじが当たることも、事故や詐欺に遭うことも確率で言えばどちらも当たらない、遭わない確率の方が高い。しかし、良いことに対しては、もしかして自分ならと思うのだが、悪いことに対してはまさか自分がそうなるはずがないと思ってしまうのである。
今日も二十分を浪費する。
「おい道田ちょっと待ってくれ」
「なんや」
「いや、ちょっと宝くじ買っとこうと思ってな」
「やめとけよ当たらんぞ」
「いや当たる。当てるんや」
「絶対当たらんわ」
「まぁ見とけ。当てるから」
「まぁそんな言うんやったらな、お前の金で買うわけやし止めわせんわ」
「おばちゃん三千円分ください」
「はいよ。あたりますように。お兄ちゃん頑張りや!」
慣れた手つきでおばちゃんは紙幣を受け取りそれを宝くじに変えた。終始笑顔で接客してくれているおばちゃんは、一体何人のお金を夢に変えてきたのだろうか。
「これで当たるから。今度飯連れていったるわ」
「期待せんとくわ。てかあのおばちゃん頑張りやって言ってたけど何をどう頑張れば当たるようなんねんやろな」
「いや、ま、それは今後の行いをしっかりせえって言うことちゃう」
「そんなんで変わらんやろ」
「いや変わるでーお天道様は見てるんや、せめて宝くじの結果出るまでは変なことは出来ひんで」
「まぁ確かに悪いことしてたら回り回って自分のとこ帰ってくるって言うしな」
「そやでー、きっと俺のこと中学の時いじめてたヤンキーな、今頃毎日夜、携帯充電すんの忘れて朝困ってるで」
「いや、罰しょぼない。それお天道様仕事してないぞ。てかお前中学の時いじめられてたんか」
「まぁいじめられてたとか言うよりなんやろな、ちょっかいかけられてたな」
「どんな?」
「そやな、体育でプールの時間あったやん。そん時に靴下の片っぽだけめっちゃ濡らされてたりしてん」
「いや、やっぱしょぼいな。お天道様の罰合ってたわ」
「でもな最近そいつら結構不良になってるらしいねん。地元で会ったら怖い目みそうや」
「え、なんかあったん?」
「なんか友達がなそいらに会ってカツアゲされたらしいねん」
「うわ、やばいやん。お前地元荒れてんな」
「まぁ中学卒業してからそいつらに会ってないからな、まさか出会すみたいなことは無いと思うけどな」
「そうか、でも気つけた方がええで。もし宝くじ当たった時には近づいて来るで」
「そやな。ヤバイな宝くじ当たっても誰にも言わんとこ」
「俺にくらいは言えよ。ちょっとだけ気になるからな」
「なんやお前も当たる思ってんのか」
「いや、そういう事じゃないけどな一応や」
「ええよ、教えたる」
「おっけー待ってるで」
それから数日経った頃、宝くじの結果もでたが枝野から当選の報告は無かった。やっぱり外れたのだろうが、しかし、当たっているが言っていない可能性もゼロではない。なんせ宝くじは買った本人でなくても根拠のない自信が生まれるのだ。気になる。
「おい枝野そういえば宝くじどうやったんや」
「あぁ、あれな別にどうとも無かったで」
「ん?なんか言い方へんやな。なんかあったんか」
「べ、別になんもないで」
「いやなんかあるやろ。お前顔に出過ぎや。ポーカーフェイスの真逆みたいな顔してるぞ」
「・・・とられてん・・・」
「え?なんて声小さいわ」
「だから、とられてん」
「えっ?誰に」
「地元のヤンキーや」
「え?どういうこと」
「宝くじ買ってその日のことや。なんか嬉しなってな。夜コンビニ行くのにも持ち歩いとったんや。ほんならな、コンビニで買い物終わって出たら居ったんや。ヤンキーが。んで久しぶりやなーお前って声かけられて、怖なってな宝くじ置いてオトリにして全力で逃げたんや」
「お前なんかダサいな」
「お前分からんやろうけど怖かったでー。ちょっとちびるかと思ったもん」
「で、宝くじは失ってヤンキーにも遭遇したんか」
「そうや」
「取らぬ宝くじの皮算用やったわけか」
こうして二十分は浪費された。
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