第7話 罰当たり

とはいえ、そんなことを思わせるほど、勘太郎は魔界に引っ掛けて捜査しているということだろう。

藁天神こと敷地神社、魔界とは関係ないとは言っても、神社である。

一方の今宮神社は、崇徳上皇の霊を鎮めようと建立されたバリバリの魔界。

鑑識を筆頭に、全捜査員で、田崎のアパートまでを捜索して歩いたが、ショルダーバッグと刃物の行方は不明。

本間は、仕方なく藁天神の境内にまで、捜索の指令を出した。

約1時間後、本殿横の小さな祠の前で、捜査員が騒ぎ出した。

『冗談にしても、ほどがあ

 るで、あのアホ・・・。』

全員が、怒りに怒っている。

本間と勘太郎と佐武が近づくと、小林が賽銭箱を指差して。

『見て下さいよ。

 罰当たりな・・・。

 冗談にしても、ほどがあり

 ますよね。』

賽銭箱上部の格子状の木を少し壊して、ショルダーバッグが捨てられている。

佐武が中を確認すると、大量の血痕の着いたナイフが5本、出てきた。

『ここまでアホやとは・・・

 どうにもならへんなぁ。』

佐武は呆れるどころではなく、『これほどのアホを理解しよ

 うとすること自体が無理や

 と思うで。』

しかし、それでも殺人犯である以上、殺人の動機は探さねばならない。

最低限、それからの送検になる。

わかってはいるが、検察に丸投げしてしまいたくなる。

本間は、鑑定留置に回すことを考えている。

『木田・・・

 勘太郎・・・

 いっそのこと検察官に頼ん

 で鑑定留置に回すいう判断

 しても。』

それで、もし万が一精神疾患と診断されたら。

未成年ではなく、名前が出る年齢で、精神疾患という診断が出たりすると、しかも殺人犯として名前が出ると。

責任能力無しとされて。

罪には問えなくても。

社会的には、かなりの痛手を被るであろう。

とにもかくにも、凶器が出たことで、田崎康太の犯行は確定できる。

ショルダーバッグから、田崎の髪の毛が数本発見された。

ナイフからは田崎の指紋が。

大量に残っていた血痕は、神代孝幸のものだった。

しかし、この期に及んでも、罪を認めない。

『てめえ・・・

 ホンマに男か・・・

 女々しいにも、ほどがあ

 るで。』

殺人現場の殺人実行中の映像があり、凶器の刃物が発見されて、完全に立証された。

『今のまま送検してもえぇね

 んけど。

 お前に、そんな楽させへ

 んぞ。』

木田と勘太郎は、本間の意見に従って、鑑定留置を選択した。

『精神病の鑑定って・・・

 俺は、キチガイか・・・。』

田崎は恫喝しようとする。

当然、誰も相手にしない。

今は、キチガイという言葉は使わない。

古い差別用語である。

精神障害者と呼ばれ、精神障害者手帳を持つことになる。

この手帳を持つことは、決して悪いことばかりではない。

社会的福祉サービスの対象となる。

今なお、根強い差別が残っているので、仕事や婚姻は、まず不可能であろうが。

田崎の殺人事件には、強い殺意と計画性が、認められるであろう。

とすると、かなり重い判決になる可能性が大きい。

殺人犯として生きるのと、精神障害者として生きるのとでは、精神障害者の生活の方が自由である。

それでも、田崎のような身勝手極まりない人間には、精神障害者のレッテルの方が嫌なものらしい。

しかし、そんな戯言に耳を貸す者などいるはずもなく。

田崎は京都地検に送られて、検察官の申請により鑑定留置となった。

精神神経科の医師による診察が行われ、責任能力無能となれば無罪となる。


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