第6話 暴れ者にあるまじき
さて、犯人の田崎康太はしっかり逮捕できて、めでたしめでたしと思っていた捜査本部員達。
ところが、暴れん坊で粋がっていた田崎康太が、なんとも情けない。
保身ばかりで、潔さのかけらもない。
午前中、木田が正面で、筆記に小林がついていたが。
『往生際が悪過ぎますね・・・
暴れて怒鳴って、騒いでる
くせに、女々しいの。』
昼休みに小林が、勘太郎にぼやきまくった。
『飯の時ぐらい、あんなアホ
のこと忘れろ。』
勘太郎の言葉にうなずきながらも、怒っていた。
『ここやここや・・・
お食事処いのうえ。
おっちゃん、妖怪ラー
メン。』
真っ黒なスープに紫の中華麺、ピータンの目玉に赤いパウダーが振りかけられている。
いかにも妖怪っぽい見た目。
しかし、真っ黒いスープは、鶏系のスープと豚のスープのWスープに背脂。
鶏系スープは、しっかりとした鶏ガラで、豚のスープは、豚ロースを煮込んで出すスープ。そこに背脂ということは、言わずと知れた、王道の京都ラーメンである。
色の黒さは竹炭で出している。
紫の中華麺は、赤と青のクチナシを練り込んで色を出している。
ピータンの目玉を載せたら、赤いニラと赤パプリカのパウダーをたっぷり振りかけて、見た目を妖怪っぽくしている。
本格的で王道の京都ラーメンである。
『今日は、見た目で裏切られ
てばっかりですわ。』
小林は、変なところで上手いことを言った。
『こっちは、見た目より美味
かったですけど。
田崎は・・・
偉そうに粋がっても。
あれでも、男ですか。』
午後の取り調べも、木田と小林が担当。
勘太郎は、佐武達鑑識と共に、もう一度、カローラステーションワゴンの車内を調べている。
『もう、何も残ってないとは
思うんやけど。』
勘太郎は、そう言ったが。
『それがあかん・・・
鑑識に完璧と絶対はない
んや。』
佐武は、軽々と言ってのける。
『お前、ひょっとしてそれも
親父さんの。』
当然、受け売りである。
佐武の熱心さが勘太郎にも感染して。
勘太郎は、宮本喫茶店の防犯カメラの映像を見直し始めた。
科学捜査研究所の坂本主任研究員によると、神代孝幸の死因は、数種類の刃物による、めったやたらに刺されたことによる失血死である。
『どこで、どう持ち変えて。』
勘太郎の考えでは、数種類も刃物を準備したのだから、当然、交換し易くする工夫もしているはずということである。
その工夫と道具を探し出せば、もう、言い逃れもできなくなるはずということ。
突然、勘太郎が画像を止めて、無線機に向かった。
『サブちゃん・・・
鑑識室に、戻ってくれへ
んか。
木田警部補か小林のどちら
かも、お願いします。
そろそろ、田崎も休憩さし
たりましょう。』
勘太郎の無線連絡は、誰でも聞こえるチャンネルで行われたため、かなりの人数がやってきてしまった。
その人数をかき分けながら、佐武と本間がやってきた。
『なんや・・・
勘太郎、お前・・・
チャンネル切り替わってへ
んぞ。』
当然、取調室にも流れていたはずである。
無線機のスイッチを切って、振り向いた勘太郎。
『取調室で、田崎は、新しい
証拠でも見つかったのかも
って、今頃ビクビクしてる
でしょう。』
事実、取調室では、見張りの警官に、震えながら質問している田崎の姿が映っている。
勘太郎の心理作戦であった。
『どうやら、田崎は根性無し
ですさかい。
揺さぶりかけて・・・。』
と話していたところ、佐武が口を挟んだ。
『お前のこっちや。
単なる心理作戦だけやない
やろう。
何を見つけた。』
バレバレである。
たしかに、勘太郎が館内放送に近い形の無線連絡等おかしいと全員が思っていた。
『ちょっと、スローにした画
像ですけど。
田崎は、斜めがけしたショ
ルダーで、刃物の持ち変え
やってますよね。
ところが、ショルダーバッ
グと刃物が出てません。
今宮神社から藁天神近くの
アパートまで再捜査が必要
やと思って。』
またまた魔界の捜査かという空気感が流れた。
西陣警察署の向かい、北野天満宮は、学問の神様とされる菅原道真の神社である。
日本の天神の総本宮として有名な神社、しかも、菅原道真といえば、崇徳天皇と平将門と並び称される日本三大怨霊の一人である。
『藁天神いうぐらいやから。』
小林が、思ったのも無理はない。
その場にいたほとんどの捜査員が、そう思っていた。
『アホか・・・
藁天神は通称や・・・
本名は、敷地神社いうて、
神様は、スクナヒコナの尊。
健康の神様や・・・。
そやさかい、妊婦さんが、
元気な子供が産まれますよ
うにって、犬の日詣りする
んや。』
犬の日詣り。
小林にわかるわけがない。
妊娠5カ月目の妊婦が、犬の日に、ご祈祷済みの腹帯を巻くと、元気で健康な子供が産まれて育つと、京都で言い伝えられてきた。
菅原道真とは、関係ない。
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