第5話 意外な犯人。

さてさて、北野天満宮駐車場北口付近で、神代孝幸と揉み合っていた人物が特定できない。

関係者全員が、知り合いではないと言う。

捜査は、暗礁に乗り上げてしまった。

そんなある日、祇園乙女座に、秋葉原敦子が飲みにきた。

乙女座のホステス田上雅と大学時代の同級生という。

秋葉原敦子、孝幸の婚約者である。

敦子は、酔いが回るに連れて、饒舌になった。

『びっくりしたわよ・・・

 孝幸さんともめていたの康

 太だもん。

 あんな奴のこと、警察に話

 したりしたら。絶対復讐さ

 れちゃう。』

『大丈夫よ敦子・・・

 ここの女将さんの旦那さん

 が守ってくれるよ。』

『女将さんの旦那さんって。』

『俺ですよ秋葉原さん。』

勘太郎を見た敦子は、安心したように話し始めた。

『刑事さん・・・。

 実は・・・』

包み隠さず話してくれた。

孝幸ともめていたのは田崎康太。

敦子の学生時代の元彼ということだった。

学生時代から暴れん坊で、暴走族だったという。

かなりの札付きだったようだ。

地元のヤクザ組織にも入れてもらえなかった。

『最近のヤクザは、無用のも

 め事は嫌うからなぁ。』

暴力団対策法ができて以来、昔ながらのチンピラは、ヤクザにもなれなくなっている。

『ホンマは、そんな奴の方が

 事件になるんやけど。』

翌朝、捜査本部で勘太郎がため息をついて、本間と木田に相談した。

なるべく秋葉原敦子には影響を残したくない。

勘太郎が調べたところ、秋葉原敦子には、前はなかった。

補導歴も、見つからなかった。

『まったく普通の女の子。

 なんで田崎みたいなボンク

 ラに。』

本来、ボサっとしていてダメな奴のことだが、関西では、ダメ男を、全般的にボンクラと呼ぶようになっている。

付き合っていたと言っても、わずか半年で、敦子の方から三下り半を叩きつけていた。

しかし、田崎の方はあきらめが悪く、敦子につきまとうようになっていた。

『よし・・・

 田崎康太。

 任意同行で引っ張ろう。

 秋葉原敦子さんを守ること

 が先決や。』

本間が決断を下した。

木田と勘太郎が、GTR覆面で藁天神前の田崎のアパートに急行して、田崎を任意同行した。

その後、田崎が神代孝幸を刺した画像が出たため、逮捕状が出た。

神代味噌店に、佐武が電話して、秋葉原敦子に詳しく話した。

秋葉原敦子のショックは、並大抵のものではない。

もちろん、田崎につきまとわれる危険からは解放された。

そのこと自体は、喜んでいる。

しかし、同時に過去が社長の神代正幸に知られてしまった。

たぶん、神代味噌店には置いてもらえないと思って、複雑な気分になっている。

神代正幸社長は、しばらく勘太郎と話していたが、敦子に近づいて。

『敦子・・・

 辛かったやろう・・・

 孝幸は、もうおらへんけど

 できることなら。

 神代味噌店に、ずっといて

 くれよ。』

秋葉原敦子は、泣き出して。

『良いんですか・・・

 私なんかが、置いてもらえ

 るんですか・・・。』

『当たり前や・・・

 せっかく、あんなアホから

 解放されて、心置きなく能

 力が発揮できる環境が整っ

 たんや・・・

 手放すなんて、もったいな

 いことできるかい。』

会社として、味噌店として必要だから居て欲しいという言い方をしたもので。

秋葉原敦子も、輝くような笑顔を取り戻した。

『流石は神代社長・・・

 女性の心をよく理解されて

 おられますなぁ・・・。』

横で聞いていた本間が、感嘆したように声を上げた。

ところが。

神代社長が、本間に近づいて。

『話し方とかは、真鍋刑事の

 受け売りなんですよ。

 あの若さで、凄い。』

本間にしてみれば、勘太郎なら当たり前。

『あいつですか。

 あいつの嫁さんが、凄い女

 性ですからねぇ。

 祇園の会員制クラブ乙女座を

 ご存知ですか。

 あそこの女将。

 高島萌ちゃんが、あいつの

 嫁さんですねん。』

神代社長も、ようやく納得した。

『なるほど・・・

 家に帰ったら、女将の旦那で

 下手したらこきつかわれて

 いはる・・・。』

神代社長も、何度となく飲みに行き、萌がそんな女性ではないことを知っていた。

『お店では、うちの旦さん旦

 さんいうて自慢してはりま

 すさかいに・・・

 なるほど、真鍋刑事やった

 ら自慢になって当然や。

 しかし、警部さんも良い部

 下に恵まれてはります

 なぁ。』

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