第4話 とはいえ魔界も

北野天満宮の向かい側。

大将軍商店街が見えている。

菅原道真と言えば、平将門・崇徳上皇と並んで、日本三大怨霊に名前を連ねる。

ついでに大将軍商店街と言えば、京都妖怪ストリートと呼ばれる百鬼夜行が一条戻り橋へ向かう通り道。

見事に魔界だらけの地域。

商店主達も、逆手にとって妖怪で街起こしをはじめる始末。

『お食事処いのうえの妖怪ラ

 ーメンは食べてみたいです

 ねぇ。

 それから、山田コロッケ店

 。の妖怪コロッケも面白い

 らしいです。』

魔界グルメ刑事になりそうな勢いの勘太郎である。

しかし、本間と木田と勘太郎の3人に棟田を加えた4人は、サイゼリアで満腹。

佐武鑑識主任が、西陣署の鑑識室を借りて、何やら鑑定していた。

『勘太郎に頼まれて、カロー

 ラステーションワゴンに着

 いていたドライブレコーダ

 ーの映像を解析してま

 した。

 見事に、写っているもんで

 すね。』

今宮神社駐車場での画像が克明に写っていた。

『この前の時間の映像が見た

 いねん。』

貪欲なことを言う勘太郎。

『なるほど、今宮神社駐車場

 に停まってからの映像いう

 ことは、神代孝幸は殺され

 た後いうことか。

 写っている連中から犯人を

 割り出すのは、難しいちゅ

 うことやな。』

勘太郎と佐武は、孝幸の車に戻って、ドライブレコーダーカメラ本体を取り外しにかかった。

近頃、流行りの簡易取り付け方式のためか、ものの5分ほどで外れてしまった。

『こんな簡単な取り付けであ

 れほどの高画質映像が残る

 んやなぁ。』

勘太郎は、感心しきりだが、佐武は、当然と思っている。

『当たり前や・・・

 日本製やで。』

本体の記録媒体に、他の映像がないか調べるつもりだった。

佐武が、また鑑識室に籠った。

今回は、勘太郎も横に座った。

神代味噌店の会社駐車場から孝幸専務が乗り込んでいた。

『今朝の9時には、孝幸さん

 は生きてはる。』

勘太郎が独り言を呟いた。

北野天満宮の駐車場で、誰かと会っている。

直後に映像が途切れた。

そこから画像が真っ黒になった。

何者かによって、レンズが隠された。

『クッソ~・・・

 どこまでも用意周到な犯人

 やなぁ。』

勘太郎は、悔しがったが、佐武は違った。

ここからが鑑識の真骨頂と言わんばかりに。

『今日は、俺は帰らんとここ

 で作業する。

 まだまだ、資材が山積みや

 からなぁ。』

カローラのタイヤの溝から採取してきた付着物を鑑定していた。

それと、画像が隠された時間から、犯人がカローラに乗った距離を算定して。

殺人現場を特定しようという考えだった。

翌朝、佐武が鑑識室で机に臥せて仮眠していた。

目が覚めて、大きなアクビをしていると。

『おおきに・・・

 上七軒の喫茶宮本どす。

 真鍋さんいうお方から、佐

 武さんいうお方に届けるよ

 うに言付かりました。』

熱いコーヒーと厚切りのトーストとゆで玉子という関西のモーニングセットである。

しかも、佐武に付き合って徹夜した4人の分もある。

『あの野郎・・・

 粋なことしやがって。』

鑑識作業員の徹夜組は、和気藹々で、捜査本部の捜査員の出勤を待った。

勘太郎のGTRは、午前8時半には、到着していた。

西陣署の今出川通りに向いた会議室。

正面駐車場を見下ろせる。

窓際で、サーバーのコーヒーを飲んでいた勘太郎が。

空になったプラスチックのコップを置いて部屋の出入口を見た。

駐車場に、本間の覆面パトカー、が入ったのだ。

木田と科捜研の坂本も同乗していた。

捜査員全員にビリッとした空気が流れ、朝のミーティングが始まる。

『ということを総合的に考え

 ると。

 天満宮駐車場の北入口辺り

 が殺害の現場やと思われ

 ます。』

佐武が説明している間にも、勘太郎はウズウズ。

北野天満宮の駐車場、北口。

先ほどの宮本喫茶店の目の前だ。

ミーティングが終わったとたん走り出した勘太郎。

喫茶宮本のドアを開けて、出前の支払いをした。

『それと・・・

 マスター・・・

 玄関の防犯カメラの映像を

 見せてもらえませんか。』

坂本と佐武が追いかけてきて。勘太郎の考えを理解した。

喫茶宮本のマスターが、親切に勘太郎が頼んだ時間の、前後1時間まで含めて、DVDをコピーしてくれた。

3人は、西陣署の鑑識室に戻って、画像のチェックを始めると、婦人警官が、サーバーのコーヒーを運んできてくれた。

首をかしげる3人。

5人分ある。

数分して、本間と木田が入ってきた。

映像では、明らかに、孝幸と揉み合っている場面が写し出されていた。

『ようもまぁ・・・

 こんな映像、喫茶店のオー

 ナーも、コピーしてくれた

 なぁ。』

木田が不思議そうに言った。

それについては、坂本と佐武も同じ意見。

『しかも、朝の、俺ら鑑識班

 徹夜組にしてくれた。

 モーニングの差し入れ。

 後払いやろう。

 親切過ぎひんか。』

佐武には、そのあたりも引っ掛かっていた。

『マスターの宮本が、大学時

 代のバイト仲間で、今でも

 友達ですねん。』

なんとも簡単で勘太郎らしい答えに、みんなで爆笑していたが。

さて問題は、ここから。

孝幸と揉み合っていた人物がわからない。

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