第3話 北野天満宮

北野天満宮の近くに、用品店がある。

被害者の着ていた作業服に、その店のタグが縫い付けられていた。

そのタグに、クリーニングの札が取り付けられていた。

『神代味噌店』

西大路に近い、一条通に本社と店舗がある。

『とりあえず、その店に連絡

 をしました。

 確認に来てくれるというこ

 とです。』

棟田が、飛び上がるほど喜んだのは、その発見はあのモタモタの新人君だった。

佐武が、めちゃくちゃに褒め称えているが、そこに棟田と本間と木田も、勘太郎まで加わったから本人はたまらない。

そこに、タウンエースのライトバンが到着して、恰幅の良い男性と。

スレンダーだが、少しやつれた女性が、カローラステーションワゴンに向かって走ってきた。

『専務・・・

 専務の車です。

 専務・・・。』

女性が、半狂乱で車にとりついた。

被害者は、既に鑑識車両の荷台に祭壇を設えて安置されている。

恰幅の良い男性は、本間が挨拶している。

『京都府警察本部捜査1課課

 長の本間と申します。

 こちらの被害者さん、御社

 の社員さんでよろしいで

 すか。』

肩書きも何もわかつてはいないが、一応問題にならないように挨拶した。

『ありがとうございます・・

 私は、神代味噌店代表取締

 役で、神代正幸と申します。

 こいつは、私の次男坊で当

 社の専務取締役を任せてお

 ります孝幸です。

 この娘は、孝幸の婚約者で、

 秋葉原敦子。

 当社の商品開発をやってく

 れております。』

詳しい説明だが、目に涙をいっぱい貯めて、鼻声になっている。

本当は、早く連れて帰りたいに決まっている。

ただ、鑑識の鬼ジュニアが、まだ頑張っていた。

京都府警察本部と書かれた、遺体搬送車が被害者を乗せて、京都府警察本部に向かう。

『ご遺体は、私共で清拭させ

 ていただきます。

 その後、ご指定の場所まで

 お送りいたします。』

京都府警察本部ができる、せめてもの、被害者への供養である。

『私共の気持ちとしては、お

 湯に入れて差し上げたいの

 ですが。』

本間は、申し訳なさそうに言う。

葬儀社に頼めば良いのだが、被害者家族の負担が増えてしまう。

『天神さんか・・・

 なんでわざわざ・・・

 今宮神社なんやう・・。』

勘太郎が呟いた。

北野天満宮は、神代味噌店から歩いて数分。

今宮神社も、そう遠くはないが徒歩の距離ではない。

『神社の駐車場という場所に

 は意味はなさそうやな。』

ただ単に、死体を遺棄する場所として使っただけのようだ。

今出川通り、北野白梅町の交差点から東へ500メートルはなさそうな道路の北側、少し広くなったスペースがあり、天満宮の大鳥居がデンと構えている。

言わずと知れた、学問の神様、菅原道真の神社である。

大鳥居から真っ直ぐ奥に、本殿がある。

そして、大鳥居に向かって右側に駐車場。

今出川通りは、片側2車線で道幅30メートルはあろうかという大通り。

その今出川通りを挟んで、大鳥居の真正面は、京都府警察西陣警察署である。

大鳥居の下の、少し広く石畳になったスペースにGTRの覆面が停車すると、目敏く見つけた街のお巡りさんが、飛んできた。

『こらこら君達・・・

 そんな所に車停めたらあ

 かん。』

車から降りた勘太郎が、赤色回転灯を屋根に乗せて回して、お巡りさんに敬礼した。

『府警本部捜査1課凶行犯係

 第1凶行捜査班班長真鍋勘

 太郎巡査長であります。

 捜査1課課長本間警部。

 同じく、凶行犯係係長木田

 警部補同行で、捜査の途中

 で立ち寄りました。』

街のお巡りさんからすれば、スーパースターのオンパレードである。

あわてて西陣警察署内にとって返し。受付に報告した。

当然ながら、署長以下数名の刑事が飛び出してきた。

警察署前の大鳥居が見える駐車場には、警察署員が連なった。

京都府警察本部が誇る敏腕トリオが、超有名になったGTR覆面パトカーで、目の前にいると聞いて、見たくない警察官はいないであろう。

婦人警官などは、キャーキャー言いながら、スマホを向けている。

『署長・・・

 騒がして申し訳ない。

 聞き及んでいるかもしれま

 せんが、今宮神社駐車場の

 変死体、殺人事件になりま

 して。

 被害者が、すぐそこの神代

 味噌店さんの専務さんいう

 ことで、遺体清拭室をお借

 りしたいんですけど。

 もしかしたらもしかし

 ます。』

捜査本部を西陣警察署に置くかもしれない。

勘太郎が、覆面パトカーを西陣署の駐車場に移した。

遅れて鑑識車両が、西陣警察署に入った。

後ろに、神代味噌店のタウンエースライトバン。

神代社長と西陣署署長は、当然顔見知り。

『署長・・・

 この度は、お世話になり

 ます。』

『いやいや社長・・・

 この度はとんでもないこ

 とで。』

通りいっぺんの挨拶を交わしていると、神代味噌店の社員が駆け付けてきた。

被害者の神代孝幸は、ストレッチゃーに移され、白い布を掛けられた。

まだ血塗れで泥だらけである。

『皆さん、先に孝幸さんのお

 身体を綺麗にして上げたい

 んです。

 皆さんのお気持ちは、よう

 わかりますけど。

 少しだけ、待ってあげても

 らえませんか。

 私は、鑑識課主任の佐武と

 申します。』

佐武のナイス挨拶である。

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